第8話 リズミカルな包丁捌きで朝起きたい

 トントントントン


 どこからかリズミカルな音が聞こえてきて俺の脳が覚醒していく。


 あれ? この音はなんだ?


 そうだ。昨日は神器が覚醒してAランクのララさんに勝ったんだ。そして奴隷になる約束でララさんと妹のルルさんが俺の家に来てそれで⋯⋯。


 思い出した! 夜になってララさんとルルさんが俺のベッドに入ってきて抱きしめてきたから脱出する機会を窺っていたけどそのまま寝てしまったんだ。


 背中からの温もりは消えている。あるのは前方からの温もりのみ。俺は恐る恐る目を開けると至近距離でルルさん⋯⋯いやララさんの顔があった。そしてタイミングが良いのか悪いのか俺が目を開けてから2秒後にララさんの瞳が開く。


「お、おはよう⋯⋯」


 とりあえず咄嗟に挨拶をしてみたけど昨日は背中側にいたララさんはいつの間にか前に回り込んでいたんだな。

 さて、とりあえずララさんも起きたことだしベッドから降りるか。

 俺は何事もなかったかのように身体を起こそうとするがそうはいかなかった。


「あ、あなあな⋯⋯」

「穴? 穴なんてどこにもないけど」

「キャアァァァッ! あなた何してるのよ!」


 突然ララさんから空気を切り裂くような悲鳴が聞こえ周囲に鳴り響く。


「この変態! 死になさい!」


 そして殺気を込めた声と共に蹴りが放たれたため、俺はまともに腹部に食らってしまい、ベッドの下に落とされる。


「寝ている隙にベッドに侵入してくるなんて絶対に許さない! 私の持っている全ての力を使ってあなたを抹殺してあげるわ!」

「ここは俺のベッドだ!」


 俺は勘違いしているララさんに向かって真実を伝える。


「そんなはずないわ! ここは私のベッド⋯⋯じゃない!?」

「むしろララさんとルルさんが俺のベッドに入ってきたんだけど」

「私とルルが? 実はあなたが寝ている私達をベッドに連れ込んだんじゃないの!」


 ララさんがとんでもない冤罪をかけてくる。こうやって罪のない人が捕まるんだなとわかったが幸いなことに俺は憲兵に連れていかれることはなかった。何故ならこの時俺の味方をしてくれる人が現れたからだ。


「姉さん、ユウトさんおはようございます」

「おはよう」

「あんた何でそんなに冷静なの! 会って1日しか経っていない男の毒牙にかかったのよ! ルルはもう心の底から奴隷根性が染み付いているのね」


 ベッドに侵入したからさらに罪が重くなったぞ。このままだと学園を退学どころか牢屋に入れられてしまいそうだ。


「昨日ユウトさんは姉さんに何もしていませんよ」

「そんなのわからないわ! きっと欲望の塊を私達の肢体に押しつけてきたのよ!」


 押しつけてきたのは俺じゃなくてララさんとルルさんの胸だけどな。


「姉さんはお手洗いで起きた時にそのままユウトさんのベッドに入っていましたよ」

「えっ! ルルは起きてたの!?」

「目が覚めて姉さんがユウトさんを抱き枕にしていたから私もそれに習って⋯⋯ポッ⋯⋯」


 いや、そこで顔を赤くされると何かあったように思われるじゃないか。


「あんた私の妹に何をしたのよ!」

「な、何もしてないぞ」

「怪しいわね⋯⋯絶対に何かしたでしょ!」


 俺は2人の胸の感触を堪能していたこともあり思わずどもってしまった。


「ユウトさんは本当に何もしていませんよ。何か変わったことといえば私達のお腹に赤ちゃんがいることです」

「ルルさん何言ってるの!」


 ルルさんの予想だにしない爆弾発言に俺は突っ込みを入れてしまう。


 赤ちゃん⋯⋯だと⋯⋯。

 この子は何を言ってるんだ! 確かにルルさんとララさんと同じベッドで寝た。だけどそれでも俺はやってない!

 それとも寝ている時に俺は大人の階段を昇ってしまったというわけか! 初めての体験を覚えていないなんて最悪だ。

 いや、そんな自分のことよりもしルルさんの言葉が本当なら俺は1人の男として責任を取らないといけない。

 2人を養っていくために学園を辞めて働かないといけないし、親である領主様に結婚の許しをもらわくちゃならない。

 大事な娘に対して同時に手を出したんだ。もしかしたら殺されるかもしれないけど俺はそれだけのことをしてしまったから甘んじて受けいれるしかないな。

 だけどスレイヤーになってスルンさんの代わりに世界を護る夢は捨てられない。働きながら鍛錬していつかきっと一人前のスレイヤーになってみせるぞ。


「ルル、あなたさっき何もしてないって言ってたわよね!?」

「言いました」

「それで何であ、赤ちゃんが出来るのよ!」


 赤ちゃんと言うのが恥ずかしかったの顔を真っ赤にさせて話すララさんが少し可愛い。


「男女が一緒のベッドで寝ると赤ちゃんができると聞いたので⋯⋯違うのですか?」


 ルルさんが澄んだ目をしなから首を傾げてララさんに問いかける。これは本気で言っているのか? 領主の娘だから箱入りで育てられたと言うわけか。だが姉であるララさんは見たところ赤ちゃんが出来る方法を知っているようだ。

 ルルさんの問いに対してララさんがなんて答えるのか少し楽しみだな。


「そ、それは⋯⋯」

「私の知識は間違っていますか? 他に赤ちゃんが出来る方法があるなら教えて下さい」


 真剣な目で質問する妹に対して姉の顔は益々赤くなっていく。


「あ、赤ちゃんが出来る方法は⋯⋯男の人のゴニョゴニョが⋯⋯」

「えっ? 何ですか?」

「だから男の⋯⋯」


 ララさんはルルさんの問いに答えようとしているが、やはり恥ずかしいのかそれとも男の俺がいるのが気になっているのかハッキリ赤ちゃんが出来る方法を口にすることができない。そして最終的には⋯⋯。


「プシュ⋯⋯」


 ララさんは恥ずかしさが頂点に達したのか顔を茹でダコのように赤くしてその場に倒れてしまうのであった。





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