第9話 学園小説と不倫小説


 自分が高校生の頃が男子と付き合うなんて論外だったからよくわかる。


 ほとんどの高校生はそんなキラキラいっぱいの青春小説やドラマ、映画などの主人公たちに指を咥えて首を長くして待っているのだ。


 この学園小説はそんな展開が満載の小説だった。


 少し黒い嫉妬を覚えさせる。


 文体も新鮮で心地がいい。


 これが受賞したらすごく売れるんだろうな。




 やっと通過作品に巡り合った。


 よしよし、エントリーシートに丸をつけよう。


 この高校生はきっと芥川賞最年少受賞になれる。


 私がそれを見出した。


 エッヘン、と思った矢先、応募要項を見ると作者は四十代だということが判明した。


 私はそれを読んで小説の中身って人を選ばないことをよく学んだ。


 丸山さんみたいなアマチュア作家が割といるんだね。


 まあ、通過作品が発見できたから良かったじゃないか。




 次の作品はこてこての恋愛小説だ。


 それも不倫小説。


 最近、文壇では不倫小説が流行っているんだろうか。


 あらすじをまとめるとこうだ。


 冴えない生活を弄ぶ主婦がダンス教室で出会ったインストラクターの年下男性とあらぬ一線を越えてしまう。


 家族や家事をそっちのけで恋愛にのめり込んでいく。


 そして、最後は家族にもばれ、幸せな家庭は崩壊していく。


 何かそんな小説がほかにあった気がする。


 



 これも通過させよう。


 文章はしっかりしているし、内容の是非は二次選考に委ねればいい。


 次の作品は、とそういう展開がまだまだ続くんだろうか。


 正直きつい。


 悲鳴が上がる。


 ここでもう昼過ぎだった。


 私は丸山さんを誘ってランチへ行くことにした。


 最近近くにジビエ料理で有名な店ができたんですよ、と丸山さんに言うと軽い悲鳴が帰って来た。


 ジビエ料理は要するに野生の鹿を捕食するのだ。


 バンビ好きの丸山さんには耐えられなかったらしい。


 急遽ジビエ料理店はキャンセルになり、私たちは近くの牛丼店チェーンに行くことにした。


 ジビエ料理はダイエットにもいいんだ。


 



 食べたかったな。


 私はミニサイズの明太マヨネーズ牛丼とサラダセットを頼み、丸山さんは大盛りのキムチ牛丼を頼んだ。


 ふたりでがつがつと食べ、そのまま出版社に戻るはずだった。


 牛丼店にあの昨日のおばちゃんがいたのだ。


 ひとりで大盛り明太マヨネーズ牛丼を食べている。


 



 見てはいけないのだろうけれども私はじっと観察した。


 今日はブラジャーが乱れていない。


 もりもりとお皿に向かって食べている。


 あの歌を今は歌っていない。


 食べているときにはさすがに歌わないらしい。


 当たり前か。


「何を見ているのよ。感づかれてしまうじゃないの」


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