第4話 母の行方④

「リュウさん、あれは何の列ですか?」

「あれ、灯籠のてっぺんの石がおもかる石らしいで。」

そこには願いが叶うと軽く感じ、叶わないと重く感じるおもかる石があった。


「ここにもおもかる石があるんですね。やってみます?」

もと子がチラリとリュウを見ると、リュウはやる気満々に頷いた。列に並んでいるとリュウの番がやって来た。灯籠の前でブツブツと願い事を呟いたリュウはおもむろに石を両手で掴んだ。


「悪い奴はおもかる石を持ち上げることも出来んらしいで。」

リュウが石を持ち上げようとした。

「うんっ!あれっ?持ち上がらん。」

リュウが踏ん張っても石は持ち上がらない。


ええっ!もと子は慌てて自分も石に手を添えようとした。するとニッと笑ったリュウは石をスッと持ち上げた。

「そんなわけないやろ。ま、石やから重いけど。もとちゃん、悪い奴と結婚してしもたって、焦った?」

もう!もと子は石を下ろして笑うリュウをこづいた。2人はじゃれあいながら奥社からお山めぐりを目指した。



 金運アップの根上がりの松を過ぎた2人は手を繋ぎ、いくつもの鳥居の下をくぐって歩いていった。最後の公衆トイレを過ぎたあたりから、お山は一気に深遠な雰囲気になる。道なりに歩いて行くと熊鷹社に着いた。2人はお社の向かいの茶店でろうそくを買って、お供えし、ろうそくに火を灯した。


お社の中はうす暗い。今までどれだけの人々がろうそくを灯したのか、お社はろうそくのススで真っ黒。今もお社の中には大小のろうそくの炎が怪しくゆらめき、なんとも幽玄。しばらくの間、言葉もなく見惚れてしまった2人は手を合わせた後、熊鷹社の後ろに広がる新池のほとりに立った。


池の周りは木々が生い茂り、緑の中に豊かな水をたたえている。池を見ていたもと子が後ろのリュウの方を振り返った。

「ここで柏手を叩くと行方知れずの人のいる方向からこだまがかえってくるんだそうですよ。」

「へえ…そうなんや。ウチで行方知れずって言えば…おれの母ちゃん、どこにおるやらわからんねん。」

「リュウさんが高校生の時に家を出ていったお母さん?」

「うん。俺と中学生の虎太郎を捨てて、売れへん若いホストと逃げたやろ。ずっと忘れてたけど虎が独立して、俺ももとちゃんと結婚して落ち着いたからかなあ、昔、母ちゃんと虎と3人でうどん食ったこととか、時々フッと母ちゃんのこと思い出す。今朝も夢見たしな。」

リュウは少し淋しげな顔をして池の水面を見つめた。

「なあ、手を叩いたら居場所がわかるんやんな?」

リュウは小さく柏手を叩いた。



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