第10話 帰ってきたみな子③

「お父さん、初めてアパートで会った時にお腹減ったからなんか食べさせてって言ってたじゃないですか?もう、今更なに言ってるんですか。」

「あ?そうやったね。」

男は恥ずかしそうに頭をポリポリと掻いた。

「えっと、これ頼んでいい?」

男が指で指し示すものをもと子は頼んでやった。店員が厨房に向かうのを見て、もと子は男に向き直った。男はビールを前にして正座をしている。


「じゃあ、お父さん。乾杯する前にお聞きしていいですか?」

男は神妙な顔でうなずいた。

「私はもと子です。お父さん、まずはお名前を教えてください。須崎…何ですか?本当にリュウさんのお父さんなんですか?リュウさんとあんまりかわらないぐらいお若いですよね?今日はお母さんはどうされたんですか?」

「俺は日向ハヤトや。みな子ちゃんの再婚相手やから須崎ちゃうねん。みな子ちゃんは今、あんまり体調が良くないからホテルで待ってる。」

「本当にリュウさんのお母さんのダンナさんなんですか?」

もと子にジロリと見られてハヤトは慌ててスマホを出した。


「この写真見て、これみな子ちゃんや。リュウそっくりやろ?」

何やら書類を前ににこやかに微笑み、肩を寄せ合う二人。女は疲れた顔をしているもののかなりの美人。しかもリュウによく似ている。

「この書類は?」

ハヤトは拡大してみせた。

「この間、やっとみな子ちゃんと婚姻届出したんや。」

日付を見ると、本当に最近であった。


「今まで結婚していなかったんですか?」

「ウン、ずっと一緒に住んでたけどな、リュウを探しているうちにみな子ちゃんのダンナが死んでるってわかったから届け出してん。ホンマはもっと早くに結婚したかってんで。」

心底、嬉しそうに話しだすハヤト。

もと子は思わずハヤトをジッと見た。

よく見ると整った顔。若い頃はかなりのイケメンだったんじゃない?

え?この人、もしかして…


と、その時、もと子の頭の上から声が降ってきた。

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