美少女アーミー部隊の司令官は異世界で魔法を使わず人類の魔法文明にざまぁします

鏡銀鉢

第1話 司令官殿!私と結婚(仮)を!

「この者のスキルは【ガールズアーミー大作戦!】です」

「なんだそれは?」


 RPGゲームを彷彿とさせる城内で、王様然とした中年男性が眉をひそめた。


 俺は真田正親さなだまさちか、高校三年生だ。


 なんでこんなことになっているのか、それは俺にもわからない。

 ――馬鹿な。俺はいつも通りガールズアーミー大作戦で遊んでいて、たぶん寝落ちしたのか?


「貴様、このガールズアーミー大作戦とはなんだ?」


 神官風の中年男性にジロリと睨みつけられて、俺は赤絨毯の上に腰を下ろしたままのポーズで答えた。


「え? あ、ああゲームだよ。戦略シミュレーション系の。俺が長年やり込んでいるやつで得意なんだ」

「「なぁっ!? なんっ!? シミュレーションゲーム!?」」


 俺の一言で、王様風と神官風が怒りに表情を崩して鬼面となる。


「貴重な魔水晶を使って召喚したのが、ただの遊び人か!?」

「貴様よくも我が秘術の邪魔を!」


 王様風と神官風がそろって怒鳴ると、再度、王様風がが鳴った。


「衛兵! この役立たずを牢屋にブチ込め!」

「え? え? え? ちょっと!?」


 周りから鎧姿の人たちが集まってくる。

 そのまま必死の抵抗も空しく、俺は両腕をつかまれてズルズルと部屋の外へと連れていかれた。


 

   ◆



「ここでおとなしくしていろ!」

「ぐえっ!」


 牢屋に蹴り入れられた俺は牢屋の床を転がり壁に背中をぶつけた。

 口から洩れた声はカエルの鳴き声のように情けなかった。


「うぅ、いったい何がどうなっているんだ?」


 地下の牢屋は暗くてジメジメとしていて変な匂いがして、一時間もいれば病気になって体にキノコが生えてきそうな環境だった。


 廊下には同じような牢屋がずらりと並んでいて、だけど中身は空っぽだった。


 どうして自分はこんな目に遭っているのか考えてみる。


 いきなり知らない場所にいて、スキルがどうとか召喚がどうとか……。


「……もしかしてこれって異世界召喚?」


 ピキーンと気が付いて、自分の鈍感さを知った。


 日本語が通じる中世ヨーロッパ風、という時点で気が付いてしかるべきだろう。


 だとしたら困る。


 漫画もアニメもスマホもネットも動画もそろっている快適で安全な日本に帰りたい。


 異世界あるあるで文化文明レベルが中世並なら、人権や人の命なんて紙くず同然だろう。


 こんな世界、一日だっていられない。俺はシティ派なのだ。


 それに、俺の大好きなガールズアーミー大作戦、略して【ガルアミ】を二度とプレイできないなんて辛すぎる。


 あれは俺が10年以上もやり込んだ魂のかたわれ。


 100人以上の美少女人造兵士たちを育成して戦場に配置して勝利するあの快感は忘れられないし、一人一人が俺の嫁であり推しのヒロイン100人に会えないなんて考えられない。


 頭を抱えながら懊悩と床でもだえる。


「ていうかなぁにが『貴重な魔水晶を使って召喚したのが、ただの遊び人か!?』だよ!? こっちはそんなこと知らねぇっつの! 勝手に拉致して牢屋送りとかあのクズキング絶対許さねぇ!」


 現代日本人らしく権力者嫌いの俺は憤懣やるかたなく、異世界復讐ざまぁ展開を妄想した。


「待てよ、ていうかあのクズキング、いや神官風のほうか、俺のスキルがガルアミとかなんとか……ちょっと試してみるか。ステータス、システム、プロパティ、スキルスロット」


 色々喋りながら両手で空中に丸を書いたりタップしたりすると、どれかに反応したのか、いかにもゲームウィンドウ的なものが開いた。


「お、流石は異世界」


 真田・正親(さなだ・まさちか)

 レベル:1

 筋力:45

 耐久:45

 速力:48

 知力:110


 比較対象がいないので、いまいち高いのか低いのかわからない……。

 けれど、知力が一番高いのはちょっと嬉しい。


「ていうかこれ、俺のIQテストの結果じゃね? 速力は、半分にすると時速っぽいのか? 筋力と耐久はよくわからん」


 でも、男子高校生のペンチプレスの平均記録が45キロとアメフト漫画で読んだことがある。


 耐久についてはまったくわからない。


「て、それよりもスキルスキルっと」


 ウィンドウの中から【スキル】を選ぶと、一覧の中にあるのはひとつだけ。



【ガールズアーミー大作戦】



 とあるので指でタップすると、驚きの声を漏らしてしまった。


「んなっ!?」


 それは、ガルアミの画面にそっくりだった。

 もちろん細部は違うけれど、見た目の印象はそっくりだった。


「出撃可能人数1人?」


 一覧には、俺の愛する人造少女兵器たちがずらりと並んでいた。

 レベルとステータスは俺が最後に育てたときのもので、どうやら俺のセーブデータがそのまま反映されているらしい。


 もしかして。

 という淡い期待と興奮に胸を高鳴らせながら、俺は冷静にとあるヒロインの名前をタップした。


「ライツ、出撃だ!」


 ダイアログからOKを選択すると、【量子情報をリアライズします】と表示された。


 次の瞬間、目の前の空間にグリッド線が走りマネキンのような人型を、続けて軍服を描くと、最後にテクスチャを張り付けるようにして彼女は実体化した。


 身長150センチという小柄ながら88センチのバストとヒップを持つトランジスタグラマーの持ち主であり、金髪碧眼のショートヘアが美しい、お人形さんのように可愛らしい、オールマイティタイプのユニットだ。


 彼女なら、この状況下にもそつなく対処してくれるだろう。


「お、おぉ……」


 足元から順に実体化していくと、その顔に見入った。


 当然ながら、ゲームキャラである彼女は二次元の存在だ。


 けれど果たして、実体化した彼女は二次元であり、三次元だった。

 等身大フィギュアのような外観だけど、髪は完全に人のソレで、まつ毛や眉毛もちゃんと生えていて、けれど違和感がない。

 最新ハードゲームの3Dモデルっぽいだろうか。

 美少女相手にちょっとためらいながら、そっとその手に触れたみた。

 感触は、完全に人のソレ以上だった。


 産毛も生えていない白い肌はみずみずしくて、吸い付くようなのになめらかで彼女の手首から腕に手をすべらせるとその触り心地に軽く感動した。


 ――これが、ライツの感触なんだ。


 10年間想い続けた、俺の推しヒロイン。

 小さくて、可愛くて、強くて、プレイヤーのことが大好きな妹ポジションだけど自称お嫁さんで夏イベントでは過激なビキニ姿を見せてくれる、最高にエロ可愛い女の子だ。


 彼女の献血コラボポスターが下品な巨乳ポスターだとメディアで炎上した時は、彼女を守りたいのに何も出来ない自分が惨めだった。

 その彼女が今、俺の目の前にいる事実に、感動を覚える。


「……」


 血色の良いまぶたが、ゆっくりと開いた。

 青い瞳がまっすぐに俺の視線と絡み合うと、ライツはハッとして鋭い敬礼ポーズをキメた。


「司令官殿! リアライズしていただき感謝いたします! アナタのライツ、今ここに参上いたしました!」

「おぉ、ゲームと同じボイスで元気もいい!?」

「ゲーム?」

「あ、いや、なんでもない?」


 ――そっか、本人には自分がゲームキャラって自覚がないのか。


「ところで他のみんなは?」

「え? みんななら当然量子空間で待っていますよ? ふふふ、みんなジブンだけがリアライズさせてもらって怒っていましたよ」

「そ、そうか……」


 早く出撃人数を増やす方法を見つけようと、心に誓った。


「やや! ここはもしかして牢屋ではありませんか!? 何故司令官殿がこのような目に!?」


 今更ながら、ライツは周囲を見回して素っ頓狂な声を上げた。


「実は気がついたら知らない世界に強制ワープさせられていて主犯の王様から欲しかったのと違う人材だからって牢屋に入れられちまって」

「ななな、なんですとぉ! ジブンの敬愛する司令官を拉致監禁するとは許せません! こんな不潔な場所に司令官を一秒だっていさせられません。ここはジブンにお任せを! ちょわっ!」


 掛け声と同時にライツがバレリーナのように一回転。


 音速で軍靴を閃かせた廻し蹴りが空中に弧を描くと、半回転目の左スネが牢屋の鉄格子上部を切り裂き、もう半回転目の右鉄格子下部を切り裂いた。


 5本の鉄格子がガラランと金属音を立てて石畳の上を転がった。


 一方で、ライツの美脚はまったくの無傷だ。


 ――さすが。


 彼女たち人造少女兵器たちは設定上、鋼鉄を超える肉体強度を持っている。

 現行兵器では、戦車すらも素手で壊せてしまう。

 こんな牢屋の鉄格子、彼女たちにとっては割りばしも同然だろう。

 ライツが最高のイケメン表情で手を差し伸べる。


「さぁ司令官殿、ジブンと脱出、もとい愛の逃避行を!」

「本音が漏れているぞ」


 軽くツッコミつつ、俺は心の中でニヤニヤが止まらなかった。

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