第7話 母の行方⑦
おみくじをひきたそうにチラチラともと子はリュウを見る。リュウはニヤリと一言。
「もとちゃん、ひく?俺は頂上の一の峰さんでひくわ。」
「あ、じゃあ、私も!」
「お山のいろんなお社でおみくじ引けるみたいやな。」
「そうなんだ。じゃあ一の峰さんで引いて、もし凶が出たら他所でも引いちゃおう。」
「そんなんしたら俺のおみくじをなんやと思ってるねんって神様に思われるで。」
ウッと詰まるもと子。階段を降りていくリュウの後ろをもと子は慌ててついて行った。
振り返って待っていたリュウと手を繋ぎ、もと子は続きを聞きたがった。
「母ちゃんが出て行って、親父はアル中で入院や。俺と虎は別々の施設にって言われて、虎と別れたくなかったから俺は高校を辞めて虎を養おうと思ってた。だけど梶原のおばちゃんや担任が頑張ってくれて、おかげで今のアパートに2人で住んだまま卒業できたんや。」
話している間に2人はニノ峰に到着。ニノ峰の外観は三ノ峰と同じ。2人は手を合わせたあと一ノ峰を目指した。
「そういえば、社長さんとはいつ出会ったんですか?」
「ああ、瀬戸さん?高校の時にバイトしてたコンビニの客がおやじ狩りにあって、それを一緒に助けてくれたんが、瀬戸さん。」
「おやじ狩り!ケガしませんでした?」
もと子は心配そうな顔でリュウを見上げた。リュウはそんなもと子の頭にポンポンと軽く手を置いた。
「心配してくれてありがとう。瀬戸さんも俺もこの程度のケンカは全然平気や。それどころか、簿記一級とこのケンカで瀬戸さんに見込まれてクラブに就職できたんや。」
「人生、何が幸いするかわかんないですね。」
「ホンマやで。いろいろあったけど、今はええ嫁さんもろて、終わりよければ全て良しやな。」
もと子は嬉しそうにリュウに身を寄せてうなずいた。
そして一ノ峰に到着。その外観は二ノ峰、三ノ峰と同じ。お社の向かいにある売店で買ったお供物を台座にお供えし、2人は手を合わせた。
「リュウさん、お供えは持って帰っていいんですよね?」
「もちろん。今夜はお下がりのお神酒で晩酌や。」
お供物をリュウがカバンに入れると早速もと子はおみくじの筒を振り始めた。続いてリュウもおみくじをひく。
「油断するな、とありましたけど吉でした。リュウさんは?」
「俺、吉凶相半やって。心に迷いがあると出てる。うーん、何か迷うようなことあったっけ?」
「まあ、これはこれで記念ですよ。それよりリュウさん、お昼、何食べます?」
「そやなあ、いなり寿司だけじゃ足らんなあ。よし!名物の雀の姿焼き行こか。そのまんま雀やで。」
「そのまんま…やっぱり私はいいです。」
「遠慮すんな。連れてったるから任しとけ!」
「あ、いや、あの…」
困り顔のもと子の腕を取ると、リュウはいたずらっぽくウインクした。これから、おみくじの意味を知ることになるとは思わず2人はじゃれ合いながらお山を降りていった。
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