第15話 まつり

 謎が深まる水占いが終わり、もう一度、ふたりして団子屋に戻ってくる。お昼時が過ぎており、運良く席は空いていた。


「うちもおまつりに参加したい」


 彼女には先ほどの陰りは見受けられない。あまりに変身のスピードが速すぎてビックリしていた。もうけろっとして、笑顔すら浮かべている。恐らく、早く行きたいのだろう。うずうずしている様子を感じて、少しだけ、いたずらしてしまう。


「池の水、きっと、冷たいぞ」


「平気や。懐かしいなあ……。以前遊びで来て知っとんで。暑いさかい、ちょうどええやろ。ああ、そやけどお腹空いた」


 幼い頃、優奈は母親に連れられて来たらしい。そんなことに構わず、今度こそ腹ごしらえしたくなる。もう我慢の限界だ。

 腹ペコなのはこっちだが、無邪気な少女を怒る気にもなれない。こんな時は、男としてじっと我慢の子が得策である。


「おっ、冷やしきつねがあるわ」


 運が向いてきた。団子屋に好物のうどんがあるのを知り喜んでしまう。廻りに何食わぬ顔で大盛にしてと店のご主人へ頼んでいる。一方で、彼女はみたらしと安倍川餅を美味しそうに食べていた。


 落ち着くと、改めて「みたらし祭」のパンフレットを読んでゆく。祭りといっても〝 足つけ〟の由来は、なんと平安時代にまでさかのぼるという 。

 しかも、今日では京都の真夏の風物詩を代表する〝 神事〟となっているが、元々は、崇高なお参りで始まったらしい。綺麗な水に足を浸して蝋燭ろうそくに献灯し、無病息災を祈るそうだ。


 この近辺は、土用の丑を迎えると、池や川から清水が湧き出る由来から〝 鴨の七大不思議 〟のひとつに数えられ、湧きあがる水泡の姿をだんごに型取り、みたらし団子の発祥の地になったと伝えられていた。


「これ、香ばしくて旨いよ」


「そうやなあ……。でも、足浸してええやろう?」


「ああ、でも、蛙や蛇がいるかもしれん」


「んもう……悠斗さんたら。直ぐに脅かすんだから。蛇なんか怖ないさかい」


 優奈と一緒に、団子や餅を食べながら、笑顔を浮かべ口にしていた。彼女は池の中に浴衣姿のまま足を浸したいと言う。

 昨夜の雨で水かさが増している。浴衣の裾をめくらなくてはいけないだろう。


 彼女の口元にはきな粉が着いており、ハンカチで拭き取ってあげる。


「恥ずかしいで」「動くな」「こないな写真は撮らんといてな 」互いに言葉を交わしてふざけ合い、もうすっかり友だち以上の関係となっている。まさに、自分にとっては至福の時間を迎えてゆく。この幸せを手放したくはない。そう思っていた。


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