第6話 逃げなければならない

「にーに。 爺ちゃん。ご飯出来たよ〜」


「出来たわよ。お爺さん。拓人」


「おー。有難うな」


「すまんのう。めぐみ。妙子」


家族団欒が一番楽しい。

そんな事が思える時がこの食事時。

俺は思いながら皿を出したりして手伝う。


実の所、俺は料理は出来ない。

下手くそなのだ。

だから婆ちゃんの羽柴妙子(はしばたえこ)とめぐみが手伝いながら料理を作ってくれる。

今日のメニューは回鍋肉だった。

新聞を読んでいる爺ちゃんの羽柴正三(はしばしょうぞう)が、のう。拓人や。今日は楽しかったかな?、と聞く。


「ああ。楽しかったよ。.....めぐみにも話そうって思ってる」


「.....何?にーに」


「お前さ。花鈴って覚えているか?」


「.....うん。覚えているよ?引っ越したよね.....」


「その花鈴と再会したんだ」


「それは嬉しい出来事だね!?じゃあ赤飯だ!」


めぐみは目を輝かせる。

今から作るなよ?、とツッコミを入れながら俺は苦笑いを浮かべる。

そしてそのまま回鍋肉と味噌汁、たくあんとかが並ぶ。

婆ちゃんが俺に向いてきた。


「たんとお食べ。.....今日はお祝いの日だねぇ」


「婆ちゃん恥ずかしいって」


「でも祝いものじゃろ?拓人。しっかり祝い事は祝わないとな」


「.....爺ちゃん.....」


正直言って.....恥ずかしいのが一番だ。

だけどこうやってみんなが歓喜してくれるならいっぱい食べるか。

俺は考えながらそのまま箸を持ってから、いただきます、と食べ始める。

めぐみ&婆ちゃん手作りの回鍋肉を。

すると爺ちゃんが、のう。拓人や、と声を発した。


「.....どうしたの?爺ちゃん」


「.....学校は.....楽しいか」


「.....正直言って色々あるけど。.....でも楽しいよ。爺ちゃん。それにそれはあまり言わない約束だろ?」


「.....何かあったら直ぐに爺ちゃん達に言うんじゃぞ。拓人」


「ああ」


俺達はそんな会話をする。

するとめぐみが話題を切り替える様に、そういえば今日ね。すっごい可愛い猫が居たの!、と満面の笑顔になった。

俺達は顔を見合わせてから、そうなんだ、と答える。


茶碗の鳴る音。

味噌汁を飲む音。

全てが幸せだった。

この日常を.....必ず壊さない。

俺は改めて決意しながら.....話にまた参加した。



この家には俺個人の部屋はない。

俺とめぐみの部屋だけだ。

その為に2段ベッドに寝ている。

年金生活の爺ちゃん婆ちゃんになるだけ負担を掛けさせたくないのだ。

だから贅沢はしない。


「回鍋肉美味しかったね。にーに」


「そうだな。.....お前はやっぱり料理上手だな」


「にーに。有難う」


ベッドから俺を見てくるめぐみ。

俺はその姿を見ながら笑みを浮かべた。

それからめぐみの頭を撫でる。

やん。くすぐったいよにーに、と笑みを浮かべて言ってくるめぐみの頭を。


「.....大丈夫か?学校生活は」


「.....大丈夫だよ?.....楽しいよ。にーに達のお陰で」


満面の笑顔を浮かべる我が妹。

それから俺の手を優しく握ってくる。

俺はその手を優しく握る。

そして見合った。

すると.....めぐみがいきなり真剣な顔をした。


「.....ねえ。にーに。私に何か黙ってない?苦労してない?」


めぐみは俺を見てくる。

心臓が口から飛び出そうになった。

俺はドキリとしながらも電灯を見上げてから。

そのまままためぐみに向いて笑みを浮かべて回答する。

ないよ、と。


「.....何でいきなりそう思ったんだ?」


「いきなりじゃないんだ。.....ああいう親だからきっと何か.....にーにを利用している気がしてね」


「.....」


正直.....めぐみに隠し通すのは限界に近付いて来ている気がする。

だがめぐみにはどうしてもこの事実を知ってほしくはない。

でも何だろうな。


この言い方はマジに迫って来ている。

ヤバい気がする。

早めに何とかしなければ、と思う。


「いきなりじゃないのか。.....お前も心配性だな。.....もう逃げたろ?あそこからは」


「.....そうだね。.....にーに。安心だよね?」


「.....そうだな。安心としか言いようがない」


「この場所って良いよね。爺ちゃんも婆ちゃんも居るから」


漫画を読み始めるめぐみ。

俺はその姿を見ながら机に向く。

すまないめぐみ。

まだ知られる訳にはいかない。

お前に対しては、だ。


「にーに。好きだよ」


「.....馬鹿言え俺達は兄妹だぞ。何言ってんだ」


「そういう好きじゃないって。.....私はにーにの事が大好きなのは人として好きなの。だから恋じゃないって」


「.....そうか。なら良いが」


俺は言葉を発しながらそのまま勉強をする。

あのクソ親のせいで随分と俺は勉学熱心になった。

妹のめぐみを愛せる様になった。


その点には感謝しようと思う。

だけど今でもずっと俺は恨みを忘れない。

めぐみを.....絶望に追いやった親を。

いつか許せるだろうか。

そんな奴らを。

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