新婚旅行

 ミルフィーユには小さな頃から夢があった。

 それは、絶対に叶うことのない夢だと思っていた。けれど、彼は叶えてくれた。


「わああぁぁぁ!!」


 ミルフィーユの夢、それは世界中を旅して、世界中の美しい景色を見ることだ。今、ミルフィーユは本の中の世界ではなく、実際に自分で見て、聞いて、歩いて、触れあっている。

 ここは世界でも有数な観光名所にして、ここにきた夫婦は永遠に幸せに暮らせると言われている場所だ。よってルイボスはミルフィーユに連れてきた。新婚旅行としては最適な場所だし、ミルフィーユの世界のいろいろなところに行ってみたいいう願いを叶えられる一石二鳥な場所だ。

 ルイボスはミルフィーユと協力して忙しい公務を最速で片付けまくり、半年の休暇をとった。ルイボスは空飛ぶ魔道船を用意し、半年で世界の全ての国を回るというハードスケジュールを見事に組み立てた。

 そして、今きた場所は7番目にきた夫婦円満スポットだ。旅行地点としては20番目に当たる。ミルフィーユはどこに行ってもはしゃいだ声を上げて子供のように無邪気に笑ってルイボスのことを振り回している。


「ルー君!!この洞窟すごいね!!水がぽちゃぽちゃ落ちてくる!!」

(それに、ルー君が水も滴る良い男!!)


 びしゃびしゃに濡れながら、ミルフィーユはルイボスに背中から抱きつく。2人での旅行は当然反対されたが、2人の剣術と魔法の腕から言って、他人を庇う性質のある2人が自分よりも弱い護衛を連れて歩くのはかえって危険を極めると判断されたのだ。よって、2人は魔道船の乗組員を除けば、単独で旅行をするという異様なことを行っているのだ。


「みーちゃん、あんまり走ってはしゃぐと危ないよ………」

「大丈夫よ!!わたくし、とーっても頑丈だもの!!」


 傭兵として異国の地で家族を養うために、戦場を次々と渡り歩いて働いていた王弟である父親に似て、元気で活発気味なミルフィーユは、ぴょんぴょんと飛んでみせた。ルイボスと2人の時にだけ見せる幼い子供のような元気な姿は、ルイボスにとって何物にも変えられない眼福だ。


「そんなに元気だったら、夜もうちょっと頑張ってもいいかもね?ミルフィー」

「ひいぃっ、そ、それは嫌!!」

(無理!身体がもたない!!)

「………みーちゃん、その反応は流石にひどいよ………………」


 ぎゅっとミルフィーユのことを抱きしめたルイボスに対して、ぷくうぅーっと頬を膨らませたミルフィーユは、ふんっ、とそっぽを向いた。


「新婚旅行の前日にルー君が意地悪をしたせいで、新婚旅行に行く日にちが1日遅れたこと、わたくしまだ根に持ってるんだからね!!」


 そう、前日の夜に散々意地悪をされたことによって出発が遅れてしまった、ミルフィーユとルイボスの新婚旅行は最初の頃、押し気味で行動せざるを得ない状況に陥っていた。


「ほらっ、行きましょう、ルー君。洞窟の奥にある天然石でできたアメジストの壁のお部屋で深いキスをするのでしょう?誰もいないうちじゃないと、わたくしそんなことしないからね」


 イヤイヤと言いながらも、ルイボスにゾッコンなミルフィーユは、永遠の愛を手に入れられると評判の洞窟の奥へとサクサク足を進める。ルイボスは強いお嫁さんを見つめながら苦笑して、一緒に洞窟の奥へと足を進めた。


▫︎◇▫︎


 洞窟の奥には存外簡単に辿り着くことはできた。攻略が難しいと言われていて覚悟していた2人にとっては拍子抜けだったが、それもこれも、美しい景色を前にすれば、そんな疑問もお空の遠くへと向かってしまう。


(本当に綺麗なところ………)


 ミルフィーユは辿であることにも気づかず、美しい景色に見惚れた。ルイボスは言わずもがな、美しい景色に見惚れた美しいミルフィーユに、ミルフィーユと同じことに気付かずに、うっとりと見惚れた。


「みーちゃん、キス、する?」

「えぇ、良いわよ」


 軽くキスをすると、その後ルイボスが言い伝え通りに深いキスをした。この場所で深いキスをすると永遠に結ばれるという伝承だ。眉唾物でも、ミルフィーユもルイボスも、そういうものに頼ってみたかったのだ。まあ、2人であれば、何があろうとも離れる気は無いのだが………。


「ーーーよし!みーちゃん、次行こっか!!」

「そうね。次は確か………、子宝に恵まれる温泉だったかしら?わたくし、1度屋外の温泉の入ってみたかったのよねー………。楽しみだわ!!」

「よかったよ。混浴がいいらしいから、一緒にイチャイチャしようね!!」

「ひえっ、」


 短い悲鳴をあげたミルフィーユのことを抱き上げたルイボスは、スタスタと歩いて洞窟の外へ出て、魔道船へとミルフィーユを連れて乗り込んだ。

 次の旅行地に到着するまでは、またミルフィーユと一緒に一緒にいる時間を楽しむ時間だ。

 ルイボスは幸せを噛み締めながら、ミルフィーユの髪に自分の顔を埋め込んだ。

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