第4話 諦めてばかりでは強くなんてなれっこない

 俺はララさんが放った光の玉を受け地面に崩れ落ちたが辛うじて意識を保つことができた。


「ぐ⋯⋯あ⋯⋯」


 たぶん手加減してくれたんだろうな。もし本気でAランク相当の攻撃を食らったらFランクの俺が堪えれるはずがない。


「低ランクの割にはよくやったけど私の勝ちね」


 ララさんは地面に這いつくばっている俺を上から見下ろし勝利宣言をしている。


 また負けたのか⋯⋯これで1,001敗だ。

 神器の魔力がないならと身体能力を鍛えてきたけど覚醒した力を使われると手も足もでないし、何より俺の剣が相手に届くことがない。


「貴方はスレイヤーになるのを諦めた方がいいわ。身体能力だけで魔物を倒せる程スレイヤーの仕事は甘くないのよ。その努力が届かないことは私はよく知っているから」

「姉さん⋯⋯」


 ララさんは何故か観客席にいるルルさんを見つめ呟く。


「やっぱり努力の剣では生まれ持った才能には勝てないの? あのお方ならもしかしてと思っていましたが⋯⋯」


 無駄な努力⋯⋯その言葉は何度も言われてきた。いくら魔力が高かろうが神器がFランクならスレイヤーは無理だと。

 魔物によって崩壊しかけているこの世界では魔力と神器の2つが高い者が求められていて、俺のような奴は期待もされず蔑まれている。

 このまま鍛錬を続けても何者にもなれない。もうスレイヤーを諦めて他の道を目指した方が楽になれる。そんな誘惑が頭の中に過った。


「そのまま寝てなさい。あなたがスレイヤーにならなくても私が魔物からこの世界を取り戻してみせるわ」

 

 Aランクの魔力を持ちSランクの神器を持つララさん。確かに俺とは違って人類に取って救世主と言える存在であり、有言実行できる可能性はある。

 スレイヤーの道を諦めればもうきつい鍛錬や心ない言葉をもらうこともなくなるかもしれない。


 俺はゆっくりと目を閉じた。


 そして再び力強く目を見開き、身体中に走る痛みを堪えて立ち上がる。


「なっ! あなたバカなの? これ以上戦うと本当に死ぬわよ」

「強大な⋯⋯相手だからといって⋯⋯諦めていたら強くなれないんだよ⋯⋯」


 こんなただの決闘で勝ったからといって何かが変わる訳じゃないということはわかっている。だけど俺は他の人と比べて明らかに劣っているからどんなことでも全力で取り組まなくちゃいつまで経っても強くなんかなれないんだ。


「頼んだぞ! サウザンドブレード」


 俺は剣を持ち切っ先をララさんへと向ける。するとサウザンドブレードから何か魔力のようなものが身体に流れ込んでくるのを感じた。


「な、なんだこれは⋯⋯もしかしてこれがお前の⋯⋯」


 この時俺はサウザンドブレードの本当の使い方を理解することができたため、隠された力を解放する。


「急に何なの? まさか覚醒!?」

「待たせて悪かったな。どうやら俺の神器がやっとやる気を出してくれたらしい」


 俺はサウザンドブレードを使って自分の周囲に光の玉を生み出す。


「そ、それは私と同じ!?」


 ララさんも俺と同じ様に慌てて光の玉を作り始める。

 そして俺は生み出した光玉をララさんに向かって解き放つ。


「食らえ!」

「させないわ!」


 ララさんも作り出していた光玉をこちらに向かって放つ。すると互いの光玉はがぶつかり合い爆発音と共に消滅する。


「嘘でしょ! 私の攻撃はAランクの魔力が込められているのよ。まさか貴方の力は私と同じとでも言うわけ!?」

「そうかもしれないな」

「そんはわけないわ! 光の檻よ、彼の者を封じ込めなさい!」


 ララさんは先程と同じ様に光の檻を召喚し閉じ込めようとしてきたため、俺はサウザンドブレードを使って光の檻をなぎ払う。すると光の檻を簡単に消滅させることができた。


「嘘! さっきは何も出来なかったのに!」


 今の俺はだけどララさんと同じ神器を使用することが出来ている。そして魔力ランクは俺の方が高いのでどちらの攻撃が強いのかは明白だ。


「どんなカラクリか知らないけど例えクラウソラスと同じ能力を持っていても私は負けるわけにはいかない!」

「俺もこれ以上負けるわけにはいかない! 勝って世界を護るスレイヤーになるんだ!」


 俺とララさんは互いに近づき渾身の一撃を繰り出すと神器同士が交差する。

 一瞬互角のように見えるが剣の速度、重さ、魔力の大きさと全てこちらの方が勝っているため、サウザンドブレードがクラウソラスを天井へと弾き飛ばす。


「そんな!」


 そして俺は武器を持たずがら空きになったララさんの脇腹に向かって剣を振るう。


「わ、私が⋯⋯負ける⋯⋯なんて⋯⋯」


 そしてララさんはまともに俺の剣を食らいその場に崩れ落ちたため、決闘は終わりを遂げる。


「不敗の剣と呼ばれた姉さんが敗北するなんて信じられないです」


 そしてルルさんが倒れたララさんの元へと駆け寄る姿を見て、俺の意識は闇の中へと落ちるのだった。


 こうしてユウトは1.001回目の決闘でサウザンドブレードの覚醒に成功し、Aランクの魔力を持つと言われたララに初めて勝利することができた。そしてこの戦いによって新たな英雄が生まれたことをこの時はまだ誰も知るよしがなかった。

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