第14話 教えて、デウス先生! 〜1時限目〜

「ォォォォ、ォォ……」


 男――デウスはKOKANNを押さえ、蹲る。

 神と名乗るわりに、急所は人間の男と同じらしい。


 ザラメは横を向いて右足を上げ、両腕を伸ばす。

 カンフーの真似事でもしたいらしい。


「フシダラな輩は、ザラメが成敗です! ささっ、捕獲ですよ!!」


 ザラメが持っていたのは、さっき俺を縛っていた縄だった。


「ザラメの敵なんですから、逃がすわけにはいきません!」


 神というからどんな激しい戦いになるかと思っていたが、随分とあっさり決着しちまった。

 良いのか、これで。


 ザラメによってぐるぐる巻きにされたデウスは、しかしどこか嬉しそうだ。

 ニヤニヤと笑みを浮かべている。


「何がおかしいんですか」

「いやぁ、ザラメに縛られるというのはなかなか……刺激的で乙だなぁと」


 駄目だこいつはやくなんとかしないと。






「デウスさんを倒しちゃいましたし、これからどうしましょうか」

「私は滅びぬ、何度でも蘇るさ! ささ、いつでも私を倒したまングゥ?!」


 デウスの口にガムテープをバッテンに貼り付けるザラメ。


「この人粗大ゴミですかね」

「さっき燃えてたし、燃えるゴミだろ」

「んんー!!」

「ええ~。明日粗大ゴミの日なので、とっとと出しちゃいたいんですが」

「いや、自治体のルールは守らねぇとだろ?」

「ん、んー!!」

「それもそうですね。なら自治体指定の袋に入れておかないと」

「ああ」

「んぅ、ぶはっ! 捨てるでない!! 私を何だと思ってる?!」

「「紙」」

「“カミ”違い! 確かに燃えるがそうでない!!」


 自力で縄抜けし、ツッコミを入れるデウス。

 こいつ忙しいな。


「Godだぞ! もっと畏れてもよいのではないか?! コスズも何か言ってく」

「スヤァ……スヤァ……」

「Oh my god.」


 マシュマロを食い終えたコスズは、端っこの席で突っ伏し寝ていた。

 自分を擁護する者はいない。

 観念したのか、デウスは大きくため息をつく。

 そして、のたまう。


「しょうがない……私が神であるという証拠に、とっておきの情報をくれてやろう」

「情報、だと?」


 デウスは頷き、静かに告げた。




 ——世界の摂理と、『ザラメ』の話だよ。






「では、さっそく」


 カウンター席に腰掛け、デウスは言った。

 足を組み、悠然と俺たちを見回す。

 厳かな雰囲気、神妙な眼差し。思いがけず緊張の糸が張り、固唾を飲んだ。

 ザラメも同じみたいだ。


 そんな俺たちをたっぷり焦らし、デウスは言い放つ。


「ザラメは……私のフィアンセだった!」

「ザラメ、やれ」

「ホァーチョー!」

「アヅァヅァヅァヅァ!?」


 炎は自称神の頬を掠め、横の髪をチリチリ焦がす。

 ジュッと良い音が鳴ったのが証拠だ。


「髪が……自慢の髪がぁ……真面目な話をしているというのに」

「とても真面目とは思えないんだが?」

「いいや。大真面目な上に、れっきとした真実だぞ。いいから続きを聞きたまえ」


 ――それは、世界のシステムについての話だ。


「この世界には、“終焉の日”というものが存在する」


 ――こいつが言うには。

 世界には、終着点というものがあり、そこで世界は収束する。

 そしてその後、世界は再び構築される。

 そうやって、何度も世界は繰り返してきた、と。


「ゲームに例えると分かるかな」


 デウスは得意げに口角を上げる。


「データをクリアすると、もう一度プレイするためにリセットするだろう。原理としては、それと同じだ」


 それは逃れられない運命であり、人類にとっては不可抗力のものであった。


 そして、神の力を維持するために、生贄――神の許嫁が必要だった。


「それに選ばれたのが、ザラメだったのだよ」

「ザラメ、ですか?」


 人差し指で自分をさし、ザラメは首を傾げる。


「その通り。すなわち私たちは、前の世界から赤い糸で結ばれていたということ! さあ今こそ、ゴーッジャス!! な結婚式といこうじゃないか!!」

「おいコラ、話を脱線させるな」


 俺の言葉に、デウスは「せっかちだなぁ、君は」と呆れつつも話を続ける。


「さて。そうして前の世界も、滞りなく終わるはずだった。しかし……そうはならなかった。致命的な、誤算が生じたのだ」

「なんだよ、誤算って?」

 

 ――ザラメが、捧げられなかったのだよ。


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