第2話 プロローグ・Second
「……ッ!……ここ、どこだ?」
一瞬、目眩がするほど眩しい光を受けたと思ったら、気が付けば教室とは似ても似つかない空間にいた。
周りにはまだクラスメイト達がいる。それも、位置関係は教室にいた時と変わらない。
この状況は俺が知る自然現象の中には無いものだ。つまり人為的に行われた行為という可能性が高い。
そしてこれを行なった人たちは少なくとも、親切に接してくるつもりが無いということも分かる。そうだったのなら、俺らに確認を取ってからこれを行うだろうから。
辺りを見回す。
俺らがいるのは、だいたい直径30メートルくらいだろうか?灰色の石で作ってあるプラットフォームだ。プラットフォームの端っこからは垂直に人一人の大きさのあるピンクの水晶が隙間なく連なっている。それは、あたかもプラットフォームから降りるのを阻むかのように。
しかし、背伸びをしながら向こうを覗いても危なそうなものは何一つ無い。というより、普通に何も無い。無限に白い空間が広がるだけだ。
「……やっぱりおかしい」
「あ……ノア?」
ここに来てアリスが俺の声に反応した。さっきまで放心状態だった手前、まだ目眩がしていたのだろう。今でも少し、心ここに在らずな感じがする。
他の奴らもよく見れば、まだ放心状態のやつらがほとんどだ。
「アリス、怪我はないか、どこか悪いところはないか?」
「え?……あ、あぁ、ううん、私は大丈夫。……ノアの方こそ大丈夫なの?」
「ああ、俺は何も問題ない」
「ねぇ、ノア」
「ん?」
「私たちに何が起こったの?これはどう考えても普通じゃ無い状況でしょ?」
文字にすれば真っ当なことを聞いているが、今のアリスの表情や声色、体の震えからは相当な混乱と恐怖に陥っているのがわかる。
これは、落ち着かせないといけない。
「あぁ、そうだな……正直に言えば分からない。でも、そうだな、何があっても俺がなんとかするから心配すんな。It’s gonna be ok. No matter what.(大丈夫だから、絶対。)」
「ふふっ、何そのクサいセリフ……でも、ありがとう。なんとかなる気がしてきたよ」
今ので少し落ち着いたのかさっき一瞬見せた不安や恐怖は何処、アリスの声にいつもの冷静さが戻っていた。
「なんとかする」……普通に聞いたら頼りない一言かもしれない。でも、俺のことを知ってる人からしたらこれは絶対に破られない約束だ。今まで俺が「なんとかする」って言ってその約束を破ったことはない。
しかし、所詮は人の言葉。これを聞いてもアリスは心のどこかでは不安に思っているはずだ。俺が、大丈夫だということを行動で示してあげないといけない。
それには、まず情報が必要だ。
「でさぁ、アリス。この状況につ——」
「えっ!ちょっ!これって、異世界転移ってやつじゃない!?」
「は?」
アリスに一緒に考えて貰おうと、この状況について俺が知っている情報を伝えようと思ったら、途中で叫ぶクラスメイトに言葉が遮られた。
それも、これが異世界転移とかほざいている。
「いやいや、確かにロマンはあるが……」
「それはさすがに無理があるんじゃない?」
アリスの言う通りだ。普通に考えたら、絶対にありえない。……が今、俺らの身には、普通に考えたらありえないことが起こってもいる。
俺は(別にオタクなどではないが)異世界ものの物語は好きだ。そもそも、全身黒で覇道を突き進む少年の姿に憧れない男などいない。いや、性別問わず、憧れるポジションだと思う。
その上で、ここにはちょうどそのお年頃な子供達が集まってしまっている。
何より、今の状況は論理的な説明と、それに伴う解決策を考えるための情報が圧倒的に足りない。厨二な思考を持った奴らが目の前で起こったことについて考えれば、思考がそっちに傾くのは仕方がないのかもしれない。
「異世界転移、ね。確かにしてみたい気持ちもあるけど……でもやっぱり、ノアと一緒の平和な日常がいいな」
「……アリス。ありがとうな。……でも一つ訂正させてくれ。」
「……?」
「たとえ、異世界だろうと異空間だろうと俺はアリスを一人ぼっちにはしない。そして、二人でいられるのであれば…………どこであろうと、俺はアリスと俺の平和を守りきる」
アリスも異世界系の小説を読まないわけではない。異世界恋愛系は結構好きだったりする。なので、もしこれが本当に異世界転移なら、これから何が起こるかについては大体の予想がつくことだろう。
それは決して望ましい展開が待っているわけではないことも分かっていると言うことだ。できるだけ安させてあげなければ。
「え!?え、えぇ、そうね……ありがとう」
でも今のセリフはさすがに攻めすぎたか?
二人とも少しばかりか頰を赤らめて、微妙な空気を流していると、後ろから声がした。
「榎本、アリスさん、大丈夫か!」
「おう、和人か。俺たちは大丈夫だ。……こっちの話が終わるまで待ってくれてありがとな」
「ありがとうございます。和人さん」
「俺がいたのに気付いてたのかよ……。はぁ、とりあえず問題なさそうで何よりだ。さて、今必要なのは情報だ。みんなを集めるの手伝ってくれるか?」
「へいへい」
「わかりました」
クラスメイト達を集めて、情報を集めようとしてるんだろう。しかし、既に何か分かってる事はないか聞こうとしたら、頭の中に声が響いた。
「勇者の皆様、ご機嫌よう。私はこの世界を含めたいくつかの世界を監督している上位神セントルと申します。これから皆様には今までとは違う世界、つまり異世界へ転移していただきます。そこで邪神と協力関係にある魔王を討伐していただきます」
「………………」
皆、いきなりすぎて反応できなかった。
声音は冷たいと言うよりかは事務的で、若干男寄りな中性的なものだ。
「詳細は転移した先にいる下位女神に説明してもらいますので、私からはこれだけ。魔王は倒すことは容易ではありません。では、ご武運を」
そこまで聞こえると、また周囲が真っ白になった。
また転移(?)した先は大きな部屋だった。赤いカーペットが敷いてあり、壁にそって人が並んでいた。服装は完璧に程度そろっていて、剣を持って鎧を着ている騎士(?)とローブを着て杖を持っている魔術士(?)がこちらをを見ていた。
しかし、一番目を引くのは中央でこちらを見て微笑んでる下位女神であろう人物だ。
「勇者の皆様、ようこそお越しいただきました。私がこの世界を担当している下位女神になります」
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