第11話 アマミヤ家


~前回までのあらすじ~

 シノ様の弟子として呪術師の修練をしていたボクの前に、シノ様の師匠、ミドウ・ツチミヤが現れる。ミドウは別れ際、シノ様がアマミヤと名乗る者たちに狙われていると言い残した。

 えっ、そういう大事なことはちゃんと説明してってくれないかな。


 ***


 ミドウさんが立ち去ってから半年ほどが過ぎた。


 最近のボクは、午前中に呪術師としての修練をして、午後からは剣術を習うという生活をしている。


 ミドウさんのおかげでボクは、霊力とやらを感じ取れるようになった。


 霊力というのはざっくり言えば、世界のありとあらゆるものに宿る精霊の力だ。呪術師は精霊から力を借りる形で呪術を行う。

 呪術師は特定の精霊と契約したり、呪印の刻まれた符を使ったり、言葉を使ったり、それら全部を使って儀式を行ったりして、精霊の力を自分の呪力として術を行うのだ。


 ちなみに儀式を行うのが一番確実で簡単な方法らしい。

 いろんな捧げものを祭壇に捧げて、精霊をほめそやしてご機嫌を取って願いを聞いてもらう感じ。


 シノ様は、儀式は面倒くさいので雨乞いだとか大規模な術を使う時以外はあんまりしないと言っていたが、ボクは初めての時、たき火の火を起こすだけでうんだばーと一時間近くも祈らされた。

 それでも一発成功はすごいとほめてもらえたけど、精霊というのは中々気難し屋のようで、火打石の一つでも打った方がよほど簡単だと思ったよ。


 ちなみにシノ様は一瞬だ。

 火よ、とか呟いただけで指先に火が灯る。


 いやー、流石シノ様です。すごいです!とボクがほめそやしたら、照れくさそうに両手の指前部に火を灯してくれた。


 なるほど、儀式を伴う呪術ってこんな感じか。

 褒められて調子に乗るシノ様かわいい。




 半年経って町はすっかり冷え込んでいた。

 朝起きて出歩くと地面は凍り付いて、そして真昼になっても解けることはない。


 世界のどこかには季節が四つに分かれる地域があるらしいとシノ様に教えてもらったけれど、この国に季節は二つだけだ。


 長い冬と短い夏。


 大地に草が生い茂る夏が来ると人々は新しい年の始まりを浮かれ喜び、そして草の青さに陰りが見え始めると、再び寒さに閉ざされた日常に戻っていく。

 次に来る夏の日々に想いを馳せて、家畜の世話をし、織物を織る。農地に麦を撒き、次の実りを祈る。


 そうした生活は、町でも村でもそう大きくは変わらないようだった。


 ボクはそうした営みに加わっていないので、少し罪悪感みたいなのを覚えている。

 村にいたころは家畜の世話はボクの役目だったけれど、今は夜におやじの店の給仕にでるくらいしかしていないからね。


 そんなことをシノ様にちょっと漏らしてみたけれど、シノ様にはボクの焦燥感みたいなものは伝わらないようだった。


「イヅルはちゃんと呪術も剣術も頑張っているじゃない」

 だって。


 そう言ってくれるのは嬉しいけれど、きっと村育ちのボクとずっと旅暮らしだったシノ様では感覚が違うんだと思う。

 村では、常になにか仕事をしていないと飢えて死ぬんだから。


 もっとも、シノ様の言うことは正しいのだと思う。

 今のボクの仕事は早く一人前になって、シノ様の護衛を果たせるようになることだから。


 ボクは結局、狙われているというミドウさんの言葉にいまいち実感がないのだろう。だから強くなるための修行をしていて、遊んでいるような気分になってしまうのだ。


 アマミヤと名乗る者に気を付けろ、とミドウさんは言った。


 けれどこの半年、一応ボクも噂話に気を付けているつもりではいたけれど、アマミヤという名前を聞くことは一度としてなかった。


 シノ様によるとアマミヤというのは天外山脈を越えた隣国のフミル王国で盛んな呪術の一大流派の宗家なのだそうだ。

 現在の王家とも密接に関わっていて、相当な権力を持っているらしい。


 とはいえ天外山脈を越えた場所での話である。

 シュベット国ではそんなに影響力のある家ではないし、なにしろ大きな流派だから、アマミヤ流の呪術を使う呪術師なんてごまんといるようだ。

 いちいち警戒していてはきりがない、というのがシノ様の談だった。


「ちなみになんで狙われるんでしょうね?」


 尋ねてみると、さあ、とシノ様は首を傾げた。

「狙われたことがないから分からないな~。一応、わたしに何か奴らの欲しい力があるみたいなことを師匠から聞いたことがあるけど」


 曖昧だなぁ。


 警告するくらいだったら本人にくらいきちんと話しておけよ。そういう情報を掴んでいるんだったらさ。

 でもこれまでもずっと大丈夫だったらしいし、ミドウさんも一応警告をしておいただけで、これからもなにもないと考えて問題ないと思っているのかもしれない。


 本当ならもっときっちり説明をしてもらいたいところだったけれど、ミドウさんは捕まえるまでに透明になってどこかに消えてしまった。


「あれってどうやってるんですか?」

 ボクが尋ねるとシノ様も首を捻って、分かんない、と言った。透明になれる呪術なんてないと思うけどな、とのこと。


 剣もすり抜けたし、やっぱりあの人、怪しくないですか、シノ様。

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