カヌレのその後
元伯爵令嬢カヌレ・キャンディは、ムシャクシャしていた。
美しかったコーラルピンクのふわふわした髪はお金のためにカカオによってぶった斬られ、長く整えていた爪も噛みすぎたことによりボロボロになっている。肌は浅黒く焼け、シミやそばかす、ほくろが目立つ肌になってしまった。
何より許せないのは、誰も自分の言うことを聞かないことだ。甘やかされて育ってきたカヌレは、たいていのことが命じれば全て叶うという環境にいた。よって、全てが自分の思うがままだった。
「カヌレッ!!お前っ、何をしているんだ!!」
ーーーガンっ!!
怒鳴り声と共に酒臭い油ぎった金髪に、窪んで澱んだ色彩の青い瞳を持った男が、自分に向けて椅子を投げてくる。必死になって稼いだお金も、全部この男が女遊びに持っていってしまって、必要経費すらも存在していない。
「や、やめて、カカオ………」
「あら、奥さんを虐めているの?カカオ。早くここから出ていくんでしょう?この女は有効活用しなくっちゃ」
妖艶な美女のように、昔の面影が全くないカカオに枝垂れかかったのは、痩せ細った醜女だ。
カヌレは悔しげにくちびるを噛み締め、自分だって早くこの地から出たいと悪態をつく。
ここはクラフティ王国の隣の国との境にある、狂乱の地。どちらの国にも入国を断られた人間の集まる、いわば掃き溜めだ。そこにカヌレとカカオは暮らしていた。
「あらあら、今日の稼ぎはそれだけなの?こんなのじゃ入国できないわ。あなた、本当に無能なのね」
毎日毎日醜女に嘲笑われ、必死になったお金を巻き上げられ、床に転がされる。
(あぁー、馬鹿みたい)
数日後、掃き溜めの地の排水路に、珍しい髪色をした痩せ細った女の死体が浮かんでいた。
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