第49話 ジオの試験 ⓶


 くだらないツッコミはともかく、ジオはまだ残っている『フロストフィールド』を駆使して高速でギルマスに接近していく。


 しかし剣の間合いに入ると、ギルマスは大剣を振っているとは思えないぐらいの速さでジオの首を狙って斬撃を放つ。


 これは流石に読めていただろうジオはスライディングするように滑って剣を避けた。そのまま、ギルマスの足を狙って剣を振る。


「やるなぁ〜」

「グル!」


 ゴジでも分かるぐらい、いい戦いだ。教科書のお手本にしたいぐらいの技の読み合いと、剣術が披露されている。



 そこからしばらく、ジオとギルマスは近接で戦った。片方の技をもう片方が読み、それに対するカウンターを放つ。シンプルなものだった。


 ジオとギルマスも一進一退を繰り返しながら打ち合っているが、よく見るとギルマスにはまだ余裕がある。まだ、スキルも使っていない。それに変わりジオは、必死だ。魔法と剣術を織り交ぜながら戦っているが。顔に疲労の色が見える。多分、魔力切れが近いんだろう。


 勝負が動くなら、次の数秒だろう。


「おがっ!」


 俺の予想通り、戦局に変化が訪れた。


 ジオが変な声を出しながら足を滑らせてしまったのだ。これは致命的な隙。


 そんなものをギルマスが見逃すわけもなく……


「終わりだ」


 勝負をつけようと、剣を振り上げる。


 しかしジオもまだ終わるつもりはないのか、転びながらも残り少ない魔力を振り絞って魔法を放つ。


「『アイスウォール』!」


 ジオの前に現れた氷の障壁は一瞬ギルマスのと拮抗するも、すぐに無数の氷の欠片として周囲に飛散してしまう。だがこれがジオの狙いだったのだろう。ほんの僅かだけ、飛び散る氷に目を取られ、ギルマスの動きに戸惑いが生じたのだ。


 迷いとは言えないほどの、目にも留まらぬ一瞬だった。それでもその迷いは確かに存在し、ジオはその時間を無駄にすることはなかった。


 その僅か一瞬でジオはなんとかギルマスの剣を流せるまでに体勢を立て直す事に成功した。しかしそれでもギリギリのギリ、剣が吹き飛ばされてしまう。


「最後のアイデアは良かったが…………戦場で武器を失うのは、何がなんでも避けないといけない事だッ!」

「武器はまだありますよッ!」


 ギルマスの剣を受け流すと同時に、ジオはもう片方の手に生成していた氷の剣を全力で振るう。


 ギルマスほどの戦い慣れた人間が、サブや隠し持っている武器を警戒していないわけがない。しかしその一方で、それは懐に隠しているナイフや短剣類を想定して警戒していると言う事だ。その点、ジオの氷剣は彼の手に直接生成された。完全とまでは行かないが、立派な不意打ちだ。


 いや、待て…………不意打ちは立派なのか?…………まぁ、いい。


 ともかくこれはジオが工夫を重ね、考え抜いた一撃だって事だ。


 ジオの放った斬撃はそのまま吸い込まれるようにギルマスの首筋へ向かっていき、肉を裂く寸前で止まった。

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