第4話 股間を失ったクズをジュージュー焼いてみた

 仲間に回復魔法をかけてもらいながら、元クラスメイトたちは顔を上げた。


「日本にいた頃は俺と同じただの高校生のくせして強者気取りで俺をいじめて、異世界に来たら反省するどころかジョブとスキルの力に溺れて支配者気取り。知っているんだよ。お前らが町の人や貴族たちから金品や宝飾品を貢がせたり、性的虐待をしてきたことなんて。それが今はどうだ?」


 傷口が塞がっても鈍痛や精神的ショックから立ち直れず、疲労困憊の元クラスメイトたちを睥睨しながら、俺は漂白された溜息を吐いた。


「今まで馬鹿にして虐待してきた俺相手に30人がかりで一方的にボロ負け。痛いよな? 辛いよな? 苦しいよな? でもな、今までお前らの犠牲になった人たちはもっと辛かったんだぞ? 今からでも反省して街の人たちに謝罪して償い続けるって約束するか?」


 股間を失って動けない足立宮はともかく、他の連中はそれでも憎らし気にこちらを睨みつけてきた。


「うるせぇ! 誰が北見なんかに!」

「待って」


 一人の男子が声を荒らげると、女子の中心人物である岡野島が手で制した。


「そ、そうね。どうやら北見の魔法の腕前は本当みたいね。あんたの読書スキルって確かどんな本でも読めるって能力よね? あたしらの知らないところで古代の魔導書を見つけて、力を隠していたのね。まったくずるいんだから」


 どこか媚びるような響きに、俺はさらに心が冷めていくのを感じた。


「わかったわ北見。あんたのこと、認めてあげる。みんなもそれでいいわね? 今後、北見を雑に扱うことを禁止するわ。文句のある人は今この場で言いなさい」


 岡野島が振り返り呼びかけると、みんな不承不承と言った風に頷いた。


「うん、まぁ」

「強いのはほんとみたいだし」

「役には立つか」

「ちっ、なんで北見なんかに」

「しょうがないでしょ、岡野島さんが言うんだから」


 反論する人がいないことを確認すると、岡野島は上機嫌に振り返った。


「はい、というわけで決定ね。お互い今までのことは水に流しましょう。まぁあんたも無能じゃなくなったみたいだし、歓迎してあげるわ。よかったわね北見、これであんたもあたしらの仲間よ」

「勝手に決めるなよ」


 岡野島の笑みへ吐き捨てるように、俺は声を苛立たせた。

 本当に、どうしてこんな連中が存在するのか、冷めた心が一周回っていて熱を帯びてきた。


「はぁ? 何よあんた。話聞いてた? 仲間にしてやるって言ってんでしょ?」

「そうよ北見! せっかく岡野島さんが許してくれるって言っているのに」

「あたしらは今あんたがした暴力を水に流してあげようとしてんのに最低!」


 喉元過ぎれば熱さを忘れる。

 コトワザの通り、俺を責める流れができると、連中は俺の実力を忘れたように勢いづいた。


「そうだぞ北見! オレらは裏切り者のお前を許してやるって言っているんだぞ!」

「今なら土下座して謝れば後でこの金髪ボスをオレらの後に抱かせてやるぜ!」

「意地張るなよ。同じクラスの仲間だろ! 本当はお前だって戻りたいんだろ?」


 そこで、岡野島は閃いたようにハッとしてからジト目になった。


「はっはーん、わかったわよ北見。さてはあんたあたしらのグループに入りたいんでしょう?」


 ここで言うあたしら、というのは一軍グループのことだろう。

 街の有力者の関係者や運動部、イケメン美少女などの華やかな連中だけで構成された、クラスの中心メンバーだ。


「図々しいわねぇ、けど、ま。足立宮があれじゃ仕方ないか。いいわよ、じゃあ今後の働き次第ではあたしらのグループに入れてあげる。これでいいでしょ。ほら、さっさとダンジョンボスにトドメ刺しなさいよ」


 呆れ口調の後の命令口調。

 本当に、こいつらはどこまで醜いのだろうと、俺は奥歯を噛みしめた。


「誰がお前らみたいな底辺クズ野郎の仲間になるかよバカじゃねぇのか?」

「バッ!? はっ!?」


 顔を引き攣らせて固まる岡野島に、俺は声を荒らげて続けた。


「お前らの低俗な脳味噌でもわかるように言ってやるよ。お前ら全員最低のクズ野郎なんだよ。ていうかドラマや漫画見たことねぇのかよ。お前らのやっている事って悪役まんまじゃねぇか。いつも他人をバカにして見下して攻撃して、自分勝手で理不尽に他人を振り回して支配して、法律よりも自分たちのほうが偉いと思っているとか幼稚園児かよ」


「こ、この岡野島議員の娘であるあたしに幼稚園児ってバカにしているのはどっちよ! あんたの家なんてどこの有力者からも相手にされていない底辺一家のくせに!」


 顔を真っ赤にしながら喚き散らす岡野島に、俺はうざったそうに吐き捨てた。


「地元の有力者マウントとか昭和かよ。いや大正時代か? もしかすると明治かもな」


 ちなみに。

 明治時代は犯罪的な伝統を持つ村に対して警察と裁判所が介入しようとすると、村人たちが村の伝統に政府が口出しをするなと抗議をしてきて衝突になったりもしたらしい。


「ギィー! クズはどっちよ! 同じ学園の仲間に散々暴行を加えておきながら! あんたこそ殺人未遂で死刑よ!」

「仲間? 剣で斬りかかって、殴りかかって、矢を向けて、炎を浴びせるのが仲間か?」


「それはあんたが先にあの吸血鬼女を守るからでしょ!」

「そうだ! お前の反射魔法のせいでオレらはケガしたんだぞ!」

「先に囮にしたのはどっちだ?」


「だからそれはみんなが助かるための仕方ない犠牲でしょ! でもあんたが反射魔法であのデカパイ吸血鬼を守ったのはただの仕返しじゃない!」

「ゲラゲラと笑いながら楽しそうに締め出したのが尊い犠牲か……」


「そんなのあんたが無能だからでしょ!」

「そうだ北見! テメェは普段から底辺のくせに生意気なんだよ!」

「いつもいつもあたしらをイラつかせているんだから当然の報いよ!」

「むしろみんなを助けるために喜んで死になさいよ!」

「自分が助かればクラスの仲間がどうなってもいいなんて最低ね!」

「土ッ下ッ座! はいッ土ッ下ッ座! ハイッ土ッ下ッ座!」


 そこから始まる俺への罵詈雑言大喜利。

 バカもここまで来ると芸術である。


 俺らをこの異世界に転生させた神様に言いたい。

 あんたが創造神ならなんでこいつらを作ったんだ?


 苛立ちがさらに一蹴して、また冷めてくる。

 けれど、それは怒りが治まったわけではない。

 むしろ、冷酷な怒りに変わったと言っていい。


「ああもういいわ! こんな低脳に何を言っても無駄ね! あんたにはあたしに逆らったらどうなるかその体にわからせてやるわ!」


 岡野島が怒りに任せて白い剣を振り上げた直後、元クラスメイト達全員の足元から軽くマグマが噴き出した。


『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!』


 五十音では表現できない悲鳴が謁見の間に轟いた。


 2000度のマグマは岡野島たちの膝から下を飲み込み、みんな武器を投げ捨て床に倒れながら手で足を払うが逆効果だった。


 俺が出したのは炎ではなく粘り気のあるマグマだ。


 その場から移動してもマグマは膝から下に張り付き取れはしない。


 むしろ、払おうとした手の平にもマグマが付いて火傷を負った。


 股間を失って四つん這いのまま動けなかった足立宮は股間の激痛に加えて両手両足の火傷も加わり、陸揚げされた魚のように跳ねながら転がりまわるという芸を披露していた。


 その光景を見ても、やっぱり何も感じない。


「……お前らさぁ、さっき俺にボロ負けしたのに何で俺に勝てると思ったんだ? それを見下しているって言うんだよ」


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」


 痛みが強すぎて、誰も俺の話を聞いていなかった。

 仕方ないので冷気呪文で全員のマグマを冷ましてやった。

 今度は逆に髪やまつ毛も凍り付き、鼻毛がくっついて鼻の穴が塞がり全員口呼吸をしていた。


「これで俺の話を聞けるようになったか?」


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