第3話 プロローグ・Third
「勇者の皆様、ようこそお越しいただきました。私がこの世界を担当している下位女神になります」
「ここは、どこだ?」
代表して和人が答えた。
「ここは神聖イスタリア王国聖都イスタの王城になります」
「うん、分からん。…………すまないが、俺らは全く何が何だかわからない。なんなら、そもそもここが異世界だと言う証拠もない」
「いえいえ、それはこちらが勝手に呼び出したのが原因なので。まず皆様にはこの世界など説明を受けていただこうと思います」
普通なら、誰かが口答えしたかもしれない。でも女神が話している間、壁側にいた騎士達の威圧でほとんどの人が聞くのがやっとってところだった。
俺も、色々聞きたいことがあるけどまずは素直に従っていこう。俺一人の場合はともかく、今ここにはアリスや和人がいる。
そこから一時間ほどこの世界についての講座があった。まず最初に、俺らが召喚された理由について説明があった。上位神セントルが言ったように俺らは魔王を討伐するために召喚された。
なんとテンプレな。
それで、魔王を討伐して魔王が体内に溜め込んでいるエネルギーを使って元の世界に帰るための魔法陣を起動するらしい。
あと、この世界にはいくつか種族があるとも言っていた。魔王がいる魔族や精霊を拝めるエルフ、優れた匠であるドワーフ、そしてもっとも人口が多い人間などだ。そしてほとんどの種族は、原則として一人一つ固有スキルツリーを持っている。
固有スキルツリーは、そのスキルツリーのスキルを使い続けるとまた新たにその系統のスキルを獲得できると言うものだ。スキルツリーで手に入るスキルはその他で手に入る通常スキルより遥かに強いと言うのもこの世界の常識らしい。
そんな説明を受けてから、俺らは自分たちの魔力量と能力値、自分の固有スキルツリーがわかる検査を受けることになった。
「はい、ではみなさん一人ずつこの水晶に触れてください」
どうやら、水晶に触れたときの光量から魔力量などがわかって、固有スキルツリーや具体的なステータスは文字として浮かび上がるとのことだ。
ちなみに一回水晶に触れれば、ステータスと称えることによって自分のステータスが見れるようになる。さて、列の一番後ろに並んだ俺はみんなの結果を見ることにした。
最初に水晶に触れたのは和人だった。水晶が光り文字が浮かび上がると、結果を見た女神は驚いた顔をしていた。
「全ての能力値が150以上!そして固有スキルツリーは……聖騎士!とても優秀です。これほどの人材が一回の召喚にいるかいないかです!」
へぇ、そんなにすごいのか。
女神さんが能力値に驚いているのは、ステータスが訓練された兵と同じぐらいの能力値を素で持っているからである。
そして聖騎士というスキルツリーは回復魔法と攻撃力を両立させた結構強いツリーなのだ。
だが、そんなに強いのか?聖騎士では魔王と殺り合えるとは思わないし、聖騎士よりも『王』とか『勇者』とかそういうスキルツリーがもっと強いと思うのだが。
和人レベルがそんなにレアなのなら、今までよく魔王と殺り合ってたと思う。
そんなことを考えてると列が進み、今度は
伊藤光太郎は結構なイケメンで、クラスのトップ組にいる陽キャだ。そして、さっきの樹のボス的な存在でもある。
俺に対して公に敵意を見せることはないけど、いじめを裏で主導しているのはよほどの鈍感じゃない限り気付くことだ。
まぁ、それに気付かないほとんどのクラスメイトたちはものすごい鈍感と言うことになるが……。
一番多い手口は、樹とか他の取り巻きたちがいじめているところにヒーロー面して助けに来ることだ。
そんな光太郎の検査結果は……お?結構眩しいな?これはアタリか?
「ゆ、ゆゆゆ、勇者です!光太郎さんは勇者です!最強と謳われるスキルツリー『勇者』!素晴らしいです!コウタロウさん!」
「勇者なんて大層な……僕は水晶に触れただけですから」
すると……
「キャァー!光太郎くんカッコイイ!」
「ちょっ!いつから名前呼びするような仲になったのよ!抜け駆けしてんじゃないよ!」
「あぁ、私の勇者様!」
「カッコよくて、優しくて、その上で謙遜で……もう、完璧!」
いやいや、どこが謙遜なの?顔が見えてないだけだろ。女神が次の人に目を移した瞬間、素晴らしいぐらい禍々しい笑みを浮かべてるぞ。
「先程のカズトさんに加え、コウタロウさんまで!これほど才能に恵まれた人が集まった召喚は初めてです!」
でもいたか、勇者。もし、これが小説なら、主人公枠が埋まったってわけだ。いや待て…………そうか、ハズレスキルが主人公のシナリオもあり得るのか?
まぁ、残りのスキルツリーを見るまでは何も言えないが。
また何人か進んだら今度はアリスの番となった。
アリスが静かに、水晶に手を置く。
「……ッ!」
すると次の瞬間、部屋全体が白く染まるほどの光が水晶から発せられる。しかし不思議なことに、あまりの眩しさに目が眩むなんてことはない。
水晶に光はを浴びると、優しく包み込まれるような不思議な感覚が体を巡った。浴びるだけで、不安や怖さがなくなるようで、そして途方もない慈愛と安心感を感じるような光だ。
やがて、光が収まるとそこには満面の笑みの女神がいた。……なんか女神の笑顔が不気味だと感じるのは俺だけか?
そして、告げる。
「アリスさん、あんたのスキルツリーは聖女です!素晴らしいです!回復はもちろん、光属性魔法に対して高い適性を持つだけでなく、神性属性の魔法まで使えるようになるのです!素晴らしいです!」
「あ、えっと……ありがとうございます」
ここまで褒められるとは思わなかったんだろう。アリスが恥ずかしそうにしている。
それにしても聖女か……確かにアリスの優しい雰囲気に合っているような気もする。
これで一息つけるな。聖女なんてスキルツリーを持っていたら早々に死ぬことは無いだろう。まぁ、危険を近づけるつもりは毛頭ないのは変わらないが。
これで、アリスも安心できるだろう。
さてさてさぁ〜て!俺の番だ!
「なっ!」
「おいっ!」
「ま、眩しい!」
俺が水晶に触れることによって生じた光には、女神やクラスメイトたちだけでなく、壁に沿って並んでいた騎士や魔導士たちまでもが驚いていた。
これは来たか?
あれ?女神さん放心してません?
「あのー、どうかしましたか?固有スキルツリーを聞きたいんですけど……」
「へ?あ、あぁ、そうでしたね。能力値は平均150と勿論凄いんですが、それより……なんと!スキルツリーが二つです!素晴らしいです!ノアさん!これほどの才能は初めて見ました!」
この言葉には、この場の全員が騒ついた。それは、この世界の常識だとスキルツリーは“一人に付き一つ”が常識だからだ。これはさっきの短い講座でも習った。
「で、固有スキルツリーは何でしたか?」
「スキルツリーは……ぁ」
女神がスキルツリーの内容を見ようと水晶に目を下げた瞬間、彼女の周りの空気が変わった。
それは、深い失望なような……。
「……チッ」
「おい……」
さっきからの態度の変化で、あまりよろしく無いスキルツリーなのは察したけどさ……舌打ちする必要あった?さっきまで、微妙なスキルツリーを引き当てても満面の笑みで他のクラスメイトたちを励ましてたよね。
あぁ、気になる。一回水晶に触れれば、自分でも見れるようになるんだよな。試してみよう。
「ステータス」
榎本乃亜(種族:人間)
レベル:1
・能力値
筋力:153
俊敏:160
物理耐性:127
魔法耐性:125
魔力:520/520
知力:151
・スキルツリー
『狂人』:レベル1
レベル1:2倍返し
2倍返し:自身の受けたダメージを与えた相手に200%にして返す。
『完全再生』:レベル1
レベル1:低速再生
低速再生:絶命しない限り、どんな傷でも再生する。再生速度はローヒールより遅い。
確かに『勇者』や『聖女』、『賢者』なんかに比べれば見劣りするが、そこまでかねぇ?
舌打ちとか、ゴミみたいな目で見られるようなものでは無いはずなのだが。
いや、このスキルツリーは俺が想像したような効果じゃ無いかもしれない……。
とりあえず聞くしかないか。
「あの、なんでこのスキルツリーは舌打ちされるのか知りたいのですが……」
「はぁ、これだからバカな人間どもは……」
「はい?」
小声だったけど、さらっとすごいこと言ったな。
まぁ、人類が滑稽なぐらいに愚かなのは同意する。歴史を振り返っても、戦争メインにおまけの平和ぐらいの分量だし。
「いえ、何でもありません。スキルツリーについてよく知らないのならしょうがありませんですね。私が説明します」
「はぁ」
「まずは『狂人』ですね。これは、名前の通り狂人のような戦い方になります。火力はまぁまぁ高いですが、全てのスキルの発動には血や、痛みがなどが求められます。このスキルツリーで正気を保って死ねたものの話など聞いたこと無いです」
これがハズレなのは分かった。常人では耐えきれないようなスキルなのは事実なのだろう。俺なら何とかならなくも無い気がするが……それは認める。
じゃ、『完全再生』は何がダメなのか聞かせてもらおう。
「続いて、『完全再生』は特にデメリットはありません」
「ん?」
「しかし、それといったメリットもないのです。この世界には誰でも身につけられる通常スキルと、一人一つの固有スキルツリーがあります。そして『力』はスキルツリーから来るのです。……その肝心なスキルツリーの効果が自分を癒すだけ。いわば死ににくくなるだけなんです。それも完全ではなく、『完全再生』持ちが殺された事例なんていくつもあります。」
「あぁ、そういうことか」
ため息が出る。せっかく異世界転移したのにハズレスキルツリーかぁ。
まぁ、説明を聞くだけだとやり用はあるように思える。こっから、ハズレスキル持ちが主人公のシナリオを始めるか。
そんなこんな考えてると女神は話を続けた。
「これから勇者の皆様には引き続き説明を受けてもらいます。どうぞこちらへ」
まだ若干落ち込んだまま女神の指示に従おうとしたら、俺だけ声をかけられた。
「あ、ノアさんには他の勇者様と別行動をとってもらいます」
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