第2章 遊撃戦

第1話 改革開始

魔王との会談のあと、俺はズメイとともに魔王軍改革に動いていた。

聞けば、魔王軍には兵士の名簿すらなく、誰もその総数を把握していないということだった。


あまりにも軍としてひどい状態だが、文句を言っても仕方がない。

これまで魔王軍は戦術の「せ」の字もない戦い方をとってきたのだから。


魔王軍改革のためには現在の魔王軍について正確な情報が必要だ。

俺たちは全力で情報収集に明け暮れた。


数日間かけて集まった情報は予想通り厳しいもので、魔王軍はまさにジリ貧というべき状況だった。



魔王軍の支配領域に暮らしている魔物の総数はおよそ3000。

その内、魔王軍の兵士として戦えるものは、ゴブリンが500以上、オークが200、リザードマンが150程だ。数は少ないが、竜人族に50程、オーガ、人狼族にもそれぞれ20程戦えるものがいる。



全部合わせても1000にも満たないのか…

砦にいる兵力だけで数百はいる人間の軍勢に対してはあまりにも心もとない。

俺は思わず天を仰ぐ。

唯一の朗報は俺の黒騎士の身体がこの世界の文字を覚えていて、資料を読むことができたことぐらいだろう。



そして、この数字は長く魔王に使えて来たズメイにとってもショックだったようだ。


「なぜだ、かつて魔王様がこの地に現れ、人間を押しまくっていた時は、数万の軍勢がいたのだ…それがどうしてここまで…確かに多くの戦士が打ち取られたが、新たな戦士も生まれていたはずだ…」

ズメイは半ば茫然としていた。


この急激な衰退が引き起こされた理由は単純だ。

「男女バランスが崩れている。人口の急激な減少はそれが原因だと思う」


戦場にでる魔物は基本的に男が多い。その多くが戦死して極端に男が少ない状態になっている。これではつがいを組める数は人口に比べて極めて小さくなり、後はひたすら少子化が進行していく。



「ズメイ、他に魔王軍に味方してくれる種族はいないのか?」


絶望感にさいなまれながら俺は問いかける。


ズメイは力なく首を横に振った。


「かつてはワイバーン、デーモンなどの強力な種族もいたが、人間たちに追い散らされる内に我々とは別の場所に行ってしまった。もう連絡を取ることができない」


そしてズメイは、デーモンはともかく、空を飛べるワイバーンと連絡がつかないということはワイバーンは絶滅したのだろうと語った。


しばらく俺たちの間を沈黙が流れる。


「タカアキ、私たち魔王軍はどうすればいいんだ?」

なんとか平静を取り戻したズメイが問いかけてきた。




「出産の周期が速い種族、オークやゴブリンたちにできる限り子を産むよう伝えてくれ。それからまだ大人になっていない未熟な新兵を無理に戦場に出すのも控えるべきだ」


俺は報告書を机に置きながら答える。


だが、ズメイは顔をしかめる。

「非戦闘部隊などという戦わない部隊を作るのだろう?その上若者も動員しないとなれば、ただでさえ戦士の少ない魔王軍は立ち行かなくなってしまう」


実際その通りだ。だからその対策は考えてある。


「非戦闘部隊の内、補給物資を集めるのは新兵たちに担当させる。新兵たちの訓練で魔獣を狩り、そこで得た食料を戦闘部隊に持たせるんだ」



「なるほど、大きく戦闘員を減らすことなく補給の改善が行えるというわけか。理にかなっているな」

そう答えたズメイはどこかほっとした表情を浮かべていた。

対応策があると分かって安心したようだ。


しかし俺はズメイのように楽観的にはなれなかった。

俺の示した対応策で人口問題はいくらか改善するだろう。だが、その効果はすぐには現れない。今後しばらく、魔王軍は数的劣勢の中で人間と戦うことになる。



懸念点は他にもあった。


「各種族ごとの指揮官は決められそうか?」


「竜人族はこの私が。オーガはレーナの父であるラセツ、人狼族はガルフがそれぞれ率いることに決まった。だが、兵の数の多いゴブリン、オーク、リザードマンは決定を急がせているが、はっきり言って収拾がついていないようだ」


そういうとズメイはため息をつく。



「わかった。俺は魔王軍別働隊に参加したメンバーを基幹として遊撃隊を組織する。そこに見込みのありそうなオークとリザードマンを数人ずつ送り込んでくれ。俺が遊撃戦から帰っても指揮官が決まらないのであれば、遊撃隊での動きをみて俺が任命しようと思う」


出来れば種族ごとに納得いくリーダーを選んでほしかったが、決まらないのなら仕方がない。

今の魔王軍に悩んでいる時間はないのだ。



「承知した。武運を祈る」

そういうとズメイは俺に向かって頭を下げた。



こうして俺は魔王軍別働隊の仲間に、ズメイが推薦した5人のオークと6人のリザードマンを加えた魔王軍遊撃隊を率いることとなった。



魔王城の城門に魔王軍遊撃隊が並んでいる。

ゴブリン、オーク、オーガ、リザードマン。多くの種族の魔物が整列する姿は壮観だ。

「どの人間を狙うんだい?」

レーナが笑顔で質問する。

撤退戦で負った手傷は完治しているようだ。


「決まっている。俺たちが狙うのは人間の軍の弱点---補給部隊だ!」


魔王軍の改革にはまだ多くの時間が必要だ。

それをこの遊撃戦で稼ぎ出す!!

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