第10話 容姿が良いのも大変です
教室に入ってきたのは予想通りララさんとルルさんだった。
「2人ともそっくりだ」
「双子?」
「滅茶苦茶可愛くないか!」
どうやら転校初日の掴みはオッケーのようだけどこの後起きることを考えると少し憂鬱になる。
「2人とも自己紹介をしろ」
「ドレストから来たララよ。よろしく」
「姉さんの妹のルルです。よろしくお願いします」
ララさんは少しぶっきらぼうに、ルルさんは丁寧に挨拶をするとクラスメート達がざわめき始める。
「ララってまさかAランクの魔力でSランクの神器を持つことで有名な?」
「すげえ奴がクワトリアに来たな」
「でも妹さんは確か⋯⋯」
ララさん程の魔力や神器を持つ人は数えるくらいしかいないので別の都市の人でも噂で聞いたことがあるらしい。そして⋯⋯。
「Eランクの出来損ない」
「ドレスト領主家の恥」
「姉にスレイヤーとしての才能を全て吸い取られた妹」
だがララさんが有名なことでその対比の存在となるルルさんのこともクラスメートは知っているようで聞くに堪えない言葉が放たれる。
もちろんその言葉はルルさんにも聞こえているようで気まずそうに俯いていた。
こいつらは本当に魔力や神器の面しか見ていなくて腹が立つ。それが当たり前なのかもしれないけど俺は看過することは出来ない。
俺は席を立ち上がりクラスメート達に注意しようとするが⋯⋯。
「早く座りたいから席に案内してくれる」
「ルルはユウトの隣、ララは1番前の列の窓側に座れ」
ララさんが一声かけるとクラスメート達は黙り、2人は指定された席へと座る。
今のはララさんがルルさんを助けたのかな? だけど普段ララさんはルルさんに厳しいから本当に早く座りたかっただけなのか判断がつかない。
「ホームルームは以上だ」
そしてソニア先生転入生である2人を紹介するとさっさと教室から出ていってしまった。
ソニア先生はあまり余計ことは喋らないタイプなのかな? こちらとしてはホームルームで無駄に長い話を聞かずに終わってありがたい。
そしてソニア先生が教室からいなくなるとクラスメート達は一斉にララさんの元へと向かう。
「私はマリカ、よろしくね」
「ララさんはSランクの神器を持っていてすごいな」
「今度一緒に訓練しませんか?」
さすがに有名人だけあって人気が凄い。ララさんは一瞬でクラスメートに囲まれてしまった。
しかしそんなララさんとは違いルルさんの所には誰も話しかける者はいなかった。
同じ日に産まれた姉妹なのに神の采配でこんなに扱いが違うなんて⋯⋯。
不憫に思うが不平等なこの世界では当たり前のことだ。だからせめてルルさんの気持ちがわかる俺だけでも彼女の味方でありたいと思う。
「ルルさんと同じクラスで良かったよ」
「私も新しい学園で少し不安がありましたけどユウトさんと同じクラスで安心しました」
「これから
「こちらこそよろしくお願いします」
学園だけではなく自宅でも世話になるので改めて俺は挨拶をする。
「おいおい、ユウトはそのEランクと仲が良いのか?」
俺がルルさんと話をしていると突如割って入ってきたのはエライソと取り巻きのスリエとトンゴだ。
「クラスメートとして俺も話させてくれよ」
ルルさんをEランクと呼ぶことから絶対に転校初日の子と仲良くなりといった類いではないことがわかる。
「俺はエライソ、Bランクの魔力と神器を持つものだ」
「私はスリエ」
「トンゴだぞ」
「ルルです。よろしくお願いします」
そう、エライソが偉そうにしている理由はBランクの魔力と神器を持っていることだ。学園にBランク以上の者は数少ないのでエライソの自尊心を保つ1つなのだろう。
「ほう⋯⋯見た目は悪くない」
エライソは舐めるような視線をルルさんに浴びせる。
「子を成すのは勘弁だが遊び相手としてはちょうど良さそうだ。お前、俺と付き合え」
こいつは初対面の人相手になんてことを言うんだ!
「失礼だろ」
「失礼⋯⋯だと⋯⋯。魔力や神器の弱い奴に役割を与えてやろうと言っているんだ。これ以上名誉なことはないだろう」
「エライソ様に目をつけられるなんて光栄なことですよ。魔物に襲われた時に助けて頂けますから」
「そうだそうだ」
取り巻きのスリエとトンゴまでエライソの言葉を肯定してきた。こいつらバカなのか? エライソに一目惚れでもしない限りその話を受けるなんて愚かな真似は絶対にしないだろう。
「申し訳ありませんがお断りします」
そしてルルさんは愚かな人物じゃなかったためエライソの提案を拒む。
「貴様!」
エライソはルルさんに拒絶されたことを許せなかったのか掴みかかろうと手を伸ばした。
「やめろ」
だが俺はエライソの手がルルさんに届く前に2人の間に入り、そして伸ばされた腕を掴む。
自分の誘いに乗らなかったからといって襲いかかるなんて最低な奴だな。その行動を俺の前で許す訳にはいかない。
それにしても妹が悪漢に絡まれているのにララさんは助ける素振りがないんだな。俺が思っている以上に2人の確執はあるということか。
「下賤な者が俺に触るな!」
エライソは俺の手を払いのけ、これ以上ルルさんに近づけないと悟ったのか1歩下がる。
そして殺意を持った目で俺を睨み付けてきたため、この場に一触即発の空気が流れる。
エライソの気性からしてこのまま引き下がるとは思えない。この場を収めるためには一悶着は避けられないか。
ガラガラ
「授業を始めるぞ! 席に座れ!」
だかこの空気の中、教師が1時間目の授業を始めるために教室のドアを開けて教壇へと向かう。
「ちっ! タイミングが悪い。覚えてろよユウト」
エライソは吐き捨てるようなセリフを残し自分の席へと向かう。
こちらとしてはタイミングが良かったので助かったな。
「ユウトさんありがとうございます」
「この学園には変な奴がいるから気をつけて」
「わかりました」
「それより授業が始まるから座ろ」
「はい」
こうして双子の転入初日は、ララさんは皆から尊敬な眼差しを受け、ルルさんは差別的な視線や言葉を受けることになり、さらにはルルさんはエライソという傍若無人な奴に目をつけられることになってしまうのだった。
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