第3話 一軍気取りの女神とクラスメイトがタッグを組んだ

 こんな時になんて汚らわしいことを考えているんだと自分を責めるも、それは早とちりだった。


「あ」


 勝手にウィンドウが開いた。


【ナイフ術スキルを追加】

【言語スキルを追加】

【識字スキルを追加】

【ストレージスキルを追加】


 という表示に後に、自分の体から淡い光が引いていくのに気が付いた。


 どうやら、今のは性欲由来の熱ではなく、コノハが俺にチートというか、女神の加護をくれたぬくもりらしい。


「ありがとう元和君。これで君は今日からナイフ術の達人だし、必要な運動能力も発揮できるよ」


 ウィンドウを見れば、確かにステータスが大幅に上がっていた。


 パワーはそれほどでもないけれど、スピード重視のソリッドファイターと言った具合だろうか。


 それに、頭の中にナイフに関する知識が自然と入っている。


 まるで、何年も愛読してきた漫画の展開のように。


「ありがとうはこっちだよコノハ。俺なんて異世界に放り出されたら一日と持たないだろうからな。じゃあ、俺の活躍を期待してくれよな」

「うん、私もできる限りサポートするね」


 目の端には涙をためているも、今のコノハは幸せそうな笑顔なので、むしろ可愛らしかった。


 彼女にうれし涙を流させることができて、ある種の達成感が胸にわいてきた。


 が、その達成感に水を差すようにして、周囲がざわつき舌打ちまでしてきた。


 女神たちも、歴代クラスメイトたちである同期も、誰もが憎らし気にこちらを睨みつけたり、白けた顔をしている。


 どうやら、俺らが幸せそうなのが気に食わないらしい。


 他人の不幸を悲しみ幸せを喜べるのが人間にとって一番大事、とはとある名作アニメのセリフだけど、連中は真逆だ。


 人の不幸で飯を食い、他人の幸せを妬む、人のクズである。


 女神たちも、正直言って邪神の類ではなかろうか。


 すると、去年のクラスメイトであり、いわゆるクラスカースト一軍の男子、井宮がニヤリと邪悪に笑った。


「はいはーい提案でーす」


 バスケ部期待のルーキーで読モもやっている長身のイケメン。

 奴の発言には女子は当然、誰もが注目した。


「異世界に行く前に一度練習試合しようぜ。元和だってナイフ術スキルがどんなものか試しておいた方が安心だろ? オレの剣術スキルとやってみようぜ」


 練習というなの虐待をする気なのは明白だが、女子たちは黄色い声をあげた。


「さっすが井宮くん、やっさしぃ!」

「いちいち言うことが違うよねぇ」

「元和、あんた早く井宮君にお礼言いなさいよね!」


 勝手なことを言うなと、俺は心の中で悪態をついた。

 そんなこと頼んでいないしやりたくもない。


「そうか。でも俺は遠慮する。お前らでやってろ」


 俺が断ると、同期たちが口々に非難してきた。


「おいおい逃げるのかよ?」

「せっかく井宮くんが気遣ってくれているのにサイテー」

「あんたほんと空気読めないよね」


 聞きなれ過ぎた言葉を俺が無視していると、コノハが心配してくれた。


「だいじょうぶ元和君?」

「大丈夫だよ。それよりも早く異世界に送ってくれ」

「待ちなさいよ」


 ふたつ目の水を差してきたのは、剣の女神スパーロだった。

 顔に浮かぶ嗜虐的な笑みから、ロクでもないことを考えているのは明白だった。


「あたしは女神として、正式に決めたわ。今この場で、あたしの御使い井宮とあんたの御使い、元和の演武の行うわ!」


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