第11話 帰ってきたみな子④
「待たせたな、もとちゃん。」
もと子が見上げると、息を荒らげて髪も乱れ気味のリュウが怖い顔で立っていた。リュウはもと子の隣に座るとハヤトを睨みつけた。
「アンタか?俺の親父になりすましてる奴は?」
リュウの殺気にビビりながらも必死の体でハヤトはこたえた。
「お、俺はホンマにリュウ、お前の親父や。なんてったって、みな子ちゃんのダンナなんやから。ほら、見てみ。」
ハヤトはビビりながら、もと子に見せていたスマホの写真を見せた。
「う…母ちゃんや。母ちゃんはどうしてん?なんでここに居らん?それに何の紙、持ってるねん。」
「リュウさん、それ婚姻届らしいですよ。しかも最近の日付。」
リュウはハヤトからスマホを奪い、拡大した。
「ホンマや。お前、日向ハヤトっていうんか。婚姻届の日付もついこのあいだや。」
リュウはハヤトにスマホを返した。
「母ちゃんとはいつ知り合った?今まで何してた?」
リュウの剣幕に様子を見ていた店員がようやく料理を持ってきた。店員から料理を受け取りながらもと子も聞き耳を立てた。
「10年ぐらい前かな?俺、売れへんホストやってな。たまたま行ったスナックで、働いてたみな子ちゃんと知り合ったんや。みな子ちゃん、優しくてよう慰めてくれたんや。」
「ちょっと、待て!10年ぐらい前?母ちゃんが俺のバイト代も我が家の有り金全部持って逃げた時の相手か?お前のせいで俺等はどんだけ苦労したと思ってるねん。」
リュウは怒りでこめかみに青筋が立ってきた。
「え?あの時、リュウも虎ももう大きいから、DVのダンナから逃げていいよって言ってくれたんちゃうん?みな子ちゃんからそう聞いたで。」
「そんなんあるわけ無いやろ!あの時、俺は高校生、虎は中学生やってんぞ。」
「違うかったんか。」
リュウの話を聞くなりハヤトは、急に座布団をずらしてリュウに向かって頭を畳に擦りつけた。
「すまんかった。みな子ちゃんは逃げたいばかりにそんなこと、言ったんやろ。それを俺は鵜呑みにしてしもた。お前らまだ子供やったのに。」
周りの客達がハヤトの姿をチラチラ見ている。リュウは悔しげな表情のままつぶやいた。
「やめろよ。こんなところで。みんな見てる。もうエエって!」
リュウはハヤトに頭を上げさせた。
「それで今頃何しに来てん?」
「みな子ちゃんの体調良くないし、そろそろ落ち着いて暮らしたいと思ったんや。それで、リュウが税理士になったって噂聞いてな、…こんなん、厚かましいねんけど援助してくれへんか?この通りや!」
ハヤトはまたも頭を畳にこすりつけた。
「…話にならんわ。もとちゃん、帰るで。」
リュウはサッサと立ち上がると靴を履いた。
「待ってくれ!みな子ちゃんには会ってやってくれ!ホンマに体調悪いねん。」
ハヤトがリュウの腰に取りすがった。
「お前ら、ホンマは厚かましいなんて思ってへんやろ!母ちゃんに言っとけ。俺らが病気になったって、お前らは絶対に帰って来んくせに自分の時だけ甘すぎるわ。二度と俺の前に現れんな!」
リュウがもと子を連れて店を出ようとすると店長に呼び止められた。
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