俺をイジメた歴代クラスメイト全員と異世界転移!外れスキルのナイフ術は無限の成長性を秘めた当たりスキルだった
鏡銀鉢
第1話 オワコン女神
「喜びなさい! 選ばれし生徒諸君! あんたたちには好きなチートをあげるわ!」
アニメのヒロインみたいな美声に叩き起こされて俺が目を開けると、何もない白い天井が広がっていた。
次いで認識したのは、クラスメイト達のざわめきだった。
体を起こすと、俺はクラスメイト、いや、見れば他のクラスのみんなと一緒に、何もない白い空間に寝転がっていた。
――えーっと確か俺は修学旅行で沖縄行きの飛行機に乗って……。
「うおっ!? あんたら誰!?」
男子の声に思考を遮られて振り向くと、俺は思わず立ち上がった。
空間の右手には、大勢の美少女たちが横一列に整列していた。
見たこともないような絶世の2・5次元美少女たちに、俺は息を呑んだ。
2・5次元ていうのは、ようするに、日本のリアル系ファンタジーゲームに出てくるようなというか、CGアニメ顔というか。
髪も目も黒や金髪はもちろん、紫や緑などアニメでしか見ないような色だし、服装も異世界ファンタジーアニメ調だ。
プロポーションも、クラスの女子たちとは一線を画する。
手足とウエストはスーパーモデル以上、バストとヒップはグラビアモデル以上だ。
その中の一人である金髪碧眼で赤いドレスを着た美少女が、前に進み出た。
最中央で背を逸らせて堂々と立っていたことから、彼女が美少女軍団のリーダーであることが推測できた。
「担当直入に言うわね! あんたらは死んだわ!」
え? とか は? とかいう言葉が俺らの口から洩れた。
けど、美少女は意に介さず、朗々と話を続けた。
「修学旅行中に飛行機が墜落したのよ。で、ここは天国の入り口であたしらは女神様。あたしは剣の女神で上級神のスパーロよ」
ふふん、と偉そうに鼻で笑いながら、スパーロは腰と口元に手を当てた。
「普通は記憶を消去して輪廻転生か天国か地獄の三択なんだけど、若くて適応力のあるあんたらは異世界転移でチートウハウハ生活をプレゼントしてあげる。どう嬉しいでしょ? 感謝して崇め奉ってくれてもいいのよ!」
形の良い胸を張りながら、スパーロは得意満面だった。
俺らが死んだとか女神とか異世界チートとか、ツッコミところが満載だけど、状況は理解できる。
これが、彼女の言う適応力の高さなのか。
異世界チート系アニメに慣れ親しんでいる俺は「あーはいはいあのパターンね」というのが第一印象だ。
冷静に、まだ使い切っていない小遣いの残りとかあの漫画の最終回見てから死にたかったなぁとか考え始めてしまう。
「転生先の世界では魔王率いる十二神将が人類支配をもくろんでいるわ。この魔王たちを倒すのがあんたらの役目ね。そ、こ、で」
ちっちっちっ、と人差し指を左右に振る。
「一番大事なのはどのチートを貰うのかよ! あんたらにはあたし達の中から担当女神を一人選んで貰うわ。もちろん、あたしの御使いになるなら今日から剣の達人で必要な身体能力ゲット!」
自慢げなスパーロに続けて、左右に並ぶ派手な格好をした女神も前に出た。
「ワタクシの御使いになれば槍の達人ですわ」
「わらわの御使いになれば、100の魔法と絶大な魔力を授けてしんぜよう」
「おいおい一芸特化のほうがいいぜ。アタイの御使いになって火炎使いになりな」
「ウチの弓なら魔力が尽きても遠距離から敵を撃てるでぇ」
絶世の美少女たちから具体的な条件を提示されると、男子たちを中心にみんなの目の色が変わった。
もっとも、女子たちは別だ。
「ちょっと待ちなさいよ! 私たちやるなんて言ってないんだけど!?」
「そうです! 一般人を戦わせるなんて非人道的です!」
「そうよ! 記憶を消してイケメン許嫁付きのお金持ちの家の美少女に生まれ変わらせなさいよ!」
「ていうかこれ本当はドッキリなんじゃないの? 異世界転生とかラノベじゃないんだから!」
美少女パワーの効かない女子たちが噛みつくと、スパーロがニヤリと笑った。
「当然、向こうの世界にはイケメン貴族や王子様なんていくらでもいるし、救国の乙女となれば世界中の貴公子たちがほうっておかないでしょうね」
その一言で、女子たちはおとなしくなった。むしろ腰が低くなった。
「ま、まぁ女神さまの頼みなら、ねぇ?」
「非人道的な魔王軍を倒すために戦ってあげてもいいですよ」
「異世界イケメンパラダイス、是非転生させてください!」
「テレビのドッキリなら乗っかってあげないとプロデューサーが可哀そうよね」
強欲な我が学園の女子たちはわかりやすい手の平返しで媚びを売り始めた。
正直、見ていて辟易してくるし恥ずかしい。
同級生という同じカテゴリーを持っているだけで嫌になる。
それは言い過ぎと思う人もいるだろうけど、そんなことはない。
だってこいつらは……。
俺が呆れている中、女神たちが一人ずつ自己紹介をし始めた。
そのたび、みんなは誰の御使いになるかを隣近所と相談しながら色めき立っている。
女神たちは大きく分けると、
剣、槍、弓、斧などの戦闘技術系統。
攻撃魔法、回復支援魔法などの魔法系統。
炎使い、雷使いなどの異能系統。
の三つに分かれるようだ。
他、どれにも属さない特殊なチート、その他、みたいなのもある。
「さて、自己紹介はこんなところかしら。じゃああんたたち、好きな女神の元に集まりなさい! もっとも、どうしても悩む時は女神の外見で選ぶのをおすすめするわよ。何せあんたたちの担当女神として長いお付き合いになるんだから」
言って、スパーロはドレスの肩ひもを直した。
同時に、形の良い巨乳が揺れた。
男子たちが生唾を飲み込み、何人かがスパーロの元に集まった。
と言うか、多くの生徒がスパーロの周りに集まる。
――なるほど。そういうことか。
きっと、御使いの数が女神の格を決め、格の高い女神ほど中心に近い位置に立つのだろう。
剣の女神であるスパーロの左右にいるのは槍、弓、魔法、火炎の女神と、メジャーな戦闘方法だ。
逆に、端に行くほど鞭の女神や鎌の女神などマイナーな能力で、集まる生徒も少ない。
まさに、中心に立つスパーロを頂点としたゆるやかなピラミッド状態だ。
――ん?
うちの学園は全員で363人もいる。
だからどの女神でも最低三人程度は集まっている。
なのに一人だけ、誰も集まらない女神がいて目を引いた。
列の端っこどころかちょっと離れた場所に立っているから、余計に目立つ。
背はちょっと高めで腰まで伸びた綺麗な黒髪と、大きな垂れ目が印象的な子だった。
眉も下がり眉でやや猫背気味なので、妙に腰が低くおどおどして見える。
そういえば、自己紹介の時も小声でみんなの反応も冷ややかだった。
――あの子は確か、ナイフの女神だったかな?
ナイフ……はっきり言って、魔王と戦うには弱そうだ。
それに剣の女神とアサシンの女神がいるため、みんなからは下位互換と嘲笑されていた。
彼女の美貌が徐々に泣き顔に変わりに、華奢な両手がぎゅっとスカートを握りしめる。
なんだか、可哀想に思えてきた。
こんな、目に見える形で人気のなさを見せつけられれば、お前はいらないと言われているようなものだ。
きっと、彼女は強い自己否定感や劣等感に苛まれている事だろう。
そこへ、一人の男子が近づいた。
「おい、あんた誰だっけ? つか何の女神?」
「は、はい、コノハって言います。ナイフの女神です!」
怯えながら、希望にすがりつくようにしてコノハは湿り気を帯びた声を漏らした。
話しかけてくれ。
それだけで、彼女にとってまたとないチャンスなのだろう。
「ナイフぅ? なんか弱そうだな。ていうか剣とアサシンの女神がいるんだから下位互換じゃん」
俺は同意しかねるけど、一般のイメージはそんなもんだろう。
けれど、コノハは反論の言葉を持たないらしい。
「はうぅ……」
とふさぎ込んでしまう。
だから、次に吐き出した男子の言葉には俺もコノハも驚いた。
「まぁいいや、オレ、あんたの御使いになってやってもいいぜ」
「ほ、本当ですか!?」
コノハの顔がパッと明るくなり、目を丸く開けて背筋も伸ばした。
ただし、俺の驚きは別ベクトルのソレだった。
だって、こいつがそんな同情で動くわけがない。
だってこいつは、こいつらは……。
「本当ですよ。その代わり、その牛みたいな爆乳でオレのを気持ちよくしてくださいよ?」
「……え?」
コノハの口から一切のぬくもりを感じない声が漏れると、男子はクラスの女子たちもいる場で、ズボンのチャックを下ろした。
「実は一目見た時から気になっていたんだよなぁ、あんたのその爆乳。ていうかそんな谷間丸出しの服装して、誘う気満々なんでしょ?」
「あ、いや、ちが、これはスパーロがこれぐらいの格好しないと誰も御使いになってくれないって言うから」
「なーんだ、やっぱりおっぱいで釣る気だったんじゃねぇか! だったらいいよな? ほらほら、この場でその立派なものでオレを気持ちよくしろよ。それでオレが満足したら御使いになってやってもいいぜ」
ゲスの極みともいえる最低の光景に、男子たちは歓声と口笛を上げて鑑賞態勢に入った。
女子たちでさえ、男子のことを蔑みつつ、コノハのことを無様な女神だとせせら笑った。
そして、本来なら神罰を下してもいい状況にもかかわらず、女神たちはと言えば実に何もしなかった。
スパーロに至っては、ザマァとばかりに悪い笑みを浮かべている。
仲間の女神たちが誰も助けてくれない現状に、コノハは青ざめながら目に涙をためて震えていた。
「あ、あ、あ、あの、あの……」
「ほらほらぁ、何しているんだよ女神さまぁ。さっさと脱いでひざまずいてオレのをパンツから引っ張り出してくれよぉ」
「で、でも……」
コノハが自分の肩を抱いて震えると、男子は下卑た声を上げた。
「やっぱやめようかなぁ! そうしたらあんた御使いゼロですねぇ! それは困るんじゃないですかぁ?」
「う、う、それ、は……」
どうやら、こいつも気づいたらしい。御使いと女神の格の関係に。
列の一番端っこ、むしろ少し離れたところに立たされて、御使いがゼロで、他の女神たちからも仲間外れにされている。
これだけで、コノハが天界でどういう立ち位置かは一目瞭然だ。
だからと言って、それを悪用して女神に性的奉仕をさせられるとまっさきに思いつくこいつはクズだし、それをはやしたてて喜び観戦しているこいつらもクズだ。
けれど残念なことに、それが俺の通う学園のスタンダードだった。
うちの地元はそれなりに人口の多い反面、周囲を山に囲まれた閉鎖的な地方都市だ。
謎の因習や無数のカースト制度が蔓延り、最大の娯楽が他人を蔑むこと。
そんな親に育てられた子供も然りだ。小学生の頃から教室はカースト一軍の生徒たちに支配され、二軍の使徒は一軍にこびへつらいながらその鬱憤を三軍生徒にぶつける。
そしてその三軍生徒でさえ、こいつよりは俺の方が上だと不毛な底辺争いに明け暮れる。
それが俺の生まれ育った町の実態であり、こいつは典型的な地元民だった。
コノハは涙を浮かべながら膝を折り、クズ男子の前にひざまずいた。
俺の中に、二つの感情が生まれた。
一つは、こいつの思い通りにさせてなるものか。
もう一つは、コノハを助けたい、だった。
俺が辛くて苦しくて誰かに助けてほしかった時、誰も手を差し伸べてくれなかった。
その時の惨めさを思い出すだけで、俺の足は彼女のもとへ向き、手は彼女の肩に触れた。
「俺が、君の御使いになるよ」
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