第5話 母の行方⑤

しかし、音が小さかったためか、こだまはかえって来なかった。

「こだま帰ってけえへんかったな。あんな奴やから、母ちゃん、死んだんかな…」

「そ、そんなことないと思いますよ。こだまでわかったらみんな苦労しないですもん。」

「そうやんなあ。ごめん、俺、あんな奴のこと考えるなんて、どうかしてる。ホンマ、ごめんな。」

焦ってフォローするもと子に、リュウは寂しげに微笑んだ。



 気まずい雰囲気が続き、リュウはずっと黙ったまま。もと子もなんと声をかけて良いか分からず黙って歩き続けた。道中、沢山の鳥居が立ち、お稲荷さんを祀った塚が所々に見られた。


そして道が三又に別れた三つ辻に到着。

「ここは右側に行くねんな。」

リュウはもと子の方を振り向いた。

「もとちゃん、なんか暗くなってしまってごめんな。さっきから考えててんけど、いい機会やからやっぱり俺の母ちゃんの事、聞いてくれるか?」


リュウが口を聞いてくれなかった理由がわかり、もと子はホッとした。

「聞かせてください。」

真面目な顔のもと子にリュウは寂しげにうなずいた。


「俺の母ちゃんな、みな子いうねん。自慢する訳やないねんけど、スゴイ美人。玉の輿に乗ってんけど虎太郎産んだ頃に浮気がバレて追い出されたんや。」

「ええ!リュウさんと虎さんはどうなったんですか?」


「姑がオヤジの再婚に差しつかえるから子供は要らんって、俺らは母ちゃんの方にやられた。」

「自分の孫でしょ。ひどいですね!お父さんの気持ちは違うかもしれないじゃないですか?」

もと子は険しい目をして憤慨した。リュウはもと子と目を合わさずポツリ。


「オヤジも愛想尽きたんやろ。」

「そんな…」

「実家に戻っても母ちゃんは男と遊んでた。じいちゃんとばあちゃんは可愛がってくれてんけど貧乏やったわ。」

リュウはふと遠くを見るような目をした。



 うつむき加減で歩いていたリュウともと子は見えてきたお社を見上げた。参道から階段を少し上がったところに鳥居が立っていた。

「三徳社やって。衣食住の神様らしいな。子供の時にお参りしときたかったわ。」

三徳社に手を合わせた後、リュウは続きを話し始めた。


「母ちゃん、そのうち出ていったんや。」

「子供置いて駆け落ち?大丈夫でしたか?」

もと子は心配してリュウの手を握った。その手を握り返したリュウは目を細めてもと子を見た。



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