第10話 再会
昼食をそそくさに済ませると、彼女の病室に向かう。このチャンスを逃せば、回診などで二度と会えなくなる。
俺には退院日が迫り、時間は残されてはいない。思い立ったら、突き進むのみだ。通りすがりに出会う医師たちから訝しげに睨まれるのを無視して歩みを進めてゆく。
“若気の至り”とからかわれても構わない。もう、後戻りはしたくない。これだけは、はっきりと分かっていた。
階段を降り突き当たりまで来ると、真理さんより習った病室が近づいてきた。なぜかドキドキしてくる。もう直ぐ彼女と会えるというのに、度胸なしの可笑しな奴だ。
やっぱり、ここやろう。外壁のプレートに名前とベット位置を示す番号が掲示されていた。201号室 Aー1
思わず、彼女の名前に目留まりし立ち止まってしまう。手紙に綴られたひらがなから漢字に変わっていた。苗字となる常盤もかつて耳にしたことがある。おぼろげながら、思っていた期待に気づいてゆく。
舞妓に似た健気な女性と嵐山で助けた儚げな人は、不可思議にも同一人物らしい。優奈の場所は一番奥の左側となる。彼女以外にふたりの患者がいるようだ。
よりによって最後で、予期しない臆病風にふかれてしまう。弱気なもうひとりの自分が頭を覗かせてくる。パジャマのまま女性専用の部屋に入るなど許されるのだろうか……。見つかったら、不審者との謗りは免れまい。
ところが、運よく扉は開いていた。神さまは味方してくれている。もう、引き下がれない。たとえ、「病院が始まって以来の言語道断のあいびき」だと言われても、このまま突き進みたくなる。そっと音を立てずに覗いてみる。
レースのカーテンも開けられ、窓からやわらかい日差しが届き、病室内はけっこう明るくなっており心が安らいでくる。若い女性の姿が窓近くに見えてきた。
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