第4話 危険なパンプス
翌日の夕方。
俺がダンジョン最下層のボス部屋で剣を握っていると、出入り口が騒がしくなった。
「おい、誰かいるぞ?」
「あいつらがボスか? 人型の?」
「待って、右のってもしかして……」
俺が振り返ると、戸惑いの声は驚愕に変わった。
『な、ななくさぁ!?』
昨日、自分たちが囮に、いや、自分たちの手で裏切り殺した俺の顔に、賀山や源田、権藤や造園寺たち25人のクラスメイトは青ざめ、動揺を隠しきれていなかった。
「び、びびんじゃねぇ。きっとあれは幻覚だ! じゃなかったら隣の女がボスできっとアンデッド使いなんだ!」
「そうか! 流石は賀山」
都合のいい妄想を受け入れる連中に、俺は即答した。
「いや、俺は本物だし生きている。ダンジョンボスは、俺が倒したんだ」
「はぁ? お前がボスに勝てるわけないだろ!? 中層の敵だってオレらより強いのに」
賀山の言う通りだ。
このダンジョンのモンスターは強く、賀山たちでは最下層どころか中層のモンスターにも敵わない。
ただし、その賀山たちは今、ボス部屋に来れている。
「でも実際、宝器なら手に入れたぞ」
俺が右手に握る青い
「へぇ、やるじゃんか。よし七草、お前はダンジョン調査の為に昨日、あえてここに残ったことにしてやる。そうすればクソ皇帝のオレらへの評価も変わるだろうぜ」
賀山はしめしめとばかりにニヤけながら、こちらに歩み寄ってきた。
「それにしてもここの宝器が本当に剣だったのはツイてるぜ。これでオレの勇者としての――」
賀山が手を伸ばしてきたので、俺は半歩下がりながら剣を退いた。
空ぶった賀山は眉をひそめた。
「あんっ?」
「何盗ろうとしているんだよ? これは俺の宝器だぞ?」
賀山の眉間に怒りの縦ジワが刻まれた。
以前、奴隷に反抗された貴族がこんな顔をしていた。
「お前アホか!? こいつは聖剣や神剣を超える救世の剣だって皇帝が言っていただろうが! 勇者であるオレが持たずに誰が持つんだよ!?」
「救世主ジョブの俺だよ」
「は……?」
あっけらかんと俺が答えると、賀山はしばし唖然としてから、痛快そうに笑った。
「お前バカじゃねぇのか!? おいお前ら聞いたかよ! こいつ、自分のことを救世主ジョブだとよ!」
賀山の声に合わせて、俺を捨てたクラスメイトたちもこぞって爆笑を始めた。
だけど不思議なもので、少しも怒りが湧いてこない。
むしろ、頭の悪い小動物に対する同情にも似た感情が湧いてくる。
「ぎゃははは! お前は無職の無能だろうが! ぶぷっ! それを救世主なんてお前の頭の中だけだっつの。つうわけで」
賀山は背中の剣を抜くと、嗜虐的な殺意に顔を歪めながら俺の脳天に振り下ろしてきた。
「黙ってよこせよ底辺がぶげぶぼぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
目にも止まらない光速のパンプスキックがドテっ腹にブチ込まれて、賀山は体をくの字にへし折り血しぶきで赤い軌跡を描きながら床を水平にカッ飛んだ。
背後のクラスメイトたちに激突して、みんなはボウリングのピンのようにぶっ飛ばされて悲鳴を上げた。
痛みにのたうち回れる生徒はまだ幸せだ。
賀山はへし折れた体のまま、床の上で小刻みに震えながら、あらゆる汚液をドバドバと垂れ流し続けていた。
あまりの威力に、俺の視線は賀山を忘れてゆっくりと右に逸れた。
「せん、せい?」
前に突き出した黒いパンプスのかかとを下ろして、真宮先生はらしくない怒りの形相で叫んだ。
「私の生徒に何をするの!?」
「生徒?」
クラスの中から進み出てきたのは、俺の元担任である、男性教師の弁村だった。
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