第3話 俺の地元は腐ってる
俺の地元は、周囲を山に囲まれた中規模の地方都市だった。
四つの小学校と二つの中学校、そして一つの高校を有し、ほぼ全ての生徒がエスカレーター式に進学していく。
中規模都市とは言っても閉鎖的な村社会で、地元の有力者による独裁政権が横行し治安は最悪だった。
街は有力者を頂点としたピラミッド社会で、その側近や末端の側近が虎の威を借りる狐よろしく威張り散らしていた。
全ての住民は有力者グループの殿様気分を維持するために立ち回り、逆らえば村八分にされてしまう。
そのせいか、住民はカーストを作るのが当たり前で、むしろ自分が他人より優位に立てるカーストを求めてカーストは無限に増えていった。
町内会、商店街、会社、役所、ママさんグループに至るまで自然とカーストを作り、誰もが自分より格下の人間を求めていた。
東小学校の俺は、運動のできる男子の命令を聞かなかったという理由で三軍に落とされた。
北中学校に進学すると、北小学校の生徒たちの中に有力者の側近の娘がいて、俺はそいつのご機嫌取りをしなかったという理由で三軍にされた。
そして高校に進学すると、南中学校の生徒たちの中に有力者の息子がいて、俺はそいつへ挨拶をしに行かなかったという理由で三軍にされた。
そして誰もが一軍のご機嫌取りのために喜んで俺をいじめた。
そんな俺らがこの異世界に来たのは高校三年の修学旅行中。
三年生363人を乗せた飛行機が墜落して気が付いた時、俺らは何もない白い空間にいた。
そこでジョブとスキルという二つの特殊能力を授かり、異世界を救う使命を帯びたのだが……。
「よっしゃ、オレ剣聖だぜ!」
「拳闘士か、ボクシング部のオレにはぴったりだな」
「あたしは聖騎士よ。ま、当然よね」
「学年首席の僕が賢者か。異世界でも大事なのはやっぱりココだね」
「オレはジョブはただの剣士だけど、スキルが獲得経験値1・2倍。ガンガンレベル上げるぜぇ!」
「あたしのスキルは高速魔力回復。魔力の回復スピードが二倍だって♪ ん、そういえばまだジョブもスキルも聞いていない奴がいたわね」
女子が水を向けてきたのは俺だった。
白い空間でみんなが自身の授かったジョブとスキルをひけらかし終われば、必然、マウントを取る相手を探し始める。
それがうちの住民性だ。
「おうそうだよ北見。お前のジョブとスキルはなんなんだ?」
「無職ニートとか?」
「あり得るぅ!」
誰もが三軍の俺に無能を求めていた。
連中が搾取する側でいるには、俺に最底辺者であって貰わないといけないからだ。
俺がラノベの主人公なら、救世主ジョブと全知全能スキルを授かるところだけど、現実はそんなに甘くない。
ステータスウィンドウは他人には見えないので嘘をつこうと思えばつけるけれど、バレた時のことを考えると正直に言うしかない。
歴代クラスメイトたち、と言っても過言ではない学年中の生徒たちの好奇心に掘王位される中、俺は穴があったら入りたい気分で呟いた。
「ジョブはナイフ使いで……スキルは読書だよ」
爆笑。
「ぎゃはははは! ナイフ使いっておい、ギャグかよ!」
「せめてアサシンとかシーフとかよぉ!」
「ナイフって、剣の下位互換じゃねぇか!」
「え~じゃあなになにぃ? リンゴの皮剥きめっちゃ速いのぉ?」
「おいみんな! リンゴ食べる時は北見に言えよ! それしか仕事ないんだから!」
「ぶっすすぅ! それでそれで? 読書スキルってなんだ?」
非現実的な、漫画のような態度。
みんな、その場の空気に酔ってハイになりながら俺の言葉を待っていた。
「ウィンドウの説明だと、この世のどんな本でも読めるらしい」
「ふーん、ようするに古代文字とか暗号文でも読める解読スキルってことか」
「あれ? でもあたしらって全員、全ての人語と文字がわかる他言語スキルと識字スキルは標準装備だよね?」
「ぶっほ! なにそれ効果被ってんじゃねぇか! マジウケる!」
「ほんと、北見マジ北見だよねぇ!」
さらにハイテンションになりながら、その場の誰もが爆笑し、俺をイジリ倒す大喜利状態になる。
さながらフリー素材のように好き勝手に使われながら、俺は何も言えずにウィンドウへ視線を落とした。
日本では三軍生徒として12年間いじめられた。
そして、この異世界でも俺は三軍なのか。
己の宿命を呪いながら、いっそ生まれたくなかったと熱望しながらさらに視線wの伏せるとソレが目に留まった。
「?」
読書スキル説明文の右端に、小さく【>】が出ている。
何だろうと思って指でタップすると、【書籍一覧】という表示が出る。
「? ? ?」
さらにタップすると【魔導書】【小説】【学術書】【情報資料】【辞典】という表示が出た。
まさかと思い、【魔導書】をタップすると、大型書店の商品検索機のように、魔導書の一覧画面が開いた。
――おい、ちょっと待てよ。もしかして……。
一冊の本をタップすると書籍の簡単に解説文とページ数、作者、書かれた年代が出てきて、案の定【読む】がある。
タップと同時に電子書籍画面が開くと、期待で心臓が跳ね上がった。
――やっぱりそうだ!
手を叩きたいほどの衝動に駆られた。
つまり、読書スキルの【この世のどんな本でも読める】、というのは、【閲覧できる】という意味だったのだ。
しかも。
――すごい。本の意味がわかるぞ。
魔導書の中は、きっと難解な魔術理論だったに違いない。
それが、まるで絵本でもようにしてすんなりと理解できた。しかも、読書スピードは速読並だ。
手書きの魔導書は文字が大きいため、一ページ当たりの文字数が少ない。
けれど、それを差し引いてもなお、ページをめくるスピードは教科書の十倍以上だ。
みんなが俺を無視して大喜利で盛り上がる間に一冊読み終えてしまうと、ウィンドウにメッセージがポップした。
【魔法】を選択すると、俺のステータスには火炎魔法が追加されていた。
それこそ、キャンプファイヤーよろしく俺の周囲に集まりバカ共が騒ぐ中、俺は気づいていた。
――もしかして、俺、めっちゃチートなんじゃないか?
ファンタジーな異世界の魔導書全てを読み理解できるなら、俺は魔法の全てを手に入れる大魔導士様だ。
それこそ、賢者なんて目じゃないだろう。
「み――」
みんな、と言おうとして、俺は口をつぐんだ。
俺がチートだと分かったら、こいつらはどうするだろうか?
1:魔法組を中心に妬んでいじめてくる。
2:俺を利用し搾取するために精神的に支配しようとしてくる。
3:魔導書の中身を教えろと俺を読み上げソフト扱いしてくる。
一番マシなのは、手の平返しでチヤホヤしてきたり、俺に取り入ろうとしてくる、というパターンだけどこれもナシだ。
俺は連中の人間性を知っているし大嫌いだ。
嫌いな連中からチヤホヤされてもまったく嬉しくない。
むしろ気持ち悪いだけだ。
もっとも、こいつらがカースト制度の熱から冷めて正気に戻ったら別だけど。
――よし。
そこで、俺はこの力を隠すことに決めた。
みんなだってまだ高校生。
あの町の雰囲気に呑まれてイキっていただけで、異世界の空気に触れれば今まで自分たちのしてきたことを反省するかもしれない。
その時は、チート能力でみんなを助けてあげようと思う。
以来、俺は無能を演じながら暇さえあれば魔導書を読み漁った。
数えきれないほどの魔法を蓄え、こっそりと遠くのモンスターを倒してはストレージに収納した。
隠ぺい魔法を覚えるとすぐに自分に使ったため、他人から本当のレベルを知られることもなかった。
こうして俺は、いつかみんなが改心してくれることを期待し続けた。
けれど、その果てに待っていたのは残酷な裏切りだった。
今にして思えば、俺はとんだ甘ちゃんだったのだ。
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