第36話 めぐる春に



「里ちゃん、安全運転で御願いね」


「おまかせを」


 今日は鍛えた運転技術を試される日なのである。

行先は、隣村に新しくできたお蕎麦屋さん。

メンツは三重子さんと松里さんと、私。

修理屋の利松の旦那さんにお借りした車で、ドライブだ。


 汐と氏康さんは食べ物屋さんに入るわけにはいかないので、お留守番。

すごく美味しいって評判なので、食べさせてあげたいのはやまやまなんだけど。

お土産を買って帰るので我慢してもらおう。


 お蕎麦屋さんは、例のユーチューブ動画を見て、ここに出店をきめてくれたという話だった。

よい湧水が近くにある、というのも決め手だったらしい。

すごく意外にも、動画の効果があったことになる。


 実際、ただただポメラニアンのお尻を眺める動画、だとか、イケボ会話を聞くだけの動画として需要があるらしい。

世の中って、わかんないな。

なので第二弾、第三弾と動画は続いていくのだそうだ。

チャンネル登録を、よろしくお願いします、と私からも言っておこう。

とりあえず三重子さんが喜んで見ているので、氏康さんは御満悦だ。


 私は慌ただしい年末年始を乗り越えた後、蓮川さんに本気で宮司になりたい旨を伝えてみた。

ものすごく喜んでくれて、協力してくれるらしい。

まずはお金をためて大学に入りなおすことになるので、時間はかかるけど気合を入れて頑張らなくちゃ。

私が勉強しに行く間、神社のことはどうするのかとか課題は山積みだけど。

資格、ちゃんと取るんだ。絶対。

私が守りたいもののために。


 それに神社のお仕事、私にとっては楽しいしね。

村の皆はもちろん、猫好きの参拝に来られる方たちとお話するのも楽しい。

だからこそ、この場所自体を守りたいと思うんだ。


 そういえば、村には新しい仲間ができたというか、なんというか。

汐の器として村にやって来た、白足袋くん。

彼は小さいながらに、綺麗に尻尾がふたつに割れてしまいました。


 ……どういうこと。

猫又って長く生きた猫がなるんじゃなかったの。

松里さんが言うには、幼生ってやつね、ということだったけど。

ここに来るまでの間に、少し汐と霊的な部分が混じってしまったらしい。


 だけど中身はまだ、ほぼ子猫のままなので。

今日も、お出かけに一緒に連れて行ってもらえないと知るや、にゃーとかなんとか叫んで鳴きながら、どこかに行ってしまいました。

お……お土産買って帰るから。


 三重子さんは、汐ちゃんに子供が出来たんじゃね、て納得していたんだけども。

それを聞くと微妙な気持ちです。

……私は継母にあたるのであろうか、と。

お義姉さんくらいですませてくれないかなっていうのは、図々しい?


 ともあれ、様々な問題もはらみつつも静かな里村の日々は穏やかに、そしてのんびりと過ぎていくのでした。


 ──神様は本当にいたんだよっていう、御話。





終わり

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