第36話 めぐる春に
◇
「里ちゃん、安全運転で御願いね」
「おまかせを」
今日は鍛えた運転技術を試される日なのである。
行先は、隣村に新しくできたお蕎麦屋さん。
メンツは三重子さんと松里さんと、私。
修理屋の利松の旦那さんにお借りした車で、ドライブだ。
汐と氏康さんは食べ物屋さんに入るわけにはいかないので、お留守番。
すごく美味しいって評判なので、食べさせてあげたいのはやまやまなんだけど。
お土産を買って帰るので我慢してもらおう。
お蕎麦屋さんは、例のユーチューブ動画を見て、ここに出店をきめてくれたという話だった。
よい湧水が近くにある、というのも決め手だったらしい。
すごく意外にも、動画の効果があったことになる。
実際、ただただポメラニアンのお尻を眺める動画、だとか、イケボ会話を聞くだけの動画として需要があるらしい。
世の中って、わかんないな。
なので第二弾、第三弾と動画は続いていくのだそうだ。
チャンネル登録を、よろしくお願いします、と私からも言っておこう。
とりあえず三重子さんが喜んで見ているので、氏康さんは御満悦だ。
私は慌ただしい年末年始を乗り越えた後、蓮川さんに本気で宮司になりたい旨を伝えてみた。
ものすごく喜んでくれて、協力してくれるらしい。
まずはお金をためて大学に入りなおすことになるので、時間はかかるけど気合を入れて頑張らなくちゃ。
私が勉強しに行く間、神社のことはどうするのかとか課題は山積みだけど。
資格、ちゃんと取るんだ。絶対。
私が守りたいもののために。
それに神社のお仕事、私にとっては楽しいしね。
村の皆はもちろん、猫好きの参拝に来られる方たちとお話するのも楽しい。
だからこそ、この場所自体を守りたいと思うんだ。
そういえば、村には新しい仲間ができたというか、なんというか。
汐の器として村にやって来た、白足袋くん。
彼は小さいながらに、綺麗に尻尾がふたつに割れてしまいました。
……どういうこと。
猫又って長く生きた猫がなるんじゃなかったの。
松里さんが言うには、幼生ってやつね、ということだったけど。
ここに来るまでの間に、少し汐と霊的な部分が混じってしまったらしい。
だけど中身はまだ、ほぼ子猫のままなので。
今日も、お出かけに一緒に連れて行ってもらえないと知るや、にゃーとかなんとか叫んで鳴きながら、どこかに行ってしまいました。
お……お土産買って帰るから。
三重子さんは、汐ちゃんに子供が出来たんじゃね、て納得していたんだけども。
それを聞くと微妙な気持ちです。
……私は継母にあたるのであろうか、と。
お義姉さんくらいですませてくれないかなっていうのは、図々しい?
ともあれ、様々な問題もはらみつつも静かな里村の日々は穏やかに、そしてのんびりと過ぎていくのでした。
──神様は本当にいたんだよっていう、御話。
終わり
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