クラス召喚で俺だけハズレスキルが二つ!〜国から追放されたけど、スキルがあまりハズレっぽくないので、魔王になって女神と勇者に復讐します!〜

ゴジゴジ

プロローグ

第1話 プロローグ・First

 

 俺は榎本乃亜、そこら辺のどこにでもいる中学3年生…………ではない。


 実は母さんがアメリカ人で、俺はハーフということになる。なので英語はとても得意だ。


 それに加え、まぁまぁに体格が良くて、喧嘩が強いのも俺の長所だろう。そのお陰で多少脳筋な方に思考が偏っているが……。

 

 しかし、筋肉バカで成績が悪いわけでもない。むしろ学年20位が最低順位なぐらいだ。


 こうして長所を並べていると、俺が何か優等生かのように聞こえてしまうかもしれない。かもしれないが……如何せん、人には長所と短所がある。


 一つ挙げるとすれば、俺の倫理的問題があるだろう。


 俺は倫理感が薄い。……というより、俺には倫理感が全くない。何人かの身内は例外だが、それも数は少ない。その例外たち以外の人がたとえどうなろとも、俺の知ったことではない。


 …………人として間違っているのは分かっている。分かってはいるが、でも今ではもう…………そうとしか考えられなくなってしまった。あの後からは……。


 いや、これは今考えることじゃない。それよりも目の前の問題だ。数学を、数学の授業を乗り切らなければ。


 …………25分後


「はぁ〜、寝みぃ」


 なんとか眠らずに乗り切ったぁ!あとは家に帰るだけだ。まぁ、誰かが待ってる訳じゃないけど。そうだな、溜まってたアニメでも見るか。


「おいおい、榎本。眠そうだな?ァア?どうせ夜遅くまで、アニメ見ながらヨダレ垂らしてたんだろぉ?」


 「おいおい」はこっちのセリフだ。後少しで帰れるつって、気分良かったのに。なんで絡んで来るんだよ?お前が視界に入るだけで、めんどくせぇんだよ。


 絡んできたのは桐生樹キリュウ・イツキ、ザ・ヤンキーみたいな性格と見た目をしていて、暇あれば絡んでくるクソ野郎だ。しかもこれら短所を全部考慮しても、ノリがいいからと言ってクラスでは人気者になっている。


「まず一つ。……お前はアニメを見たことがないのか?いや、それともただの馬鹿なのか?前者だと日本人として、後者なら現代社会の人間として、恥ずかしいぞ?」

「は?」

「その『アニメ=エロい美少女がウフフってしてる』の偏見をどうにかしろと言っている。聞いてて気持ち悪いし、前提が間違っている」

「おい!てめ——」

「そして二つ目だ。そもそも俺はオタクではない。オタクと、ただ単純に『アニメが好き』は違うぞ。お前のオタクの定義を聞いたら、ガチでヤってる奴らが”なめるなぁ!”って殺しに来るぞ。最後にもう一つ。……俺が寝不足なのは、お前らが英語のグループ発表のために何も準備しないのを、俺一人でどうにかしていたからだ」


「うるっせえ!テメェみたいな外人は、どうせ英語しか取り柄がねぇんだろ!俺のために役に立ってることを光栄に思うぐらいの態度が必要だ!」


 それ、英語圏出身じゃない外国人には適応しないのでは?

 それに、この学校の英語の授業のレベルに合わせた課題だったから、お前でもできるはずだぞ?

 そもそもの話、俺は親が外国籍なだけであって、生まれも育ちも日本なのだが?英語が上手いのは、自分から興味を持って努力したからだ。


 うわぁー。突っ込みどころが多いなぁ、おい。


 というか、あまり騒がないでくれ。他のクラスメイトたちが見てるじゃねぇか。ただでさえ俺はクラスのカーストが低いのに、お前が絡んでくるとみんなが便乗して来てうるさくなるんだよ。


「おい、榎本のやつ。樹に怒られてんぞ」

「はぁ?何考えてんだよあいつ。あんな調子乗ったヤツが樹に話しかけるのさえおこがましいて言うのに」

「ほんと。何考えてんだあいつ」

「所詮は外人だ。まともな事じゃないだろう?」

「榎本、顔だけはいいのになぁ。雑種でさえなければ」


 ほら、便乗して来た。


 しかも、みんな俺が喧嘩強いのを知ってるから、絶対に一人の時は罵倒してこないんだよな。群がる小魚かな?


 あと、さっきからちょくちょく聞こえる外国人差別は、実は最近始まったものだ。というか、俺をいじめる理由を増やすためにみんなが、わざわざ始めたものだ。


 ……どんだけ俺が嫌いなんだよ。


「おい!なんだそのダルそうな顔は!俺が話しかけてやってるって言うのに!」


 自惚れすぎだ。


「そうか、そうだな……これは懲らしめてやらないとだな?ァア?」

「ほう?……お前が、俺を懲らしめられるとでも?」

「うっ……そ、そうだなぁ…………決めた!お前さんがあんなに大事にしている彼女。あいつも外人なのは気に触るが、顔と体はいい。俺直々にたっぷりと可愛がってやろうか?」

「…………は?」

「安心しろ、ちゃんと優しくしてやるから。いや、アレが泣き叫ぶかもいいかもなぁ。ウッヒャァー!考えるだけでゾクゾクするぜ!」

「…………」

「ハハッ!おい!なんとか言えよ、榎本!なぁなぁなぁ!榎本ぉ!」


 あいつは今、俺の彼女を犯すと言ったか?俺に直接手を出せないからと言って、彼女に狙いを定めたのか?


 はっ、ヤベェ。怒りと殺意が抑えられなくなってきた。これは少々暴れるかもしれない。

 

 ここで暴れたら確実な証人がいる。後処理がめんどくさそうだ。でも、アイツをボコさないことは感情が許さない。


 はぁ…………せいぜい殺さないように頑張ろう。


「ッ!おい、お前ら!とっとと帰る準備をしろ!」

「会長?」

「チッ。めんどくせぇのが来た」 


 あ、クッソ!樹のヤツ、逃げあがった!アイツは後で…………


 それより今は、会長に礼を言わないと。


「サンキューな、会長。後少しで、取り返しのつかいないことをるところだったぜ」

「お、おう。お前の周りの空気が変わった時、まさかだとは思ったけど…………殺すつもりだったんだよな?」

「さすがににそれは。……でもまぁ、だいたい殺す一歩手前ぐらい?」

「それでもアウトだ」


 声がギリギリ俺に聞こえるぐらいの声量。そこら辺の気遣いができるのがこいつの長所だ。


 俺と樹の間に割って入ったのは、この学校の生徒会長で俺の友人の親富祖和人オヤフソ・カズトだ。俺よりちょっと背街低い、175cmのひょろっとした体だが、しっかりと筋肉がありレスリング部というマイナーな部活をまとめ上げている部長でもある。

 

 会長は正義の味方とまではいかないが、真っ直ぐな性格でさっぱりしている男だ。


 そして、俺がこのクラスで身内と認識する数少ない人の一人でもある。理由としてはもちろん、俺をいじめたり差別したりしないことがあるが、それ以上に共同戦線(もどき)という強烈な経験を共にしたことが大きい。


 まだ中二だった頃。俺は高三ほどの不良の集団4人に絡まれたことがあり、俺の性格の問題もあってかすぐに殴り合いに発展した。喧嘩自慢の俺は高校生4人相手によく頑張っていたとは思うが、如何いかんせん4対1だ。


 なんとか二人気絶させ、残り二人を相手に劣勢になっていた俺に通りかかった会長は、自分の身を顧みず飛び込んできてくれた。これにてなんとか巻き返し、その上ボロボロになった俺を家まで送ってくれた会長には、あの日から絶対的な信用を寄せている。


 そしてそれは、彼も同じだろう。


 実際、今も俺を咎める口調などではなく、声から心配が見え隠れしている。


「でも、会長が割って入ってくれたから随分と落ち着いたよ。ざっす。これで樹を冷静に淡々と追いつめる計画が実行できるよ」

「あのなぁ……いや、いい。聞かない方がいいこともあるし、アイツはそれぐらいのことを言ってた」


 もちろん、ここで二人とも「先生に話そう」なんて言わない。どうせアイツは見て見ぬ振りをするだろう。


「それより、彼女さんがスゲー心配してたぞ?」

「あ、あぁ。アリス、心配させてすまない。見苦しいものを見せた。……俺は大丈夫だ。今回はちと冷静さを失ってしまっただけ」

「ねぇ、本当に大丈夫なの?あんなひどい事を言われて、心が痛くないの?あんな状況にされて、まともに言い返さずに…………なのに、なのに!私の為にはあんなに怒ってくれて……」

「あちゃー……樹のアレ、聞こえちゃってたかぁ」


 会長の背後からひょこっと出て来たのは俺の彼女、アリス・フレントンだ。


 名前から見てわかるかもしれないが、彼女は日本人ではない。アリスは一年ぐらい前にアメリカから転校して来て、その時彼女が日本語に慣れるまで俺が通訳をしていたのが出会ったきっかけになる。


 俺はアリスに初めてあった時、まず彼女の輝くブロンドの髪と、宝石のように煌めき海のように深く透き通った蒼い瞳に魅せられ、その後一緒に過ごす時間が多くになるにつれて、その真っ直ぐで美しい生き方に恋にをした。


 六ヶ月前に俺が告ったのがきっかけでお付き合いをさせていただいている。


 ちなみにアリスは生まれつきの高い言語力と、ものすごい努力により、今では日本人と比べて遜色無い日本語が話せるようになっている。


 そんな俺の想い人に、俺は樹のあの下劣で欲望丸出しの話を聞かせてしまった。これは謝らねば。


「すまない。樹のあんな話を聞かせてしまって……気を悪くしたんだったら謝るよ」

「ううん。これはノアが謝るこよじゃ無いよ。こっちこそ、ちょっと強くあたちゃって、ごめんね?やっぱり少しイライラしてたみたい」

「そう言ってもらうと助かるよ。樹のことは……俺が後でなんとかすし、じゃ、帰ろっか」


 そう言って自分の机がある方に目を向けると……


 そこには、目を疑うほどの光景があった。


「ここまでやるかね?というか、よくここまでやる時間があったな?」


 そこには、荒らされた俺の椅子と机があった。


 「死ね」なり「雑種」なり「消えろ」なりと、なんともオリジナリティーに欠ける落書きがされた机は横に倒されていて、中身は辺りにぶちまけてあった。特に、宿題類は戻せないほどにボロボロにされ、やり直しになるだろう。


 椅子にかけてあった上着もマジックで落書きされていて、穴まで開いている。


 もはや怒る以前に、よくこの短時間でこんなにボロボロにできたなと感心してしまう。もちろん、これが日常茶飯事だから慣れてしまっているというのもあるけど……。


 が、それも俺だけのようだ。


「……ッ!」

「おいおい、これは流石に……」


 アリスと会長が俺の言葉に反応し振り返った時、アリスの方からわずかに息を飲む音が聞こえた。


 アリスとつないでいでいた手にかかる圧力が増える。


 彼女は今、憤怒している。それも、俺のために。出来るだけ見せないようにしているが……わかる奴にはわかるんだ。


 会長もさすがにここまで酷いのは想定外だったのか、驚きの声を上げている。


「これは……徹夜だな」


 踏み潰されたレーポートや宿題を見ながら言う。書き直しだろう。徹夜でも終わる気はしないが……。


「片付けぐらいは手伝わせて」

「俺も手伝うぞ」

「あぁ、ありがとう」


 そう言って、3人で片付けをしていながらも、周りからは小さな笑い声が聞こえてくる。俺らを何かの面白い見世物と考えているみたいだ。


 はぁ、いくら器が大きい俺でもさすがにムカつくなぁ。


 心の中でそんな事を呟いて、倒れていた机を戻そうとしゃがんだ……


 その刹那。


 音は消え、時は止まり、床に何本もの白い線が現れた。


 刹那の静寂の後、白い線から発せられた眩い光によって教室が包まれたのであった。

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