第37話大丈夫だよ

その日の夜、リリアンナはテスト範囲の復習をしていた。アリスは普段から仕事が多忙な為かいつもリリアンナが夢の中にいる頃に帰ってくる。小さな頃はそれを寂しいと思っていたリリアンナだが流石にそんな事は言えないと幼いながらに思っていた。いまではジャックが一緒に居てくれるおかげで寂しいと思う事はなくなった。

「う〜ん…ここの数式はこれで合ってるよね?」

リリアンナは独り言を呟きながら熱心に問題を解いていく。そんなリリアンナのすぐそばでことり、と何かが置かれる音がした。

「…はい、これ飲んでちょっとは休憩しなよ」

そう言ってジャックはココアを机に置いた。リリアンナは目を輝かせてジャックにお礼を言う。

「ありがとう!ココアいれてくれたんだ」

そう言うとリリアンナはまだ熱いココアをふーっと冷ましながら飲む。

「そんなに喜んで…ココア好きなの?」

「ココア大好きだよ!甘い物はなんでも…でもジャックのいれるココアはすごく美味しくてもっと大好き!」

屈託のない笑顔でそう言うリリアンナにジャックは少し照れながらも嬉しそうに微笑んだ。

「そっか…なら良かった」

「うん!……」

先程まで嬉しそうにココアを飲んでいたリリアンナの表情が少し曇る。

「…どうしたの?」

「あ、いや、なんというか心配で…」

リリアンナはココアを机の上に置き、拳を膝の上で握る。

「あれだけ教えてもらったし励ましてもらったんだから大丈夫、って思いたいんだけど…やっぱり不安で…」

マディス学園のテストはかなり難しく、それでいて今後の将来に関わる事だ。例えどれだけ勉強を頑張っていても不安を感じてしまう。

「あはは…だめだよねこんなんじゃ…せっかく教えてもらったし励ましてもくれたんだからもっと前向きに…」

「大丈夫だよ」

ふと、リリアンナの言葉を遮りジャックは言う。膝の上に置かれているリリアンナの両手を優しく包み込む。

「ジャック?」

「大丈夫、君はいつも頑張っているから…だから大丈夫だよ」

ジャックのその言葉にリリアンナは涙が出そうになるのをぐっと堪える。

「…うん、ありがとう」

それだけ言ってリリアンナは小さく笑った。

…………………………

「や、やっと終わった…」

翌日、怒涛のテストに疲れた様子でリリアンナは溜息を吐いた。けれどまだテストはある。それを考えただけでリリアンナの精神は疲労困憊になってしまう。

「お疲れ様、とりあえず今日は終わったから明日頑張れば大丈夫だよ」

そう言うルイは疲れた様子を見せずにリリアンナの頭を撫でた。

「うぅ~さすがルイ…全然疲れてない」

「あはは、まさか僕も疲れてはいるよ…けどそうだな、今回は自信があるからかも?」

ルイは苦笑する。成績優秀でなんでも完璧にこなすルイはいつだってリリアンナの尊敬する存在だ。

「明日で終わりだから、だからもうちょっと頑張ろう?」

「………うん!」

ルイの励ましの言葉にリリアンナは元気よく答えた。いつまでもこのままじゃいけない。ジャックにもルイにも大丈夫だよ、と言われたのだ。不安を感じることなんてない。

「よし、よぉし!明日も頑張るぞー!」

そう言うリリアンナの表情はいつもの明るいそれに戻っていた。

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