第3話 母の行方③

広い本殿の右側の建物では普段聞くことのない雅楽が流れ、上衣の白に袴の赤が美しい巫女さんが扇を持って舞を踊り始めた。

「私、巫女さんが舞ってるところを初めて見ました。ステキですね。」

「なんか、凛として見惚れてしまうなあ。」

「リュウさん、巫女さんの舞を見せてもらえるなんて私達ラッキーですね。」

「うん、神様にご褒美もろた感じやな。これはお山のてっぺんまで早くおいでってことやな。」

リュウの言葉にもと子も大きくうなずく。



この予想外のラッキーをしばし堪能した2人は本殿で静かにお参りをした。何をお祈りしたんだろう?お互いに気になりながら、その後、本殿の左側、お守りを売っている社務所へ向かった。


「今から山登るからな、途中でへこたれんようお守りに守ってもらお。もとちゃん、好きなん選んで。」

もと子は沢山のお守りの中から折り紙を折ったような、金と銀の小さな狐のお守りを一つずつ選んだ。


「ちっこくてかわいいな。これお揃いで買おう。」

リュウは金と銀の狐のお守りを買うと手のひらにのせ、もと子にどちらがいいか聞いた。なかなか決められないもと子を見て、リュウは金の狐をつまみ上げた。


「もとちゃんは俺の宝物やから、金の方な。」

「…はい。リュウさんの今の言葉、宝物にしますね。」

リュウの言葉にもと子は恥ずかしそうに、でも思い切り嬉しそうな顔を見せる。

ホンマ、かわいい奴。

くすぐったくなったリュウはウインクして言った。


「おう。じゃあ後で甘酒、奢ってな。」

「えっ?なんですか?もう!甘酒飲む時、さっきの言葉をもう一回言ってくださいね。」

「2回も言うならきつねうどんやなあ。」

「高い!」

もと子は唇を尖らせた。


クスクス笑うリュウは銀の狐のお守りを早速ボディバッグにつけ、それを見てもと子も慌てて斜めがけにしたショルダーバッグに金の狐のお守りをつけた。


本殿の左側から上に上がるといくつかのお社があり、そこを過ぎるとたくさんの鳥居が連なる千本鳥居がある。

「ここ、よくテレビや雑誌に載ってるところですよね。」

もと子はミーハーな笑みを浮かべて鳥居の作る赤いトンネルをバックにリュウと2人で何枚も写真を撮る。


「ほらほら、行くで。」

リュウに腕を取られて、もと子は名残惜しそうに千本鳥居を後にした。


千本鳥居を潜ったところに奥社がある。2人は手を合わせお参りを済ませた。

「ここにも、顔を描く絵馬があるんですね。」

「お初天神さんはお初さんの顔やけど、ここはお狐さんの顔なんやな。」


もと子は本殿右手にあるいろいろな顔の狐の絵馬を楽しそうに眺めながら社務所にまわった。社務所のお守りや絵馬を眺めていると、社の裏手に人が並んでいるのに気がついた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る