第6話 女神ヘカティナ
俺たち魔王軍別働隊は、だれ一人欠けることなく魔王城へと撤退した。
しかしやはり100対18で戦った代償は大きい。死者こそ出なかったが、負傷していないものは皆無だった。魔法を中心に戦ったレーナでさえ手傷を負っている。
撤退途中で傷と疲労で歩けなくなるゴブリンも現れ、俺とレーナが交代で背負って帰還した。
魔王城内で別働隊の全員に最低限の傷の手当てを受けさせると、俺は倒れるように眠った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「坊や、起きなさい」
どこかから声が聞こえる。
「目を覚ましなさい、わたしの可愛い坊や」
気がつくと俺は暗闇の中にいた。夢にしてはリアリティがある。
声のあった前方を見ると人影がたたずんでいる。
どうやら人影は俺が起きないことにしびれを切らしたらしい。
「なかなか目覚めないなら…無理にでも起こしてあげるわ」
次の瞬間、人影の足元にもう一つ影が現れる。そこから出てくるのは鋭い牙を持つ狼。
こいつ、いきなり魔獣をけしかける気か!?
なんて奴だ。
ウォーウルフは地面を蹴ると、口を開け、俺に向かって突っ込んでくる。
速い。だが対応できないほどではない。
俺はウォーウルフの突進をいなすと、右手に持つ剣を一閃。
ウォーウルフは腹から真っ二つになって死んだ。
「誰だ?おまえは?」
いきなり襲ってきた相手に俺は尋ねる。
「わたしは
するとそいつは微笑んで答えた。どうやら俺を襲ったことに対する罪の意識はないらしい。
俺は女神を名乗る女をにらみつけたが、彼女は気にも留めずに話を進める。
「そんなに怒るのはよしなさい、今日はあなたにご褒美を渡しに来たんだから」
「ご褒美?」
「そう、砦からの撤退で人間たちを出し抜いたでしょう?あれは見事だったわ。好きなものを言いなさい。欲しいものをあげるわ」
俺は改めて前にたたずむ彼女の姿を見つめる。姿形はほとんど人間と変わらない。
だがその美貌は神なんて信じていない俺でも神々しさを感じるものだ。少なくとも普通の生物ではない、一つ一つのパーツがあまりにも整いすぎている。
ここは異世界だ。本当に神もいるのかもしれない。
それならば…
「欲しいものはない。その代わりに頼みがある。俺を元の世界に、日本に返して欲しい」
俺は昨日魔王軍別働隊を率いて戦った。
レーナもゴブリンたちもとてもいい仲間たちだ。
だが一歩間違えば犠牲が出ていたかもしれない。
そうなった時、俺の心が耐えられる自信がなかった。実際の戦争を戦うのはもう十分だ。やはり戦争はミリオタとして見るだけに限る。
だから今の俺が望むのは元の世界への帰還だ。
女神の微笑みに一瞬影が差す。
どうやら俺を日本に返す気はないらしい。
「元の世界に帰りたい、か。残念だけど今はできないわ。今の魔王軍はとても弱っている。あなたの力が必要なの」
さらに女神は俺の心を読んだように言葉を続ける。
「それに、あなたを慕ったレーナ、それにゴブリンたち。彼らを守るためには優秀な指揮官が必要よ」
この女神はどうあっても俺を魔王軍に協力させる気のようだ。
「それなら力が欲しい。俺と、俺の仲間を守るだけの力が。」
俺はこれからも戦い続けなければならない。
少しでも戦闘力は高めておきたい。
「わかったわ。ならこれをあげる。」
女神は黒い霧を出すと俺に向けて投げつける。
黒い霧は俺の体に当たると、そのまま体の中に入り込んだ。
頭の中に大量の情報が入ってくる。
これが魔法か!
「これであなたは産みの女神の契約者よ。自らの魔力を使ってイメージを具現化すれば、強化属性の魔法は使えるようになるわ」
「自分にバフがかけられるってことか?」
俺は女神に質問する。
「使ってみればわかるわ。そろそろ時間ね。私の可愛い坊や、また会いましょう。」
それだけ言うと女神の姿は搔き消えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「黒騎士殿、魔王様がお呼びです」
魔王の配下に声をかけられ、俺は目を覚ました。かなり長い間眠っていたようだ。
恐らく魔王には、砦攻めについての報告を求められるのだろう。
魔王のいる大広間へと歩きながら、俺は女神との夢について考える。
あの夢は現実だったのだろうか。
「
試しに魔法を唱えてみると、全身に力が湧いてきた。
やはり女神との会話は、実際に起こったことらしい。
つまり、俺は魔王軍の状況が改善しない限り日本に帰ることはできない。
俺は大広間に通された。
召喚された時と違って、俺のほかに大広間にいるのは、魔王とローブを着た赤い魔物の2人だけだった。
召喚時は魔王に恐怖していたが、今は不思議と落ち着いている。
この呼び出しは俺にとって好都合だ。
魔王軍がこのままの戦い方を続けて戦況を挽回する可能性はゼロだ。
人間に勝つためにはこれまでの魔王軍のやり方を捨てる必要がある。
この魔王との対談で俺の主張を伝え、俺は文字通り魔王軍を
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