第6話 補給部隊襲撃 *タカアキside

俺たち魔王軍遊撃隊は、前日のカアードの言葉を参考に、アラル砦の南東を捜索した。

カアードの情報通り砦南東の森には明らかに人の手が入っていた。

数十分ほど捜索を続けたところで、ゴブリンたちが補給路を発見した。



「タカアキ、馬車が何台か補給路の向こうからやって来てる。まだ離れてるけど、1時間ぐらいでここに着くと思うよ」

確認に向かったレーナがそう言って木から降りてくる。


最悪数日張り込んで、敵補給部隊を待つことも覚悟していたが運がいい。


「タカアキ、攻撃するかい?」

レーナが獰猛な笑みを浮かべて尋ねてくる。


「もちろんだ。遊撃隊のみんなを集めてくれ。作戦を伝える」


◇◇◇◇◇◇◇◇


今回の作戦は単純で、説明は簡単だった。

人間たちの補給路は森を切り開いて作ったもので、両脇には草木が生い茂っている。


まず、俺たちは両脇の森で馬車を待ち構える。

レーナの魔法、ゴブリンの投石で遠距離から攻撃。

相手が混乱し弱まったところで、俺がオークとリザードマンを率いて突撃。できるならば相手の護衛部隊に損害を与える。


作戦の説明が済んだところでリキーが手を挙げた。

「黒騎士様、前みたい皆殺しにはしないのか?」


「今回の攻撃は補給物資を焼き払うことが第一の作戦目的だ。敵を倒せるなら倒したいが無理をする必要はない。」


そう告げると遊撃隊の面々は怪訝な顔する。

やはり敵を討ち取ってこそ勝利という感覚があるのだろう。


「そんなんで人間に勝てるのか?」



「食料の大切さは砦攻めと、今回の遊撃隊の行軍で分かっただろう?補給物資は軍隊の生命線だ。それがなくなれば人間の軍は終わる。」


「確かにその通りだな!」

遊撃隊の食事についての例を出すとリキーは納得した。

魔王軍にも僅かだが補給の重要性が理解され始めている。

これはいい傾向だ。


これで質問は終わりかと思うともう一つ手が上がった。レーナだ。


「もし攻撃がうまくいって、人間たちを殲滅出来たら捕虜を取るのかい?」

彼女は真剣な表情で口を開く。


「そうだな、今回の戦いでは状況が許せば何人か捕虜を取ろうと思っている」


「タカアキ、私は反対だよ。人間は信用できない」

レーナの不安も理解できる。


だが魔王軍にはあまりにも情報が不足している。

今から襲撃する敵の補給路すらカアードが口を滑らせなければ、闇雲に捜索しなければならなかったほどだ。


「リスクあるが俺たち魔王軍がまともな作戦を立てるためには、敵についての情報が必要なんだ」


「タカアキのいうことはもっともだよ。でも心配なんだ。もしも人間が卑怯な手でタカアキを襲えば、交渉の途中でも私たちはそいつを殺すよ。これは私だけじゃなく、みんなの意見だ」

レーナがいつになく強い口調で訴える。

見ると、ゴブリンやリザードマン、オークたちも頷いていた。

やはり人間への不信感は根強いようだ。


「わかった。俺は人間への降伏勧告を行う。しかし、もしも昨日の兵士のような不届き者が現れたら俺を守ってくれ。頼んだぞ」

そう告げると、静かな森林に歓声が響いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


計画通りに、街道を進んできた馬車の列にレーナの炎の魔法、ゴブリンたちの投石による遠距離攻撃を撃ち込む。


補給部隊への奇襲はうまくいっていた。


しかし優秀な指揮官がいたようで、

人間は混乱しつつも防御陣形を組もうとしている。

陣形が完成してしまえばこちらが不利だ。


「ダナソ、リザードマンを率いて敵陣の外にいる馬を突き殺せ! 馬車の足を潰すんだ! リキー、プトー、二人はオークたちを連れて俺に続け! この防御を突破する!」



剣を構えようと慌てる人間の兵士を両断する。

人間たちの動きが鈍い!主導権は遊撃隊が握った。


俺は立ちふさがる兵士を切り飛ばしながら突撃する。


突撃は順調だったが、こちらも無傷とはいかなかった。

既に2人のオークが負傷し、突撃から落伍していた。

不完全な形でも陣形を組んだ人間たちの連携は大きな脅威だ。



だがその勇敢な抵抗にも限界がある。

既に補給物資は燃え盛っている。

荷馬車の足である馬もリザードマンたちが殺した。


さらに俺の目の前の兵士は恐怖に負けたのだろう、足が震えている。

ここから陣形を突き崩す!



「我こそはエルナーゼ王国軍、輜重部隊第3小隊隊長、カリイ・ファイス!

化け物め、これ以上、部下は殺させん! 貴様も騎士なら、俺と勝負しろ!」


へたりこんだ兵士に大剣を振り下ろす直前、敵の指揮官が飛び出してきた。



「勝負だと?どういう意味だ?」


「一騎打ちだ!俺が勝てばここで引き揚げてもらうぞ」


俺は負傷したオークたちを見やった。命に別条はないが、赤く染まった傷口が痛々しい。


指揮官どうしの一騎打ちはひどく前時代的だ。

しかし、これ以上部下の損害が増えないという点では合理的だ。

上手くすれば生き残りの人間を全員捕虜にできる。


「いいだろう。ただし増援を呼ぼうとする者がいれば、即座に殺す。そして、俺が勝てば魔王軍遊撃隊はお前たちの全てをもらおう」


そう告げるとカリイは頷いた。

異存はないようだ。


陣形を解いた人間と魔王軍遊撃隊が大きな円を作る。


正面に構えたカリイを観察する。

左手に持つのは大盾、右手に短槍。

やや小柄だが、引き締まった身体は鎧の上からでも鍛えていることがわかる。

並の兵士じゃない、強敵だ。

相手にとって不足はない!


「来いよ!化け物!」

緊張感に満ちたカリイの声が、開戦を告げた。

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