思い出の向こう側
@ajtgjm159
第1章 母の行方
第1話 母の行方➀
第1章 母の行方
「…なんでや!」
リュウは自分の寝言で目を覚ました。冬だというのに寝汗をかいている。傍らに眠る妻を起こさずに済んだようで、ホッとした。
今頃、あんな夢を見るなんて…
リュウは久しぶりにあの夢を見た。高校生の時のこと、バイトから戻ると弟の虎太郎がちゃぶ台に突っ伏して泣いている。狭いアパートの壁に放心したように義父がもたれている。いつもなら酒をあおって暴れるのに、今日はそんな気配が無い。訝しげにリュウは部屋へ入った。
「ただいま。なんかあった?」
顔を上げた義父が濁った目をとろんとさせて口を開いた。
「みな子が出ていった。家中の金持って。」
驚いたリュウは押し入れを乱暴に開け、兄弟のバイト代を貯めていた通帳を探した。
「無いよ、兄ちゃん。僕、もう探したもん。」
「ガキの金まで持って行きやがって。俺の保険金もや。もうこの家には一銭も残っとらんわ。」
いつもは少しでも気に触ることがあると母のみな子やリュウ、虎太郎を殴った義父。仕事で大怪我をし、不自由な体になった白髪交じりの男は、そう言うなり湿った目頭を指でつまんだ。
握りしめた書き置きを虎太郎はリュウに見せた。
「幸せになります。探さんといてね。
みな子」
めまいがして、リュウは畳の上に尻もちをついた。美人の母の艶やかな笑顔が目に浮かぶ。
「またか、クソババア。」
リュウも途方に暮れた。
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