第6話 母の行方⑥
「そうやねん。母ちゃんのスナックのパート代が無くなって困ってな、民生委員やってた梶原のおばちゃんに教えてもらって親族里親っていうのにじいちゃんがなったんや。」
「里親?親族なのに?」
「うん。今にしたらなにそれ?って感じやろ?親族でも里親になれるねん。そうするといろいろお手当が出るから助かるんや。けど、少ししてじいちゃんが死んで、ばあちゃんも体壊してな。そんな時に母ちゃんが帰って来たんや。ばあちゃんがあてにならんとわかると今度は結婚するって、俺らを連れて家を出たんや。」
「リュウさん、親子で暮らしてどうでした?」
「新しいオヤジはおとなしい奴で母ちゃんにベタ惚れや。でも、またすぐ母ちゃんの浮気が始まって、オヤジ、酒飲んでは俺ら親子を殴る蹴るや。仕事で大怪我して、ますますや。」
「それじゃ、どんどんお母さんは他所の男の人のところに行ってしまいますよね。」
「そやねん。ただ俺がオヤジを殴り返してからは俺のいる時は俺らを殴ることはなくなった。でもな…」
リュウが話す途中で四ツ辻に到着した。
四ツ辻は稲荷山の頂上へと行く道の登りの道と下りの道の2つの道とリュウたちが上がってきた道、もう一つの別のお社への道の四つの道がクロスする。辻の角にはお茶屋があり、飲み物を買ったり、きつねうどんやいなり寿司などの軽食を楽しむことができる。
四ツ辻に着き、2人は今来た道を振り返った。そこは大きくひらけており、先ほどよりずっと京都が一望できる。京都の街並みを囲むように遥か向こうに見える山並み。青空が抜けるように高い。
リュウともと子は茶屋でお茶を買うとベンチに腰掛けて一服した。
「結構いい運動になりますね。こんなに見晴らしいいなんて!登って良かった。」
もと子はリュウに微笑みかけると美味しそうにゴクゴクとペットボトルを傾けた。
「うん、頑張って登ったご褒美みたいな景色やな。」
リュウもペットボトルをあおると大きく伸びをした。しばし、広々とした景色を眺めていると足の疲れも回復してきた。
「あと一息ですね。行きますか?」
リュウはもと子とベンチを後にして茶屋の横の道を登り始めた。
「リュウさん、続きは?」
「うん、俺が高三の時に母ちゃんは家中の金持って若いホストと駆け落ちしたわ。」
そこで三ノ峰の社が見えてきた。2人は参道から階段を上がった。石でできたお社にはお供物を置く台座と座ってお参りできるように腰掛ける台がある。お社の周りを取り囲むようにたくさんの小さな鳥居や祠を祀ったお塚がある。お塚は個人的に祀った神様。いにしえからの信仰の深さを物語る。2人はお社の前に座って手を合わせた。
もと子は合わせた手を下げ、ふと周りを見た。何やら細かく字が書いてある板が立てかけられ、おみくじ筒のようなものがそばにある。
「あれはおみくじ?」
「ああ、稲荷山のお社にはただで引けるおみくじがあるらしいから、そうちゃうか。」
ラッキー!とばかりにもと子は近くに寄ってみた。それはやはりおみくじだった。
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