第9話 声を届けるお仕事です。

遥「時刻は夜の10時となりました。ラジオをお聴きの皆さん、こんばんは。声優の霜月しもつきはるかです。

 毎週この時間は『霜月遥のはるかにスゴイラジオ』をお届けしていましたが、前回お伝えした通り4月からはリニューアル且つパワーアップしたラジオをお届け出来ることになりました。今回はリニューアル初回ということで暖かく見守ってくださると幸いです。それではCMを挟んだ後、いよいよスタートです!」



 もうすぐCMがあける。そしたら、とうとう平穏な日常は終わりを告げるのかもしれない。止まらない冷や汗、手の震え。その様子に気づいた兄はまだ話しても良い時間ではあるが、安心してもらおうと口パクで伝えてくれる。


「おれがいるから、だい、じょう、ぶ」


 私はその言葉に応える代わりに自分の右手に左手を重ねてぎゅっとしながら、こくんと頷いてみせた。



遥「ラジオをお聴きの皆さん、改めましてこんばんは。声優の霜月遥です。そして?」


冬羽「ラジオをお聴きの皆さん、初めまして。ダイヤモンドダスト所属、Project étoileに参加しています。VTuberの霜月しもつき冬羽とわです。宜しくお願いします」


遥「さて。自己紹介も済んだ所で初回ではありますが実は俺たちから大切な発表があります」


冬羽「はい」


遥「まあ大切な発表というと、もしかしたら気づいた方もいるかもしれませんが。

 それではここで時間を使うのもアレなんで言いますね。実は俺たち…(小粋なドラムロール)…ジャン♪ 兄妹です」


冬羽「はい。嘘ではなく兄妹です。諸事情ありましたが話し合いの末、このラジオでの発表になりました」


遥「──あ〜、やっと言えてすっきりした。冬羽が活動始めるってなった時、2人でも何度か話して。それでも発表するべきか迷ってて流石に半年経った頃にはさ、『苗字同じで話す雰囲気とかも似てるし…もしかして⁉︎』なんて言われてたよな」


冬羽「うん。私もそういう意味ではずっとドキドキしてた。というか公表することに対して恐怖心もあって…。だけどいろんな経験をさせてもらって、自分に対する自信も少しずつ付いてきた今なら言えるかなって思ったんです。

 なのでリスナーさん。このこと受け止めてくれたら嬉しいです。けど、無理にはとは言わないので気に食わなかったら私をそっとブロックなりしてもらえると。あっ流石に誹謗中傷は法的手段に出ますからね」


遥「…いつもの調子、出てきたな。やっぱり冬羽を相方にラジオ出来て正解だった。改めてこれからも宜しくな、冬羽」


冬羽「うん、こちらこそ宜しくお願いします」


遥「ということで。それではリニューアルしたラジオ、始めていきましょう。霜月遥と」


冬羽「霜月冬羽の」


遥・冬羽「「異次元on-line RADIO」」


遥「この番組は株式会社Magical Daysの提供でお送りします」



 歴然とした不安の終わりは意外にもあっさりしていて。だけど、それくらいに本当は重く捉えなくても良かったのかもしれない。


 小さい頃からずっと天才の妹として見られてきたことは重りや呪いなんかじゃなく光栄なことだと自分に言い聞かせてきた。だからと言って相応しい振る舞いをしようとか考え方を変えるとはしなかった。ただ、素直に真面目に生きる。

 普通すぎることかもしれないが、あの頃はそうしていないと自分を失ってしまい何も分からなくなりそうだった。

 しかし今は違う。やっと輝きを見つけて手を伸ばそうともがくことが出来る。そんな苦しい状態すらも愛しく感じるほどに少しは成長出来たのだろう。



遥「最初のコーナーは『リスナーon-line』

 こちらはリスナーさんからの質問、メッセージを募集するいわゆるふつおたのコーナーです。それでは早速、1通目を紹介していきましょう。冬羽、宜しく」


冬羽「はい。ラジオネーム『いかさん焼き』さんからいただきました。ありがとうございます。『こんばんは。記念すべきラジオ初回、おめでとうございます。リニューアルするとのことで今回からは毎週拝聴出来るように頑張って残業せずに帰ろうと思っています! またハルカくんが言っていた大切な発表も楽しみにしてます。ここで質問ですが、新たにラジオでやってみたいことなどはありますか? 今後もお2人の活躍を応援しております』


遥「ありがとうございます。ラジオでやってみたいことかー、冬羽はなんかある?」


冬羽「そうだね〜私は普段バーチャル空間で姿を映した状態で活動しているから、こうやって声だけで伝えることにもっと挑戦していきたい、かな。例えば…お便りを読むこともだし、演技も興味あるかも」


遥「演技か。リスナーさんに嘘を見破ってもらったりボイスドラマとか出来たら楽しくなりそうだし、確かに折角のラジオだから声に特化したコーナーはやっていきたいよな。…というか、お前いい意味で変わったな。前までこんなことやらないタイプだっただろ」


冬羽「それはそう。だけどね、タイプは依存せずに変わるんだよ。これでも私は遥とは違ってどこにでもいる人間だから。必死に何とか変わろうとしてるからね?」


遥「えっ…もしかして地雷踏んだ?」


冬羽「まっっさかー、ハハッ」


遥「いや絶対そうだったろ。な?」


冬羽「それでは続いてのお便り紹介していきましょう。遥〜」


遥「無視…。はいはい、紹介しまーす。ラジオネーム『つやつやアルパカ』さんからいただきました───」


 テンポ良く繰り広げられる、たわいも無い会話。そして仕事の場ではあるが、会話をしていると分かる。本当は、互いに早くこうしていたかったのだと。

 いつの間か見えない心の距離が出来ていって、歳を重ねるごとに直接やり取りをする機会も減っていた。

 そんな、あの頃の私達に教えたい。


 あれこれ考えなくても、未来は意外と何とかなったみたいだよ。貴方はそのまま、ありのままに生きていけば良い。

 私達の兄妹仲は、そう簡単には解けないみたいだから。


 これは私、霜月冬羽が沢山の光と大切な兄の隣で見つけた大切な輝き。


 それが、声を届けるお仕事です。

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