第9話 帰ってきたみな子②
「えっと、お義父さん?今日はまだ買い物に行ってないのでウチにはなんにも食べるものがないんです。今からリュウさんに連絡取りますから3人で何処か食べに行きましょう。」
「外食?エエなあ。何食べよかな?」
男は中華?和食?と嬉しそうに悩み始めた。
作り笑いで会釈して、もと子は急いでリュウに電話した。
「もしもし、リュウさん?」
「オウ、もとちゃん、どうした?俺ももう帰るで。」
「早く帰ってきて!リュウさんのお父さんが家の前に来てるんです。」
もと子の焦る声。
「オヤジ?」
リュウは驚いた。義父はアルコールで肝臓をやられて死んだ。そして実の父については、ものごころがつく前に両親が離婚したリュウは父の顔を知らない。
「お父さんというんですけど、見た目は40代なんです。リュウさんのお父さんにしては若すぎでしょ?」
「それ、おかしいな。もとちゃん、俺も大急ぎで帰るけど、大丈夫か?」
手早く机を片付けたリュウは、電話しながら事務所のドアを閉めると走り出した。
「家に上げてくれって言われて。でも家で二人きりでリュウさんを待つのは怖いので外食しようってことにして、これからどこかお店に入ってもいいですか?」
「ナイスや!アパートの見えるところに居酒屋あるやろ。あの居酒屋で酒も飲ませて、食べるのに時間かけて、そいつの足、止めといて。」
リュウは通りに出ると大急ぎでタクシーを止めた。
タクシーに乗り込んだものの、少しして渋滞に巻き込まれた。
「まだ動きそうにないですか?」
後部座席から身を乗り出して運転手に聞くリュウ。
「この時間、ここまで混まないんだけどね。なんかあったんかねえ?お客さん、お急ぎなら電車の方が早そうだね。」
リュウは急いで料金を払うとタクシーから飛び降り、駅に向かった。
駅に着いて、改札前に立て札が立っているのに気がついた。
え?人身事故!
電車は当分動かない。タクシー乗り場の方を見ると長蛇の列。
もとちゃん、無事でいてくれ!
リュウは隣の駅まで歩き始めた。
もと子はリュウの言う通り、アパート近くの居酒屋に男を連れて行き、入口から少し奥まった上り框の四人席に落ち着いた。
「お父さん、何飲みますか?まずはビール?」
「そやなあ、やっぱりまずはビールかな。」
もと子はビールを頼むとメニューを男に渡した。男は嬉しそうにメニューを広げ、ながめ始めた。
「ええと、ホッケと揚げ出し豆腐と…」
ビールを持ってきた店員にもと子が男の食べたい物をリクエストしようとした。
男は嬉しそうにビールを受け取ろうとしてから、ハタと気がついたように申し訳無さそうにもと子を見た。
「お嫁ちゃん、ゴメン、久々のビールに舞い上がってた。俺、金無いんやった。」
心底ガッカリした顔の男にもと子はビールを渡した。
「気にしないでください。今日は私とリュウさんがご馳走させてもらいますから。」
もと子の言葉に男の顔はパアッーと明るくなった。
「ゴメン、エエのん?」
初めから奢られるつもりだったくせに、と思っていたもと子だったが男の素直な笑顔にプッと吹き出した。
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