第2話 やめてさしあげろ
10万馬力の科学の子。ライツが衛兵も地下室の扉もワンパンでブチ抜いて、俺は彼女の背を追う形で場内を走った。
その間も、心の中でニヤニヤが止まらなかった。
いつもゲーム画面越しにしか会えない、彼女と一緒に走っている。
彼女の言動全てが俺にだけ向けられるオリジナルボイスでありオリジナルモーション。
これなら、むしろ日本より異世界のほうがいいのではとさえ思えた。
――異世界は最高だぜ!
そこへ、丁字路の交差地点に衛兵を連れたクズキングが姿を現した。
「何事だ騒がしいぞ! むっ、貴様は先程のハズレ異世界人! 牢を抜け出して何をしている!?」
「うるせぇ! 人様を勝手に召喚してお前こそ何様だ!?」
「なぬ!? ではコイツが司令官を拉致監禁した諸悪の根源!」
「そうだ! 待ってろよクズキング! 言っておくけど現代倫理武装している令和日本人男子の俺に封建社会の王様パワーが通じると――」
ババババキューン!
「いんぎゃぁああああああああああああああ!」
俺の啖呵は銃声と断末魔のような奇声に遮られた。
ライツの両手に握られた二丁拳銃の銃口からは白煙がのぼり、クズキングの両膝と右手と股間に赤いシミが広がっていく。
「「陛下ぁああああああああ!?」」
「へ……」
俺がぽけらーんと口を開けている間に、そしてクズキングが崩れ落ちる前に、ライツは廊下を駆け抜けクズキングの顔面に大気を焼き切るような廻し蹴りをお見舞いした。
目にも止まらぬ電光石火の早業に反応できる人なんていなくて、クズキングは口から赤い血と白い歯を噴き出しながらコマのように回転しながら床に顔面を叩きつけてからピクピクと尻を痙攣させた。
「「陛下ぁああああああああああああああああああああああ!」」
「はんっ、ザマァみろなのです!」
衛兵たちの悲鳴に無反応の王様に両手で鋭く中指を立てながら、ライツは舌をベロベロと出した。
俺は肝と股間を冷やしながら、前かがみになってしまう。
「あ、あの、ライツさん。やりすぎではないでしょうか?」
「司令官殿、あんな最低最悪のゴミクソ野郎にも温情をかけるとは、なんてお優しい。ジブンの涙腺にじぃ~んと来ているのです!」
目頭に真珠のような雫を滲ませながら、ライツは最高の美少女フェイスで感動に打ち震えていた。
両手に拳銃を握り、背後で股間を血まみれにしながら尻を痙攣させているおっさんがいなければ、さぞ絵になっていたことだろう……。
「おのれよくも陛下!」
「賊め! ひっとらえてくれる!」
いきりたつ衛兵が剣を構えると、ライツは邪悪な笑みでのけぞった。Fカップのバストが軍服越しによく目立つ。
「おんやぁ? いいんですくぁ? そのゲス野郎は虫の息! 今すぐ治療をしないと命はないのです! ジブンたちを助けるよりも先にやるべきことが、ぅあるんじゅあぁぬぁいのですくぁぁ?」
「ぐっ、なんと卑劣な! だが貴様の言う通りだ! おい、陛下を運ぶぞ!」
「なんと卑劣な! 貴様に人の心はないのか地獄に落ちろ!」
こちらの良心が痛むような正論を投げかけてくる衛兵に、ライツは小気味よくウキウキとお尻を振った。
「ずぁんねんでーしたぁ♪ ジブンは人造少女で戦争屋ですぅ♪ 戦争に卑怯もへったくれもありますか? 勝てば官軍、勝者が正義、弱肉強食、力こそ正義で無理が通れば道理は引っ込むのです!」
「ぐぅうううううう! なんたる屈辱! 我が騎士道にかけていつか殺してやる!」
「そうだ! 神の裁きを受けるがいい!」
「はんっ! 裁きを下すのはいつだって神ではなく人の欲、それが戦場の常なのです! さぁ司令官殿! あんなウジ虫は捨ておいて逃げるのです」
と、言って振り返りながら、肩越しに引き金を引いた。
「■■ッ!」
一発の弾丸が王様のケツに当たり、人とは思えない呻き声の後に尻の痙攣も止まった。
「「陛下ぁあああああああああああああああああああああああ!」」
「おっ、司令官殿、この窓から外に逃げられそうですよ」
「え!? え!? あれいいの!? ねぇいいの!?」
俺が確認する間、ライツはバルコニーに出ると量子装備から炭素ワイヤーを実体化させて手すりに引っ掛けると、自身の股下、首裏、わきの下に通して、懸垂下降体勢に入っていた。
「さぁ司令官殿! 自分を力いっぱい抱きしめてください! 安全に下ろします!」
――なんてブレない子だろう……。
「ご安心を! ジブンの体はクッション性に自信があります!」
股下からお尻を通し、首裏へ延びるワイヤーは胸の谷間を通っていて、彼女のFカップバストが強調されていた。
さっきとは、違う意味で前かがみになりそうな光景である。
「じゃ、じゃあ遠慮なく」
王様の尻と股間の安否は気になるも、俺は両腕を広げたバッチコイなライツに抱き着いた。
――ぐっ、やわらかい! しかもめっちゃいいにおいする!
「では行きますよ! あぁ、司令官殿がジブンを抱きしめている。時間よ止まれ」
俺はライツのぬくもりと抱き心地に心臓が痛いくらい暴れているけれど、腕の中ではライツも大興奮だった。
その後の懸垂下降は、人生でもっとも長い数秒だった。
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