カカオのその後
元公爵令息カカオ・アーモンドは、何が起こったのか分からなかった。
いきなり自分を溺愛していた親父に蹴り飛ばされ、怒鳴られ、勘当された。両親や2人の兄にも、王家の護送を担当する騎士に連れられて家を去る直前まで、バカスカ殴られて、罵倒された。
(全てはあの女のせいだ………!!)
はちみつ色のストレートなロングヘアに、むさ苦しいうざったくて野暮ったい眼鏡の女。
だが、その眼鏡の下はとても美しかった。
(王家の象徴たるアメジストの瞳は、紫水晶のように艶やかに輝き、怪しげに光っていた。それに、溜め息をついた時の顔は艶っぽくて妖艶で………、あぁー、あれは俺のものだったのに)
どんなに悔もうが、願おうが、もう過去のことで、自分には手の入らないもの。だから、カカオは似た女を拾ってくる。妖艶な容姿の女、はちみつ色の髪を持つ女、ストレートなロングヘアを持つ女。誰を手に入れようが、満たされず、イライラとしてくる。
「くそっ、」
「きゃっ、」
今日もうざったい桃色の髪の女に手をあげる。どんなに叩こうが、殴ろうが、蹴ろうが、文句を言わない都合のいい人形。
だが、それももう飽きてしまった。
『カカオ、もうお金が貯まったし、一緒に隣国に行きましょう。あの女は捨てて』
『分かった』
今日は国を出る日。もう金を稼ぐためだけに置いておいたこの女は、用無しだ。
だから、カカオはカヌレの首に手をかけた。
「ひいぃっ、な、何を!?」
「黙れ阿婆擦れ。さっさとくたばれ」
「ふあ、あ、あ、………」
存外早くくたばった女を見て、カカオはニヤッと笑う。
「さあ、捨てに行こうか」
カカオは近所のドブへと向かい、カヌレの痩せ細って骨張った遺体をぽいっと捨てた。
「あばよ、バカ女」
そう言ったカカオは、一緒に抜け出す約束をした妖艶な感じにする女の元へと向かう。珍しく長く続いているあの女は、目標が一致していてとても気が合った。
「さあ、行こうか」
「えぇ、カカオ。………あぁ、夢みたいだわ。このゴミ溜めのお外に出られるなんて………!!」
「………そうだな」
女が手に入れた馬に2人でまたがり、カカオは隣国の国境へと向かう。貴族の子息として一応乗馬は徹底的に叩き込まれているが、いかんせんカカオは乗馬が苦手だ。ついでに勉学や剣術、魔法も苦手だ。一方、ミルフィーユは全てが完璧だった。馬術も剣術も体術も勉学も、そして貴族の証たる魔法を使うことも易々とこなしていた。
(………嫌なことを思い出したな)
カカオにとって、ミルフィーユは負の対象だった。
全てが自分よりも上の、目の上のたんこぶな女。男を立てることを知らない、傲慢で高飛車な、庶子でありながらのさばる、分不相応な女。
だが、それもこれも、自分の間違いだった。
あの女は王族だった。
血筋だけの問題じゃない。なぜなら、あの女は王家の中でも
もう少しで隣国の入国審査の関門が見え、ムシャクシャした感情を片付けようとした次の瞬間、強い力で身体を押され、カカオの身体が宙を浮いた。
痛いのは一瞬で、そして次の瞬間には世界が真っ白になっていた。
気を失う少し前、一緒に逃げた女の意地の悪い笑みが見えた気がした。
(カヌレ………、………………ミルフィーユ)
数日後、獣に荒らされた遺体の側には、獣に吐き出されたであろう汚れた金髪が散乱していたらしい。
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