第9話 朝から気分が悪くなる奴とは話したくない

「はっ! これは⋯⋯夢⋯⋯」


 子作りについて口にしようとしていたララさんが気絶してしまったのでベッドに移したが、5分程で目を覚ましたようだ。


「そう⋯⋯よね。私が決闘で負けるわけないわよね」


 ん? 何だかララさんは目が虚ろで周りが見えていないように感じる。


「ましてや私が奴隷に落ちて男性と同じベッドで寝るなんて⋯⋯ふふ、夢で良かった」


 1度気絶したことにより完全にララさんの記憶は都合のいいように改竄されているようだ。


 俺はそんなララさんを現実に戻すために背後から肩をトントンと叩く。

 するとララさんは後ろを振り向き俺と目が合った。そして絶望の表情を浮かべこれは夢ではないということを察したようだ。


「まさか現実だったなんて⋯⋯」

「まあ何ていうか⋯⋯がんばって?」

「あなたに言われたくないわ。次は勝ってこの奴隷関係を解消してみせるから」


 深く条件を決めていなかったけどララさんの中ではそういうことになっているんだな。


「でも実力で勝ってみせるから手は抜かないでよね」

「わかっているよ」


 一瞬わざと負ければこの同居生活を終わらせることができると頭に過ったけどララさんに考えを読まれていたようだ。実力で勝つか⋯⋯どうやらララさんは曲がったことが嫌いな性格らしい。


「朝食の用意が出来たので召し上がって下さい」


 俺とララさんが起きる前からルルさんが準備してくれたご飯がテーブルに並ぶ。

 メニューは白米、味噌汁、サラダ、オムレツ、焼き魚、野菜ジュースと素晴らしいラインナップだった。


「すごく美味しそうだ」

「お口に合えばいいですけど」


 ルルさんは謙遜しているが料理の見た目と匂いでこの朝食は美味しいと断言できるだろう。


「朝からありがとう。すごく助かるよ」

「いえ、私にはこれくらいしか出来ませんから」


 これくらい? それはどういう意味なんだろう?


「この子は魔力と神器がEランクだから私の世話係としてクワトリアに来たの。まあ本人はスレイヤーになることを諦めてないから一応学園には通う予定よ⋯⋯無駄なのに」


 Eランクか。だから教師はルルさんを蔑んだ目で見ていたのか。この世界で必要とされているのは強い魔力と神器を持つ者。実体験からそのランクでスレイヤーを目指すとなるとルルさんが今までどんな扱いをされてきたのか容易に想像ができる、

 そのような扱いを受けてもスレイヤーを目指すということは俺と同じ何か譲れない想いがあるのだろう。

 そしてそんなルルさんをララさんは良く思っていないようだ。


「ほら、ユウトも冷めない内に食べなさい。料理だけはルルは得意だから」

「あ、ああ。それじゃあ頂きます」


 俺はこの場に流れた気まずい空気の中、ルルさんが作ったオムレツに手を伸ばし口に入れる。


「美味しい⋯⋯中身がふわふわでこんなに旨いオムレツ食べたのは初めてです」

「本当ですか? 美味しいって言ってもらえて嬉しいです」

「ルルさんは良いお嫁さんになりそうですね」

「そ、そんな⋯⋯私なんて⋯⋯」


 顔を赤くして照れるルルさんは可愛いな。平和な世界ならとても人気があっただろう。

 だがこの世界では魔物から身を護るために魔力、神器のランクが高い者との婚姻が望まれる。それは魔力、神器のランクは遺伝的に引き継がれる可能性が高いと言われているからだ。

 そのためルルさんは容姿は優れているが子を産む妻としては不適格とされるだろう。

 俺も神器がFランクだからルルさんの気持ちはすごくよくわかる。神器を授かる前は婚姻の申し込みがたくさんあったが、神器がFランクとわかるとそれらは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。そして両親からも⋯⋯。


「ルル良かったじゃない。学園を辞めてユウトの嫁になったら?」

「「えっ?」」


 俺とルルさんはララさんの突拍子のない言葉に思わず驚きの声を上げてしまう。

 いったいララさんは何を考えているんだ。出会って1日の俺とルルさんに対して夫婦になれだなんて。


「私なんてユウトさんに釣り合いません。それにスレイヤーになるのは私の夢ですから」


 ルルさんは真っ直ぐな目で決意を口にする。その表情から俺は並々ならぬ覚悟を感じた。


「無意味な努力を⋯⋯それより2人も早くご飯を食べないと遅刻するわよ」

「確かにもう時間はなさそうだ」

「急いで食べます」


 こうして俺は美味しい朝食を食べ、学園に向かう準備をするのであった。


 そして俺達は寮を出て3人で学園に向かったが、2人は職員室に行くとのことで別れ、俺は1人で教室へと向かう。


 クワトリア学園は3年生の学校で1学年約40人の1クラスしかなく、皆スレイヤーになるために日々研鑽している。

 この学園に入学する者は魔力、神器の両方がCクラス以上の者がほとんどであるため、Eクラス以下の者は俺以外にいないのが現状だ。


 俺は今日から2学年になるため2階の教室へと向かい中に入る。

 座る場所は黒板に記載されていたので俺は窓側の1番後ろの席へと進む。

 すると周囲からヒソヒソと話す声が聞こえてきた。


「えっ? あの人進級出来たの?」

「スルン先生のコネで上がったんだろ」

「けど2年からは城壁の外で実践訓練があるから3年になることはないだろう」


 クラスメートのエライソと取り巻きのスリエ、トンゴから謂れのない言葉が聞こえてくるが1年前からこの手の嫌がらせを受けていたので俺は無視する。


「おいユウト! どうやって進級したのか教えてくれよ。裏技でもあるのか?」


 そしてエライソは陰口をたたくだけではなく直接話しかけてきた。


「そんなことはしていないし知らない」

「お前とスルン先生は特別な関係だっていう噂があるんだが」


 俺はスルンさんの片眼をもらっているので特別な関係であるのは間違いないけどこのことは世間に公表されていないのでエライソが知っているわけがない。おそらくエライソは卑猥な関係だと言いたいのだろう。


「初めて聞いた噂だが⋯⋯根拠のない噂話をするとエライソの品位を下げることになるぞ」

「それは俺を挑発しているのか? また1年の時みたいに決闘でボコボコにしてやろうか?」

「やれるものならやってみろ」


 俺とエライソのやり取りで教室が異様な空気になる。

 エライソがケンカを売ってくるなら買ってやる。俺はそう思っていたが⋯⋯。


「ホームルームを始めるから席にすわれ」


 我がクラスの担任と思われる女性の先生が教室に入ってきて生徒に座るよう促す。そしてクラスメート達が席に座り教室が静まり返った。


「私の名前はソニア。今日からこのクラスの担任になる」


 スタイルが良くグラマラスな先生で初めて見る顔だ。


「まずは転校生2人を紹介する⋯⋯入れ」


 そしてソニア先生の案内で教室に入ってきたのは予想通りの人物だった。


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