第2話 母の行方②
今日は冬にしては風もなく暖かい。抜けるような青空に飛行機雲が一つ。青空を分けていく。須崎もと子は洗濯物を手早くベランダに干し終えた。部屋に入ると夫のリュウこと須崎龍太郎が朝食の食器を洗い終え、出かける準備ができたところ。
「もとちゃん、そろそろ行こか?」
はい、と元気に返事をするともと子は上着を羽織った。
もと子は子供の時に両親を亡くし、高校まで施設で過ごした。高校卒業後、看護師を目指して孤軍奮闘していたところ、バイトでトラブルに巻き込まれ、通勤途中のクラブスタッフのリュウに助けられた。腕っ節が強く、すれ違う女達が皆振り返るほどの美貌なのに気さくで優しいリュウは勤め先のクラブキップスやその界隈で人気者だった。だが、たくさんの女達から日々熱い視線を送られる派手な外見と違い、実生活のリュウは高校生の時に親に逃げられ、1人で弟の面倒を見ていた。
他人事に思えないもと子の境遇を心配したリュウがもと子の世話を焼いているうちに付き合うようになり、様々なトラブルを乗り越えて最近ようやく結婚した。
夜勤のある看護師のもと子と高校から勉強を続け、10年かけてようやく税理士になったリュウはすれ違いが多く、一緒に暮らしていてもなかなか休みが合わない。
そんな2人は今日久しぶりに休みが合った。リュウともと子は正月の特番で見て以来、訪ねてみたかった伏見稲荷に朝から出かけることにした。
伏見稲荷の神様は本殿の上にある稲荷山におられるので、せっかくだから稲荷山の頂上、一の峰にまで登ってお参りしようということになった。
そこでリュウはジーンズに黒のジャンパー、その下にロゴの入ったネイビーのパーカーを、もと子もジーンズに黒の薄手のダウンとダークオレンジの薄手のセーター、そして2人ともスニーカーという動きやすい服装にした。
伏見稲荷の最寄り駅、JR稲荷駅を出てすぐ、もと子は上を見た。
「うわ、大っきい!」
駅からすぐのところに見上げるほど大きな鳥居がある。鳥居から広い参道が楼門まで伸びている。2人はまず大きな鳥居をくぐって真っ直ぐ歩いた。手水で手を洗うと秀吉が寄進したという見上げるほど大きな楼門をくぐった。
朱塗りが鮮やかな楼門の両脇には、それは大きな狛狐が鎮座して参拝客を見下ろす。それぞれ口に稲荷に関係するアイテムを咥えている。上を向いてキョロキョロしていたもと子がリュウの方を向いた。
「リュウさん、狛犬さんは一つが口を閉じて、もう一つがガオッ!て口を開いてますよね。狛狐さんは狛犬さんと違って稲穂と何を咥えてるんですか?」
「あれ、米蔵の鍵らしいで。さすが豊穣の神さんや。他に宝珠?玉のパターンもあるみたいや。商売繁盛の神様らしいわ。」
リュウは駅でもらった伏見稲荷のパンフを見ながら答えた。そんなことを話しているうちに2人は本殿の前に到着。本殿で神様に手を合わせようとして、ふと聞いたことのない音色に振り返った。
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