第11話 紡ぎ
この時間、他に人の気配はない。良かった……。思わず、ほっと安堵する心強い身方がそばにいてくれる。
少しずつ、ふたりの距離を一歩一歩詰めてゆく。白い包帯がか細い手足に確認できるけど、その顔を隠すものはない。痛々しい傷あとに冷たい水に漂う哀れな姿を思い出して悲しくなる。枕元から素顔のままで静かに外を眺めていた。儚げな雰囲気を感じて、そっと、声をかけてしまう。
「優奈さん?」
「もしかして、……」
少女は苦し気な表情を浮かべながらも、一生懸命に起き上がろうとする。瞬時に手で制止して優しく見守るが、涙が一粒こぼれてしまう。突然に胸が締め付けられた。
とても切なく途切れることのない静寂な時間が流れるのに気づいてゆく。
「助かって良かった」
やっと言葉を絞り出した。なんの慰めにもならないことは十分理解している。それしか思いつかないのだ。彼女は黙ったまま頷き、涙を溜めている。素肌は透けるように白い。少しすると、女性の方からゆっくり話しかけてくる。
「悠斗さん、いっぱいいっぱい、傷ついたけど。でも……、生きていて良かった。助けてくれて、ありがとう……」
恥ずかしそうに頬を赤らめている。優奈は言葉を続けてくる。
「元々、わたし美人でないし。もっと、綺麗なら良かったのに」
どこまで、健気なのだろうか。両手で顔を覆ってしまう。でも、謙遜して言っているようには思えない。俺がやっていることは、少女の心を傷つける独りよがりだろうか……
確かに下肢にも包帯が見え隠れし、小さな額にもあざのようなすり傷がたくさん残されていた。退院して元気になるまでは、まだ時間がかかりそうだ。
でも、神さまから許されるものなら、もっと彼女の美しい顔を見ていたいという不思議な感覚になってゆく。このままで良いから寄り添っていたい。
からだの傷はじきに治るだろう。けれど、心のキズをどう癒せばいいのだろうか。
「元気になったら、俺と一緒に歩いてくれますか?」
突然、思いがけない言葉を口にしていた。いや、違う。思いつきではないだろう。優しい言葉は、けっして同情なんかではない。恐らく、ずっとそう願っていたはずである。一緒に歩きたいところは、病室から見える五重の塔のある寺だった。
「えっ、どうして。わたしなんかと……」
「俺、優奈と一緒に歩いてみたい」
「………」
返事は戻ってこない。余計な言葉で少女の心をかき乱したのだろうか……。もちろんのこと、もてあそぶ気持ちなどはない。
暫しすると、俺の精いっぱいの笑顔をじっと見つめたまま頷いてくれる。残念ながら、他の患者が戻ってくる気配がしてきた。彼女の顔をもう一度見たくなる。
わずかに笑っているのに気づく。もう、そこに涙はない。ずっと、泣いたままで枯れてしまったのだろうか。
ところが、病室の外に、もうひとりの見覚えのある女性が立ち尽くしていた。
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