結婚式
ミルフィーユ・アフォガードは今日、結婚する。
結局王妃という重責から逃げることはできなかったが、それでも自分を愛してくれる男との結婚なのだから文句はない。
真っ白なロングトレーンのドレス繊細に編み込まれた裾が部屋を覆い尽くし、侍女たちがいそいそと忙しなく動き回ってミルフィーユの花嫁の準備を終わらせていく。
ルイボスがいつも誉めて弄んでくる髪は複雑に編み込まれ、アメジストの瞳をきらきらと輝かせるような化粧が施される。
ルイボスの嫉妬のせいで憧れていた肌を見せるドレスは着られないけれど、それでも彼が選んでくれたという理由だけでとても満足なのは、彼に毒されてしまったからなのだろうか。
ミルフィーユはくるくると毛先をいじると、鏡に映る自分を見た。
(ルー君、綺麗ってちゃんと言ってくれるかしら?)
杞憂な心配をしながらも、一生に1度の結婚式に向けて緊張を高めるミルフィーユは、お守りとしてずっと持ち歩いていた相棒たる眼鏡をわざわざこの場に持ってきてもらった宝石箱へと仕舞い込み、宝石箱に鍵をかけた。
ーーーカチャン、
ーーーカツカツカツカツ、
そして、窓際へと歩みを進めた。
準備を終えてほっとしている侍女たちは、不思議そうにミルフィーユのことを見つめた。
「さようなら、引っ込み思案なわたくし」
ぽいっと鍵を投げ捨てると、ミルフィーユは寂しそうに微笑んだ。
ミルフィーユの持ってきてもらった箱は歴代の瞳を隠すための魔道具たち、つまりミルフィーユの眼鏡を入れた箱だ。
中には両親との思い出の品もある。けれど、ミルフィーユはそれを封じることに決めた。王妃はいつまでもウジウジしていられないのだ。
(またね、お父さま、お母さま)
ーーーコンコンコン、
「みーちゃん、準備終わった?」
「はい、ルイボス殿下。終わりましたよ」
わざとそっけなく返事をしたミルフィーユは、おろおろと入室してきて、そして顔を真っ赤にして口元を手で覆ったまま固まってしまった新郎ルイボスに対して、むうっとくちびるを尖らせた。
「感想は?」
「………綺麗だ」
「ーーー………………」
「綺麗すぎる。連れていきたくない。………よし!みーちゃん、駆け落ちしよう!!」
「………洒落にならないからやめなさい」
(彼ならやりかねないわ)
叫んでそのままお姫さま抱っこをしようとしたルイボスを必死に押しとどめたミルフィーユは、はあーっと堂々と溜め息をこぼした。
だが、綺麗だと言われて嬉しくなって染まってしまった頬の赤みは全くもって取れていない。それどころか、口元が緩んでニヤニヤとしてしまっている。
「ルー君もとってもかっこいいわ、さすがわたくしの旦那さま」
「~~~~ーーー………!!」
「あら、真っ赤なお顔ね」
くつくつと揶揄う新婦に対して、ルイボスは頬を膨らませて艶めかしく腰を触った。
「ーーー今夜は覚えとけよ?」
妖艶な笑みを浮かべて去っていく婚約者の背中を見送ったミルフィーユは、ぼふんと顔を赤くしてヘナヘナと鏡台に突っ伏した。
「………ルー君のばか」
ミルフィーユ・アフォガードは、今日、この世で1番幸せな花嫁となる。
たくさんの人にトレーンを持ってもらったミルフィーユは、赤くなってふわふわとしてしまっている自分を律して教会へと向かう。
愛する大切な人と、結婚をするために。
ミルフィーユは義父アフォガード侯爵にエスコートされて、バージンロードの上を1歩1歩噛み締めながら歩く。天国にいる両親にも見ていてほしいと願いながら、ミルフィーユは1歩1歩自分の足でルイボスの方へとハイヒールを向ける。
彼はこの世にこれ以上の幸せはないと言わんばかりの輝かん笑みで、ミルフィーユのことを見つめてくれている。ミルフィーユは彼にベールの下から笑いかけながら、幸せに満ちた結婚式会場を見つめた。
「侯爵閣下、いいえ、お
(侯爵夫人………、じゃなかった。お義母さまのことも今度読んであげなくっちゃね)
侯爵の手を離れる直前、ミルフィーユは義父の耳元で満面の笑みを浮かべてこそっと囁いた。夜中に毎日お布団の中で義父のことを『侯爵閣下』ではなく、『お
「幸せになっておいで、
「はい!!」
初めて義父に呼ばれた愛称にびっくりしながらも、ミルフィーユは幸せに満ちた顔で笑い、ルイボスの元へと向かう。
「大好きだよ、みーちゃん。愛している」
「ふふふっ、わたくしも。ルー君、大事にしてね?」
「あぁ、」
ーーーゴーンゴーン、
幸せな新郎新婦は、鐘のなる中、神の前前で誓いのキスを交わした。
ここに、後に、クラフティ王国1のオシドリ国王夫妻と歴史に名を残す2人の結婚式が行われた。
この結婚式にて、ミルフィーユが投げたブーケを受け取った苦労人タフィー・オランジェットが、この直後にマカロン伯爵令嬢と運命的な出会いをしてスピード婚をしたことも、知る人ぞ知る歴史となった。
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