三章 教えて、デウス先生!

第13話 登場、謎のイケメン

 現れた男は、爽やかな笑みを浮かべた。

 漫画みたく、顔の周りにキラキラと星を浮かべて。

 逆光で顔が翳っているというのに、圧倒的な美貌が見て取れる。

 一周回って鼻につくんだが。


「カフェ『ぐっど喪ぉにんぐ!!』というのは、ここだね」

「あ、ああ。はい」


 差し出された手を取り、立ち上がる。

 滑らかな手。まるで造られた人形だ。


 いや、そんなことよりも。

 客か? こんなところに来るなんて、物好きなヤツもいたもんだ。


 そう思っていると、後ろからザラメの声がして、


「あ、すみませーん。まだ開店してないんですけど……」


 手の感触が一瞬にして消える。

 見ると、男の姿がない。


「ど、どうしましたか……?」


 男がザラメの前で跪いていたのだ。

 ザラメは困惑してる。俺も困惑してる。


「ザラメ……会いたかったよ」

「「は?」」


 やばいヤツが来た。


「間違いない……君こそが、私の運命」

「ちょ、ちょっと……何なんですか? 郡さーん、助けてくださいぃ!」


 知らん知らん。俺を巻き込むな。

 ‥‥‥だが、何者かは正直気になる。


「だいたい、アンタ名前は?」

「よくぞ聞いてくれた!」


 男は、くるりときびすを返すと、カツカツと歩き出す。演劇の役者みたいに、カッコつけて。


「私は、世界を導く機械仕掛けの神!! その名も! デ」

「デウス様ー……」


 キッチンから出てきたコスズに一番良い台詞を奪われ、男は独り虚しく両手を広げていた。


「……」


 ん?

 というか……。


「「デウス様?!」」


 俺とザラメは、顔を見合わせ叫んでいた。






 かつてコスズは言った。

 自分は、デウス・エクス・マキナのツカイマであると。

 そんなコスズが、目の前の金髪の男に抱きつき、“デウス様”と呼んでいる。

 ということは、まさか……。


「お前が、デウス・エクス・マキナ、なのか」

「そうとも。私こそが終焉の神! デ」

「デウス様ー……」

「こらコスズ、名乗りの邪魔をするんじゃないぞ」


 コスズの頭を撫でながら、男……デウス・エクス・マキナは言った。


「長いだろう。デウスで構わない」

「デ、デウスさん……ですね。何はともあれ、やっつけないとです!」

「あ、ああ」


 そしてザラメを埋め直してハッピーエンドだ!


「ほう……私を倒すというのか」


 冷え切った声とともに、デウスの眼光が身体を貫いた。


「……っ!」


 身体がすくむ。

 言葉にできない……人間離れした威圧感に、四肢が反応してくれない。金縛りにあったみたいだ。呼吸が浅くなり、汗が垂れる。

 これが、神の力なのか……?


 そうこうしているうちに、デウスは自らの敵……ザラメに向かってツカツカと歩み寄る。

 一歩、また一歩。確実に距離を詰めている。その容貌は余裕に満ちたものだった。


「ザラメ!!」

「な、何を……」


 同じく動けなくなっているザラメの両手を、デウスはしっかり握り……。


「私と、結婚してくれ」

「…………へ……?」


 まさかの告白をしやがった。


「君の明るい笑顔、優しい瞳。片時も忘れたことはない。忘れられないのだ」


 なんか語りだしたよ、こいつ。


「君を見つけてから、私という機構はバグを起こしている……これがきっと、恋なのだろう。愛なのだろう」


 ザラメは引いてる。俺も引いてる。

 そしてコスズは……平然としてカウンター席に座っている。足をぷらぷらさせ、マシュマロを食いながら一連の茶番を見つめていた。


「さあ、返事を聞かせてくれ。もちろん“イエス”だろう? “はい”でも構わんよ」

「イヤです!」


 ザラメはデウスの手を振りほどき、俺の後ろに隠れた。


「ザラメは郡さんのお世話をしないといけないんです! 結婚なんてできません!!」

「ほう……」


 デウスは納得したように呟くと、俺に向き直す。

 そして言った。


「君が、ザラメの今の婚約者か……どうだろう、ザラメを私に譲ってくれないだろうか」

「あ、どーぞ」

「ちょっと郡さん?!」


 ザラメが嫁に行けば、俺はまた悠々自適なギャンブリング生活に勤しめる。やったね!

 さらばだザラメ。短い間だったが、悪くない生活だった!


 デウスは再度、ザラメの手を握る。


「そういうわけだ……ザラメ、結婚しよう」

「どういうわけですか?! 絶対イヤ、です! ファイア!!」

「あづづづづうううう!!」

「俺を巻き込むなああああ!!」


 デウスと俺は火炙りにされた。


「上手に焼けました〜……」


 一方コスズは、マシュマロを割り箸に刺し、その炎で焦げ目を付ける。呑気かお前。


 しばらくすると、炎がかき消える。


「ど、どうですか! これで少しは大人しく」

「これが誓いの温度……愛を感じたぞ!」

 

 黒焦げになってもなお、ピンピンしている神。やべぇ。

 俺ですら、アイツの炎食らったら立ってられないんだけど。


「デウス様……強い」


 こんがり焼かれたマシュマロを頬張りながら、コスズは感心している。


「おっと、そうだ」


 デウスは思い出したように指を鳴らし、ポッケから赤い箱を取り出す。手のひらに収まるほどの、小さな入れ物だ。

 その中には……ダイヤの指輪が入っていた。

 天井の光に反射して、星のように輝いている。


「結婚指輪も持ってきたんだ。安心したまえ、サイズは合わせてある。君の名前からスリーサイズ、そしてちょっぴり恥ずかしいポエムまで、何でも知っているのだから」

「怖いですよ!」

「怖いだなんて……婚約者としては当然のことをしたまでだよ」


 なんで怖がられてるのに嬉しそうなんだよ。

 マゾかアンタは。無敵かアンタは。


「ああ、誓いのKissが先かね?」


 ザラメの顎をくいっと持ち上げ、デウスは囁く。

 光を受け、淡く艶めく唇が、ザラメの唇に迫る。


「あっ……えっ、あっ」


 ザラメの顔はみるみるうちに紅く色づき……。

 次の瞬間。


 ――チン。


 ザラメの蹴りが、デウスのアソコに直撃!


 ……ぽとりと、指輪とケースが落ちた。

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