2章 1つ目の輝き〜VTuber活動1年目編〜

第10話 桜色の電波に乗せて

 5月某日。私達は先輩のラジオ番組にゲストとして出演していた。


サキ「引き続き『Cafe Saki time』。パーソナリティの桜花おうかサキです。改めて、本日のゲストは私の可愛い後輩の〜」


夏樹「はい! 声優事務所ダイヤモンドダスト所属、『é4clat(エクラ)』の天倉あまくら夏樹なつきと」


玲「宮秋みやあきれいと」


日向「春風はるかぜ日向ひなたと」


冬羽「霜月しもつき冬羽とわです」


サキ「それでは、お便りも沢山届いているので紹介していきたいと思いま〜す。常連さんネーム、エトワール箱推しさん。

 『桜花サキちゃん、ゲストのé4clatの皆さん、いつもので!」


全員「かしこまりました」


サキ「今回のゲストは、サキちゃんの直属の後輩ということで、5人での会話をずっとずっと楽しみにしていました! 早速ではありますが、是非、サキちゃんから見た4人それぞれの第一印象と今の印象を教えて欲しいです。これからもサキちゃん、é4clatの活躍をお祈りしています!』

ということで、印象か〜。そうだね。まずは、夏樹くん」


夏樹「おっ!」


サキ「情熱が全身からメラメラ燃え上がっていて、ひたすら熱いって感じかな」


玲「確かに。こいつの取り柄と言えば、情熱だけですから」


夏樹「玲も褒めてくれるのか。ありがとう!」


サキ「玲くんは褒めてる…のかな。だけど、いい意味には変わりないよ。私はそこまで、自分の道を熱く突き進むー、みたいなことは出来ないから憧れちゃうな」


夏樹「サキさんも充分なくらいに熱いじゃないですか。

 そういえば、俺がサキさんを知ったのはオーディション受けた時だったんですけど、輝きの最先端って感じで、めちゃくちゃスゴイ! って思って。今も憧れの星です!」


サキ「ありがとう、夏樹くん。お星様なんて、照れちゃうな。

 じゃ、次は玲くん。玲くんとは前に事務所でたまたま、すれ違ったよね」


玲「はい。丁度、レッスンが終わって帰ろうとしていた所で。軽い挨拶だけさせて貰いました」


サキ「デビュー前だったし、また今度話そうね、って。だから初めましては礼儀正しい子な印象で、今も変わらず真面目ないい子だな、って感じかな」


玲「ありがとうございます。自分自身でも、そこが長所だと考えているので、サキさんのような方に褒めていただき嬉しいです」


サキ「え〜〜〜〜、それほどでも、あるかも。こちらこそ、ありがとう。

 まだまだ行くよ。続いては日向くん」


日向「待ってました!」


サキ「ふふっ。日向くんはね、わんちゃんみたい。私のことを見つけたら、すぐに駆け寄ってきてくれて、大きな声で『サキちゃん先輩こんにちは』って言ってくれるんだ。

 それを見たら、あ〜可愛い後輩を持てて幸せだな、って思うんだよね」


日向「可愛いだなんて、嬉しいです。だけど、そういうサキちゃん先輩の方が100万倍可愛いですし、構ってもらえる友達がいて僕もとっても幸せです」


夏樹「友達か…サキ先輩」


サキ「ん?」


夏樹「俺とも友達になって下さい!」


玲「何を言い出すかと思ったら、先輩に友達だなんて…桜花先輩、こいつのことは無視してもらって構わないですよ」


サキ「夏樹くんに厳しいね、玲くんは。

 あのね、友達は増えた方が沢山ハッピーも増えていって私は嬉しいんだ。だから4人全員、後輩で仲間でライバルでもあるけど、友達としても仲良く出来たら嬉しいな」


日向「そうそう。あくまで、サキちゃん先輩のこと、すっっご〜〜〜く。リスペクトしてますから」


サキ「ん、日向くんのリスペクトの気持ち、私にもちゃんと伝わってるよ。

 そういう意味だと、冬羽ちゃんからの気持ちも伝わってる」


冬羽「え…。そうなんですか」


サキ「もちろん。だって、びっくりしたよ。

 マネージャーから『霜月冬羽さんはサキさんきっかけで入ったらしいですよ』って聞いたから。だから会った時に、そういう話になるかなと思ってたけど、ならなくて。

 そういえば冬羽ちゃんは、初めて会った時から凄く謙虚な子だなって思い出して、少し懐かしかったな」


日向「懐かしいって?」


サキ「…あ。あれ、あれだよ? 今まで後輩や先輩に沢山挨拶してきて、こういう時あったよねー、てことね!」


日向「へー、なるほど」


サキ「おっと、話が長くなっちゃったね。

 それでは気を取り直して最後。冬羽ちゃん」


冬羽「はい」


サキ「冬羽ちゃんはね、名前だけ先に聞いて、どんな子なのかな〜って想像してたんだ。

 だけど、実際にこうやって会ってみると、イメージ通りにほんわかしてる部分もある。けど、しっかり自分の輝きを持ってるな、って思ったの」


冬羽「ありがとうございます。最後に仰って下さった輝きのお話、スカウトして貰ったマネージャーさんにも言われたので、えっと…嬉しいです」


サキ「さっすが、一ノ瀬マネージャー。相変わらずの天才ぶりを発揮してるね。

 あっ、常連さんに説明すると、一ノ瀬マネージャーは私がデビューしたての時に担当してくれてたマネージャーのことで、今は私も参加してるバーチャル複合型プロジェクトProject étoile(プロジェクト エトワール)のプロデューサーをしてるから、よく知ってるんだよ」


冬羽「…サキ先輩、名前出しても大丈夫なのでしょうか」


サキ「大丈夫、大丈夫。インタビューでも結構、名前出してる割にはOKの許可出てるし。とにかく、冬羽ちゃんの印象は、こんな感じかな」


* * * * *


 こうして続々と届くメールを元に、賑やかに談笑していると、あっという間にエンディングの時間が迫ってきた。

 台本通り、サキさんの振りで告知の時間がやって来る。ここはユニットリーダーである夏樹が代表して、1人で告知の文章を読むことになっていた。はきはきと話始めた夏樹は、裏で事前に読み込んでいたのか、意外にも噛まずにすらすらと読み上げる。

 そして、目の前に座っているサキさんはというと、相槌は入れず無言で頭を上下に動かして、うんうん、と頷いていた。


夏樹「──ということで、今後もé4clatへの応援、よろしくお願いします」


サキ「ありがとうございました。常連さん、これからも後輩のことを暖かく見守ってくださると嬉しいです。

 改めて、夏樹くん。玲くん。日向くん。冬羽ちゃん。

 今日はゲストに来てくれてありがとう」


玲「いえ。こちらこそゲストとして、お呼びいただいて光栄です。ありがとうございました」


日向「とーっても楽しい時間でした。また、お話しましょ」


冬羽「私もサキさんと色んな話ができて楽しかったです。ありがとうございました」


夏樹「俺もです! サキ先輩。是非、今度は一緒にコラボ配信しましょう」


サキ「もちろん。é4clatのみんなと、それとプロジェクトメンバー全員コラボもしたいからね。

 じゃあ、コラボ配信で何をするか作戦会議をしなくちゃいけないので、本日の営業は、これにて終了です。お送りしたのはパーソナリティの桜花サキ、とゲストの?」


夏樹「天倉夏樹と」


玲「宮秋玲と」


日向「春風日向と」


冬羽「霜月冬羽、でした」


全員「またのご来店をお待ちしています」



 一瞬の沈黙が流れた後、ガラスの向こう側にいるスタッフさんの合図を聞いて、ラジオ収録ブースには和やかな空気と共に「お疲れ様です」と声が響いた。


「あー楽しかった。1人で話すのもいいけど、やっぱり会話しながらの方が断然、楽しいな。

 こうやって、もっと話してたいけど…ごめんね。この後、生放送あるから、行かなきゃ。

 また話そ」


 そう言い残し、サキさんは足早にブースを後にする。扉が開くと同時に、私達は素早く起立して「お疲れ様でした」と声を揃えて挨拶をする。

 軽くお辞儀をして、閉じていく扉を目線で追うと、サキさんが片手で、ひらっと振った手の甲が見えた。


 時刻は夜の9時半を回った。

 マネージャーさんによると、これからサキさんは移動して、ゲーム番組の生配信に出演するという。

 余りにもタイトなスケジュールだと感じるが、本来はラジオもあって出演が難しかった所を「後半だけでも良いので何とか、お願いできないでしょうか」と打診されたらしく、急遽出演することになった、とのことだった。


 桜花サキさんは、実力や人気が高いだけでなく、周りからの信頼も厚い。そう強く感じた、ひと時であった。

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