第8話 下読み日和


 下読み日和には不似合いな晴天だった。


 このまま外へ出かけて遊べたらいいのに、こんなに晴れなくてもいいのに、そう思えるお天気上々日和だった。


 朝一で私は出版社に出向いた。


 昨日の続きだ。


 今日は、十篇は読みたいな。


 よし、今週までに下読みを終えて新作発表に向かって執筆するぞ。




 それが私の目標。


 五十編中通過できる作品はたったの五篇だ。


 それを絞るのに迷う。


 最初に読んだ小説はすごかった。


 何とこてこてのミステリー小説だったのだ。


 これが傑作とはいかなくてもすごく面白い。


 ただ少年犯罪を扱った時点で既存作品に似ていると言えば似ているのかもしれない。


 ああ、これは通過作品に持ってもいい。


 私は確信した。


 あらすじは少年に殺された父親がその少年らを復讐するというもの。


 私はあまりミステリー小説は読まないんだけれどもすごくハラハラドキドキした。


 私があまりにも読み込んでいるものだから合田編集長が詰め寄ってきた。




「何かいい作品でもあったのかい」


 ありました! と言いたいところだけれども、ジャンル違いで落選ということになるのかもしれないか、と思うと少ししびれた。


 合田編集長もその応募作品を手に取った。


 しばらくの間、沈黙が流れた。


 合田編集長もジャンルミスを飛び越えて面白いと思ったんだろうか。私は気になって様子を伺った。




「これ、盗作だよ」


 合田さんの顔色はけちょんけちょんなまでに真っ青だった。


 私は何と言っていいのか、わからなかった。


「まあ、良かった。設定だけは少し変えているけれどもミステリー小説家のとあるデビュー作の模倣品だ。純文学の新人賞にはカテゴリーエラーだし、ここでわかって良かった」


 私はミステリー小説をあまり読んでいないからすっかり新作だと思っていた。


 私がしょんぼりしていると合田編集長はポンと肩を叩いた。




「仕方ないさ。神崎さんが悪い訳じゃない。こういうことも時たまあるから気を付けるように。あと自分が普段読まないジャンルもチェックしておくように。神崎さんはあまり読んでいないからこんなことになるんだよ」


 おっしゃる通りです。


 私はその応募作品にバツを付けた。


 やっと丸を付けられると思ったのに、と筆をポキッとふたつに折りたい気分だ。


 今まで読んできた応募作品でまだ通過作品がでていない。




 まだ段ボール箱に高く積まれているんだもの。


 やっと通過できると思ったらまさかの盗作原稿だったなんて不運としか言いようがない。


 切り替えて次の作品を読み込む。


 たぶん年齢は十代じゃないかな、と思った。


 学園ものの小説だった。




 今の私にはないきらめく青春のほとばしり。


 暑い汗とめぐる季節の灯火。


 大人への階段を登るための試練。


 ひと夏の青春。


 荒れ狂う青春の荒波。


 青春、青春、青春。


 その文字に私はああ、駄目だ、と思った。


 自分がおばさんになった気分だ。


 彼氏がいない歴=年齢だということをさらにコンプレックスに感じさせてしまう。


 よく学園ドラマで高校生のカップルがキスをしたり、挙句の果てには身体的に結ばれるという展開が催されるけれども、それは本当に一部分の人だけじゃいないだろうか。


 高校生は大人が思うよりもずっと幼いし、ずっと暇だ。



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