第7話 一騎打ち

開戦の瞬間、カリイは後ろへ飛んだ。


短槍とはいえ、大剣を持つ俺よりは間合いが広い。

遠距離から完封するつもりだろう。

そうはさせない。


思い切り地面を蹴りつける。

強烈な加速を得た俺は、数メートルの距離を一瞬で詰める。


上段から振り下した大剣がカリイの身体を捉え、

掲げられた大盾によって角度をつけて受け流された。


「大した力だが、それだけではこのカリイ・ファイスには当たらんぞ!」

挑発とともに繰り出される短槍を大剣で叩き落す。

追撃を狙うが、カリイは再び距離を取っていた。



単純な力なら俺が上だ。

だがカリイは俺の攻撃を上手くいなして次の動作に繋げている。

間合いの取り方もうまい。

長い間修練を積んだ者にのみ可能な技だ。


俺はこの世界に来る前は日本で平和に暮らしていた。

どうやっても戦闘経験で上回ることはできない。


ならば、今持てる力で押し切る!!


わが身に力をブースト

もう一度地面を踏み込んで間合いを詰める。


カリイは同じように盾を構えた。だが遅い!


袈裟懸けに振るった剣が、奴の大盾を芯で捉える。

反撃の突きが来るが、腰が入っていない!!


俺は槍を弾き飛ばすと、大剣を横なぎにして、カリイを吹き飛ばす。



カリイは地面に大の字倒れている。

弾いた槍は彼の手を離れ、地面に突き刺さった。


あとはとどめを刺すだけだ。


俺がカリイへと足を向けた時、

彼は、胸元から出した小さな水晶を砕いた。

「魔法石よ、我に力を!土槍よ、敵を貫けアースランス



一瞬、地面が陥没する。

次の瞬間、ひび割れた地面から土の槍が迫ってきた。


これは…土魔法か!

今から下がっても躱せない。それならば正面から迎え撃つ!


我に更なる力を!!オーバーブースト


強化魔法の2重掛け。

大きすぎる魔力が身体から漏れ出し、黒炎のように吹き上がる。


渾身の力で大剣を振り下ろす。

大剣は土槍と一瞬火花を散らしてぶつかり合い、そして断ち切った。


粉々に崩れる土槍。猛烈な土煙が立ち込める。


魔法を撃ち破ったが、黒騎士の直感が警鐘を鳴らし続けている。

最大の危機は過ぎていない。



土煙の中、カリイが短槍を拾い上げて突っ込んできた。

「終わりだ!! 短槍術、《三段突き》!」


カリイの体を魔力のオーラが包んでいる。

動きの速度がさっきまでとは桁違いだ。

物理法則を超越している。魔法の1種か!?



高速で迫りくる3つの突き全てに対応する余裕はない。

とっさに地面に伏せるようにして穂先を躱すと、大剣を掬い上げるようにして一閃。


カリイの突きと俺の大剣が交差する。


躱しきれなった一突きが俺の左肩をえぐった。


だが、カリイは苦悶の表情を浮かべた。

「肉を切って、骨を断たれたか…」


これまで俺の大剣を防ぎ、カリイの命脈を保ってきた大盾は切り裂かれ、真っ二つになった。



倒れ込んだカリイに大剣を突きつけ、問いかける。

「まだ続けるか?」


「いや勝負あり、俺の負けだ」

そういうとカリイは短槍を地面に突き刺した。


◇◇◇◇◇◇◇◇

一騎打ちは俺の勝利で終わった。

戦いが終わった森には静寂が広がっている。


力を使い切って倒れていたカリイが口を開いた。

「黒騎士よ。俺はお前に負けた。しかし一つだけ、頼みがある」


「なんだ?」


「俺のことはどうしてもいい。だが、部下たちの命だけは助けてくれないか。まだ若くて未来のあるヤツらなんだ。捕虜として扱って欲しい」


俺は一騎打ちを見守っていた人間の兵士たちを見つめる。

確かに若い兵士が多い。

嘘は言っていないようだ。

それに魔王軍の敵であるエルナーゼ王国についての情報源が増えることは悪いことではない。


「魔王軍に対して抵抗しないと誓え。それと捕虜になった場合こちらの質問には全て答えてもらう。この二つの条件が守れるなら提案を受け入れよう」


「分かった、決して魔王軍に危害を加えないと誓おう。質問にも可能な限り答える」

カリイが頷いた。


「ライン川でタカアキを刺した兵士みたいに、油断させて後で不意打ちするつもりなら容赦しないよ」

レーナが決然とした表情で呟く。


「俺は誇りある兵士だ。約束を違えることはないし、俺の目が黒いうちは、裏切り者は出さない。だからどうか彼らを生かしてやってくれ」

レーナを見つめるカリイの目には怯えはなく、決意に満ちていた。部下思いの指揮官なのだろう。


「レーナ、心配してくれてありがとう。だが、カリイはこの前の性根の腐った兵士とは違うみたいだ。これよりエルナーゼ王国軍補給部隊を捕虜として扱う!」

俺は遊撃隊の面々にそう宣言した。


◇◇◇◇◇◇◇◇


エルナーゼ王国軍補給部隊と魔王軍遊撃隊の戦闘は終結した。


エルナーゼ王国軍の被害は甚大だった。

アラル砦への補給物資は焼き払われ灰となった。


護衛兵士12名が捕虜となり、残りは戦死。

馬車の御者など8名の非戦闘員も捕虜となった。

遊撃隊が獲得した捕虜の数は合わせて20名にも及ぶ。

魔王軍がこれほどの数の人間を捕虜にすることは初めてのことだ。


対して、魔王軍遊撃隊が受けた損害は指揮官の黒騎士及びオーク2名の負傷だけだった。

彼らは軽傷であり、すぐに活動を再開。魔王城へと帰還した。


補給部隊の異常に気づいたアラル砦守備隊が捜索隊を送ったとき、戦場に残されていたのは燃え尽きた馬車だけだった。


魔王軍遊撃隊のエルナーゼ王国軍補給部隊襲撃は大成功に終わった。





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