第2話 おっぱい目当てじゃないよ
俺の言葉に辺りは静寂に包まれ、コノハは目を丸くして俺を仰ぎ見てきた。
すると、下野山が下品な声で絡んできた。
「おいおい
「いらねぇよ」
下野山を一瞥もせず、俺は当惑しているコノハを見つめた。
「その代わり、こいつは御使いにしないでくれ。俺が君の御使いになるから、それでいいだろ?」
すると、コノハは信じられないという表情で固まり、まばたきをした。
「あの、でもそれじゃあ貴方には何の得も……」
他の女神たちを横目で見ながら、彼女はためらいがちに息を呑んだ。
「私の加護はチート、なんて言えるものじゃないし、スパーロの剣術スキルを貰えば貴方は異世界で間違いなく活躍できるし、英雄になれるよ?」
コノハの言葉に、スパーロは金髪をかきあげながら自慢げに胸を張った。
スパーロを選んだ生徒たちも、自分の選択は正しかったと言わんばかりに得意げだ。
でも、俺はまるで興味がわかなかった。
「かもな。けど別に俺は英雄になりたいわけじゃない。あいにくと俺は令和男子のさとり世代でね……地位や名声なんてくだらない」
実際、俺はみんなと違ってSNSのフォロワーやイイネの数や評価なんてどうでもいいし、そもそもSNSをやっていない。
「おいおいカッコつけるなよ!」
「陰キャでボッチの地味男のいい訳か?」
「ダッサ~!」
歴代クラスメイトとも言える修学旅行メンバーがせせら笑って来る。
これから地元のしがらみのない異世界に行くせいか、俺は口が軽くなった。
「お前らは地位や名声が欲しいのか?」
「んなもん欲しいに決まっているだろ? お前バカじゃねぇの?」
「まっ、SNSもやっていないような陰キャ君には理解できないか?」
「あぁ、理解できないね」
軽く頷いた。
「俺は自分の都合で他人をどうこうしたいとは思わないし、知らない人たちから支持される価値もわからねぇよ」
「ちっ、スカシやがって」
「達観した大人ぶってんのか?」
「どうせオレらに勝てないからって負け惜しみ言いやがって」
「あ~わかるぅ。彼女いない男が『オレ、女に興味ないから』とか言うやつぅ?」
自身の価値観だけが正しいと妄信する結論ありきの連中はさらに勢いづいて俺を嘲笑してくる。
その様子に、女神たちも便乗してきた。
「よかったわねぇコノハぁ。生涯初の御使いゲットじゃない?」
「同情のお情けでも御使いは御使いだもんねぇ」
「これもあたしらがアドバイスしたおかげよね」
「そうそう、おっぱい丸出しの服着ればってね」
「ちょっとそんなこと言ったらあの人間に悪いわよ。表向きは同情したことになっているんだから」
「コノハ、その子を逃さないようせいぜい夜のお勤め頑張りなさいよぉ」
ドッと爆笑が湧いた。
どうやら、女神と言えど頭のレベルは人間と変わらないらしい。
こんな連中が神、高位存在なのかと残念な気持ちになりながら、俺はコノハの手を取り引いて立たせた。
「あいつらはほうっておこう。じゃあコノハ、俺に君の力をくれ」
「……」
けれど、コノハはうつむき、きゅっと唇を閉ざしてしまう。
「どうした? 俺にチートをくれるんだろ?」
「できないよ……」
まるで罪を告白するように、彼女は言った。
「ありがとう。貴方はとても、優しい人なんだよね。溺れる犬を目にすれば棒で叩くような人ばかりだと思っていたけど、君は私に手をさしのべてくれた。でもね、そんな貴方だからこそ、私のせいで人生を棒に振って欲しくないの」
両手を軽く振って、彼女は顔を上げた。
「だって考えてもみて! これはチャンスなんだよ! 女神からチートを貰って異世界に転移して世界を救い英雄に、地上の言葉で言う勝ち組になれる、人生大逆転の、一世一代の大チャンス! ……なのに、それを一時の同情で棒に振ることなんてない……ないん、だよ……」
言葉はみるみる力を失い、視線は落ちた。
彼女の気遣いが、さらに俺の気持ちを加速させた。
その言葉は最高のブーメランだ。
溺れる者は藁をもつかむ。
他人の犠牲で自身が救われるなら、誰だって飛びつくだろう。
なのにコノハは、他人を犠牲にするくらいなら救われなくていいと、チャンスを捨ててしまえるのだ。
こんなにも優しい女の子には出会ったことがない。
彼女には笑って欲しいし、幸せになって欲しいと強く思う。
だから俺は衝動のままにコノハの手を握った。
「そんな君だから、俺は助けたいんだよ。俺は知らない100万人からの賞賛よりも、君の救いになりたい。地位や権力をくれるなら、君を救う権利をくれ」
顔を上げたコノハの視線と俺の眼差しが絡み合い、彼女の目から涙がこぼれた。
「俺は君の御使いになる。君のチートが異世界にどこまで通じるか、俺に証明させてくれ。それで英雄に慣れなくても、君が喜んでくれた、俺は嬉しいよ」
「ッ……はい」
コノハは静かに、俺に体重を預けるようにしてそっと抱き着いてきた。
俺は密かに照れた。
俺を頼ってくれたのが嬉しい反面、なんというか、彼女の特別に大きな胸がぐんにゅりと押し潰れるぐらい押し当てられてきて……嬉し恥ずかしかった。
体の奥から熱が湧き上がって、体温がぐんぐん高くなっていく。
こんな時になんて汚らわしいことを考えているんだと自分を責めるも、それは早とちりだった。
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