第3話 幸せな記憶を持ったまま死ぬわけにはいかない

 ここは先手必勝! 一気に蹴りをつける!


 俺はルルさんに向かって突撃をかけるが、ルルさんも同じ事を考えていたのかこちらに接近してきたので頭部に向かって剣を振り下ろす。


「姉さんやめて!」


 だが突如聞こえてきた声に俺とルルさんはすんでの所で剣を止める。

 そして互いに一歩下がり声がする方に視線を向けるとそこには⋯⋯ルルさんがいた!

 まさか双子か? 確かに校舎裏で会ったルルさんはおとなしい性格に思えたけど目の前の少女は勝ち気な性格に見える。


「ルル! 何故止めるの!」

「姉さんはAランクの魔力を持つんだよ! 決闘はお父様にもしないように言われているでしょ!」


 Aランク⋯⋯だと⋯⋯。高ランクだと思っていたけどまさかこの世界に数える程しかいないAランクの魔力持ちだったとは。


「それにSランクの神器で攻撃したら相手の人が⋯⋯」


 Fランクの俺が攻撃を受ければ魔力フィールドはあっという間に破られ死ぬ確率が高いだろう。この少女は本当に決闘の最中に俺を殺すつもりのようだ。


「この男は私の⋯⋯私の裸を見たのよ! 万死に値するわ」

「は、裸を! そ、それでもやりすぎです」

「うるさい! 私に命令しないで! は、裸を見られたらけ、結婚しなくちゃならないのよ! それなら始末してなかったことに⋯⋯」


 この子は滅茶苦茶物騒なことを口にしているな。最初は記憶を消すだったのにいつの間にか生死に関係する話になっている。しかも裸を見られたら結婚っていつの時代の人だよ。まあその貞操観念は嫌いじゃないけど。


「と、とにかく貴方をこのままにはしておけないわ!」


 少女は両手に持った剣を横になぎ払ってきた。


 速い! 思っていたより鋭いスピードで剣が胴に迫ってきたので俺はかわすことができずサウザンドブレードで受け止める。


「私の剣を防ぐなんてやるじゃない」

「君こそ悪くない太刀筋だ」

「私の名前はララよ。殺され⋯⋯倒される相手の名前くらい覚えておきなさい」


 今この人殺されるって言いかけたよな! やはりこの決闘に乗じて俺を殺る気だ! 決闘を受けたのは間違いだったかもしれないな。


 だが俺もそう簡単に殺られる訳にはいかない。


 ララさんは剣を右に左にと連続で攻撃をしかけてくるが俺は太刀筋を読み、紙一重でかわしていく。それにしてもララさんはこの学園の生徒にしては珍しく剣を振り回しても重心のブレがなく、剣術の基礎が出来ていることがわかる。


「くっ! 当たらない!」


 ララさんは自分の剣がかわされることに焦りを感じているのか表情が歪む。

 そして攻撃が当たらないことに苛立ちを覚えたのか上段から振り下ろされた攻撃が大振りになっていたので俺は胴を目掛けて横一閃に剣を繰り出すとララさんの腹部をもろに切り裂く。


 しかし切り裂いたのは制服だけでララさんの身体からは血の一滴も出ておらず、かすり傷一つつけることが出来なかった。


 やはりFランクの神器ではララさんの魔力フィールドを切り裂くことは出来ないか。おそらく1,000回くらいダメージを与えないとララさんの身体に俺の剣が届くことはないだろう。


「悔しいけど剣術は貴方の方が上のようね」

「ララさんも中々な腕前だと思いますよ」

「だけど私の魔力はAランク、そして神器はSランクよ。私に傷をつけられなかったということは神器はDランク以下ってことかしら」

「魔力はS、神器はFランクだ」

「魔力S!? そういえば聞いたことがあるわ。クアトリアには期待はずれの不適格者がいるって」


 それは間違いなく俺のことだ。

 例えどんなに高い魔力を持っていても神器の持つ魔力以上の力は発揮できない。だから俺がルルさんの魔力フィールドを切り裂いてダメージを与えることができないのはこの世界ではわかりきったことだ。

 だけどどんな困難があろうと諦めるわけにはいかない。なぜなら俺を護ったばかりにあるAランクのスレイヤーが戦えなくなってしまったのだから。


「でもそんなことは関係ないわ。私は今、目の前にいる貴方に全力で挑むだけよ」


 例え下位ランクが相手でも手を抜かない。その姿勢に俺は好感を覚える。例え歴然とした差があっても俺は全力で戦って欲しいと思っているからな。


「それならララさんの全力を見せてもらおうか」

「驚いて腰を抜かすんじゃないわよ」


 ララさんが自信満々に応えると持っていた白い剣が光に包まれる。すると先程から感じていた魔力のプレッシャーがより一層強くなった。


「これが私のファーストアギト。光の力を自在に操ることが出来るのよ」


 ファーストアギトは神器の力を覚醒させた状態でスレイヤーの証でもあり、覚醒する方法はそれぞれの神器によって違う。ちなみに俺の神器であるサウザンドブレードはまだ覚醒していない。


「あなたも早く神器を覚醒させた方が良いんじゃない? 全力を出さずに負けると悔いが残るわよ」

「残念だけど俺の神器がまだその時じゃないって言っているだ」


 もちろん今の言葉はハッタリで少しでも俺の神器を警戒して隙が出来ればと淡い期待を持って言っただけだ。


「減らず口を。それなら何も出来ずに死になさい!」


 ララさんは離れた位置で剣を振るといくつもの光の玉が生まれこちらに向かってきた。


「かすっただけでも全てを滅する光玉よ! 凌ぐことができるかしら?」


 わざわざ教えてくれるなんて余程自信があるのかそれとも⋯⋯。


 俺はこちらに向かってくるいくつもの光玉をかわしながらララさんに接近し、右肩に一太刀を与える。


「嘘! 今の攻撃も避けるの!?」


 ララさんは信じられないと言った表情をしているだけで、俺の攻撃に関しては全くダメージを受けていないように見える。


「でもいつまで私の攻撃をかわせるかしら? それにあなたの攻撃なんて雨粒くらいにしか感じないわよ」

「それなら雨粒だって何万、何億回叩きつければ大岩を砕くことができるって所を見せてやる」


 俺はララさんの左右に周り剣を何十回、何百回と打ち込む。


「くっ! 何なのこれは! 速すぎて対処できない」


 ララさんは俺の動きについて来れずなす術もなく攻撃を受けている。


「俺の体力が持つかそれともララさんの一撃を受けてしまうか勝負だ!」


 今の俺が勝つにはこれしか方法がない。

 しかし俺の意図などララさんの圧倒的に魔力によって消し飛んでしまう。


「うざったいのよ!」


 ララさんの剣から放たれた光がララさん自身を包み込んだため、俺は思わず距離を取り後方へと下がる。


「これじゃあ近づくことができない」


 光がララさんを360度護るシールドのようになっているため、接近するだけでダメージを受けてしまう。


「その神器でここまで戦えたことを褒めてあげるわ」


 ララさんがそう口にすると突如上空より光の檻が落下してきて俺は閉じ込められてしまった。


「くっ! これでは逃げられない!」


 俺のサウザンドブレードでは光の檻を切り裂いて脱出することなど出来ない。もしこのまま攻撃されたら⋯⋯。


「これで終わりよ」


 ララさんは先程と同じ様に光の玉を生み出してこちらへと放つ。すると俺はなす術もなく光玉をまともに食らい、その場に崩れ落ちるのであった。



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