第4話 プロローグ・Final

「あ、ノアさんには他の勇者様と別行動をとってもらいます」

「え?」

 

 あぁ、そうか。ハズレスキルだとあのイベントがあるのか。


「あなたにはツリーが二つと素晴らしい才能がありますが、そのツリー自体が弱いもので、この世界ではハズレスキルだと知られているものです。そんなハズレスキルでは他の皆様の足手まといになるかもしれませんので、一緒に訓練はできません」


 予想通りだ。これに続くセリフも理解している。


「しかし、ここは神聖イスタリア王国。神の慈悲のもとでノアさんには、1つのチャンスを与えます。ノアさんにはこれから、レイナ洞窟の深部に転移してもらいます。そこから地上に出られたらノアさんは晴れて自由の身です!レイナ洞窟には魔物という怪物もいて結構な強さで危険ですが、ノアさんならレイナ洞窟の初踏破、できると思います!頑張ってください!」


 にこやか笑顔で言うセリフじゃねぇよ。


 ひとまず、ここは暴れるのが得策か。暴れるのが得策……うん、何か間違ってる気がするな。


「ははっ!本当に、素晴らしい筋書きじゃねぇか女神!勿論ゴミ勇者を捨てられる利便性もあるが、他の奴らに“アイツよりはマシだから”と精神的なクッションを作ることもできる。その上で、“無能は排除する”というメッセージを兼ねているから、勇者にもやる気がでる。……もしかしたらこれをやり慣れたてりするか?」

「あ〜……気が狂っちゃいましたか……可哀想です」


 可哀想だと言いながら頭を振って目を伏せる女神。


 しかし、


 「それを狙っていたぁ!」


 体での感情表現がでかい、ぶりっ子気質の女神ならやると思ったよ!


 女神が俺から目を外した瞬間、俺は弾かれたように走り出していた。手にはいつも自衛用にポケットに潜ませているカッターがある。そして向かう先は壁沿いにいる騎士。


「うおぉぉぉおおおおおおお!」


 俺が突然襲いかかってきたことや、いきなり出した雄叫びにで精神的スタン状態に陥った騎士。動きが遅れ、隙が生まれる。


「後ろを失礼」


 新しく強化された、高い身体能力を駆使して騎士の後ろに回る。そして、カッターを兜の下に潜り込ませて、一閃。


 俺が、後ろに乗ったまま騎士の体は力無く崩れ落ちた。しかし、これはどうでもいい。


「こ、殺した!?」

「し、しし、死体!」

「キャーーーー!」

「や、やめてぇ!」


 なんか、クラスメイトたちが死体を見てギャーギャー騒いでるが、どうでもいい。


 俺が欲しいのは剣だ。


 例えここで暴れてそのまま逃げても、結局強制転移させられても、武器は必要になるだろう。


 しかも、手に入ったのは近衛っぽい騎士が使ってる上質な剣だ。これはありがたい。


 しかし、こっちが思考してても動きは止めてくれないか……残りの騎士が剣を抜いて囲んできた。


「おい!動くな!剣を捨てて投降しろ!」


 剣と死体を隠す仕草をしながら、騎士に優しい満面の笑みで答えてやる。


「まったく。そんなに警戒しなくとも……僕は人畜無害なただの中学生ですよ?」


 これは、只今ただいま人殺しをした男のセリフである。


「戯言を!」

「そうなら仕方ないか。ならこれはどうだ?お前らの中で代表者を決める。そして、そいつが俺と戦う。一騎討ちってやつだな。勝った方が、要件を通す。面白そうだろ?」


 こんな数を相手に、勝てる気はしない。だったら、一対一の方がまだ勝機がある(いや、ないに等しいが)。


 まぁ、それはあいつらも分かってる事だろうから、この要求が通る可能性は低い。


「何を言っている!そんな話が通るわけがないだろう!」


 ほら。


「そうか……ならしょうがないな。降参する。とっとと転移なり何なりしてくれ」

「は?」


 想定外の答えだったんだろうな。騎士が素っ頓狂な声を上げる。


 しかし、よく考えるんだな。ここで、戦っても俺は確実に死ぬ。ならまだ、レイナ洞窟とやらで魔物相手に生き延びる方がチャンスがあるってもんだ。


 女神が口を開く。


「何か叫んだと思えば、騎士を殺し。一騎打ちを申し込んで断わられれば、降参する。気が触れたんじゃないんですか。あぁ、可哀想に……」

「まぁ、まともな剣が欲しかったからな。でも、あいつに家族とかいたら……“殺してすまない。想定外の不運だ”とか伝えとけ」

「思ってもないことを」


 まぁ、個人的な見解だけど、死ぬのは弱い本人のせいだ。だから、俺も自分より圧倒的に強いやつに殺されれば文句は言わない。もちろん、全力で足掻くが。


「まぁ、いいでしょう。この部屋のカーペットは新しく入れ替えたばかりなので、あなたの血で汚したくもありませんし」

「そりゃ、どうも」


 女神が手をかざすと、俺を中心として、教室の時と同じ白い線が地面に現れた。


 しかし、線から発せられた光が臨界点を超え、今にも転移されそうな時、後ろから必死な叫び声が響き渡った。


「やめてください!こんなの処刑じゃないですか!」

「……アリス」


 声の主は、アリスだ。そして、隣には申し訳なさそうな顔をした和人もいる。


 和人は、すぐに状況を把握して、頑張ってアリスが口を挟むのを止めようとしてくれたんだろう。まったく頼りになるやつだ。


 正直、今アリスが女神に反対すると立場が悪くなるだけになる。あんな性格の悪い女神だ。邪魔者の排除は惜しまないだろう。


「困りましたねぇ、アリスさん。これは、チャンスと言っているんですよ。チャンス。もしかして、あなた少しバカな——」

「黙れクソが!」


 全力の殺気を込めた声で罵る。


 俺は基本罵られても構わないが、アリスをバカ呼ばわりするのは許せねぇ。


 そうだな。今は状況が状況だから何とか抑えるが、洞窟から出た瞬間から復讐ルート確定だな。


 でも今の最優先事項は、アリスを安心さることだ。


 振り返って、アリスの目を見る。そして、深い息を吐いて気持ちを切り替えたら、できる限り優しい声で話しかける。


「Don’t worry Alice, I’ll be ok. I can’t change the fact that I’ll not be there for you for a while. But I will survive and I will make it back to you. I promise.(安心してアリス。俺は大丈夫だ。少し離れ離れになることは変えられない。でも俺は生き延びて、戻ってくる。約束だ)」

「But……(でも……)」

「I’ll be fine. I haven’t broken any one of our promises yet. Right?(俺は大丈夫だ。今まで約束を破ったことはなかっただろう?)」

「…………」

「大丈夫、俺がっていったろ?」

「……うん」


 よし、何とか落ち着いてくれたか。アリスは母国語を聞くと安心するから、英語が得意で本当に良かったと思う。


 ただこれだと、俺がいない間のアリスが大丈夫か心配になる。


 そうだな……


「…………和人、任せた」

「あぁ、任された」


 これ以上の言葉はいらない、和人ならこれで通じる。和人に任せれば俺が帰るまでは何とかなるだろう。


「さてさて、そろそろ別れもすみましたか、ではせいぜい頑張ってください」

 

 いつもの満面の笑みを向けてくる女神に、俺も歪んだ笑みで答える。


「あぁ、俺が殺すまでに死らないでくれよ、クソ女神!」


 今日3回目の白い光が辺りを覆った。

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