第15話 教えて、デウス先生! 〜2時限目〜

 ――ザラメが捧げられなかった。


 神ことデウスは、はっきりと口にする。

 

「だからザラメは、埋まってたんですかね?」

「というよりは。埋まっていたから、捧げられなかったのだろう」


 デウスはさらに続ける。


「そして……気づけば私も、力を失った状態で、この世界に降り立っていた」

「なるほどなるほど……つまり?」

「つまり、今の私は神としての力をほとんど持っていなのだよ。世界を導く力を含めてな」

「つーことは、お前を倒しても意味ねぇってことか?」

「そうだ」


 あまりにあっさりと、デウスは認めた。

 名実ともにペラッペラの紙じゃねぇか!


「だからな、ザラメ。君に私を倒す理由は存在しない……そう! 年中無休でイチャイチャできる!! ひゃっほうごぉ?!」


 飛びつくデウスに、ザラメは無言で頭突きをかます。

 みぞおちにクリーンヒットしてやがるぜ。


「良い一撃だ……さすがは我が婚約者……」

「倒せないことが、これほど辛いとは思いませんでした。ケッ」


 ザラメは呆れた声で、そう吐き捨てた。

 みぞおちを押さえながら、デウスはむくりと姿勢を戻す。


「さてと‥‥‥私はそろそろ失礼するとしよう」

「帰るのか」

「コスズにも聞きたいことがあったが、眠っているからな。次の機会にしよう」


 すやすや眠るコスズに、デウスは目を向ける。

 その視線は、慈愛に満ちていて。

 子どもを見守る親のような……そんな優しい眼差しだった。


「では、ここで待ってたらどうです? コスズちゃんが起きるまで」

「いや、これから自動車教習があってな。遅れるわけにはいかんのだ」


 神でもとれんのか、免許。


「とりあえず、今日のところは失礼するよ。またな、ザ・ラ・メ♪」

「もう来なくていいですー!!」


 塩を撒きながら、ザラメは喚いた。





 閉店作業を終え、俺とザラメ、コスズはアパートに向かっていた。


「お店、なかなか繁盛しないですぅ……」


 ザラメががっくり肩を落とし、トボトボと歩く。

 その隣に並ぶのはコスズで、ザラメと仲良く手を繋いでいた。


「そろそろ経営、ヤバいんじゃねぇの?」


 店の維持費だの俺とコスズの給料だのを差し引くと、赤字すれすれだ。


「そうなんですよぉ、何か良い手はないでしょうか」

「いっそ店辞めたらどうだ?」

「もう、すぐそういうこと言うー」

「郡……ツメタイ」


 そんなことを言い合いながら、アパートの階段を上る。

 ちなみに、俺の部屋は2階の隅にある。


「ん?」


 淡い赤銅色のドアの真ん中より上。

 俺の目の高さより少し下に、違和感を覚えた。

 薄い黄色に染まるガラスの覗き穴に、俺は目を凝らす。


「どしたの、郡……」

「覗き穴の向こうが明るいんだ」

「消し忘れたんですか? ダメですよ、電気代がムダになっちゃいます」

「いや、消したはずなんだが……」


 ……消したつもりだったが、うっかり点けっぱになってたのかもしれん。


 そう思いながら、鍵を差しこみ回す。

 そして、扉を開くとそこには——。


「お風呂にする? ごはんにする? それとも、デ・ウ・ス?」


 ピンクのエプロンを着たデウスが、立っていた。



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